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五ノ話・九
声や音が止んだ。
足音は襖の前で止まり、荒々しく開けられた。
「申し上げます。寺に兵が押し寄せております。
大軍勢にございます」
静けさを切り裂くように、大きな声が響いた。
外の警護をしていた者がひざまずいていた。
この者は灯を持っていたため、周りだけが薄明るくなった。
「どこの手の者じゃ」
信長が問うた。
「明智殿にございます」
その者は膝を着いたまま頭を下げ、悔し気に声を震わせ言った。
「是非に及ばず」
信長はただ一言残すと立ち上がり、壁に立てかけてあった長槍を手にした。
そのまま廊下に出ようとしたところで立ち止まると振り返り、ぐるりこの間を見回した。
そこには、蘭丸を筆頭に不安げな顔の小姓衆がいるばかりで、修羅ノ介の姿はなかった。
さらには、柱に括りつけられていたはずの土地神の姿も消えていた。
信長は何も言わず、廊下を通り抜け、縁側へ出た。