五ノ話・八
修羅ノ介の視線の先にある柱には、みすぼらしい格好の男が一人、括りつけられていた。
それは、この世のものであるか、あるいは幻か、ぼんやりとそこに存在していた。
むろん、この場の者たちは驚いていた。
その柱は御伽語りの前、宴の頃よりそこに変わらずあり、みなの目にも入っていたはずだが、この者は修羅ノ介が言うまでまったく見えなかった。
いつ現れたのか、さらには、これが現実であるかどうかもわからない。
「こ奴には、本能寺の終焉と時を同じくして死んでもらうことになります。
無論、地獄に堕ちるのでございます」
この場の者たちは、なおも言葉を失っていた。
「此度、この本能寺が焼き尽くされたならば、寺は土地神の居ないこの地ではなく、別の場所に建てられることとなりましょう」
修羅ノ介は静かに言った。
「戯けたことを言いおって。さっさと殺してしまえ」
信長が小姓たちに発した言葉が終わらぬうちだった。
じゅっと、微かな音がした。
一本の蝋燭の灯りだけの薄暗い間であったが、一瞬にして闇が訪れ、何も見えなくなった。
場は騒然となった。
「早う灯りを持て。じゃが、修羅ノ介を逃がすなよ」
信長が声を発した時だった。
どたどたどたと廊下を走りくる音がした。