五ノ話・七
「もう逃げられんぞ。きさまも終わりじゃ」
信長が息を切らせながら言った。
その声は、いつにもまして上ずっていた。
だが、追い詰められた修羅ノ介は、なお平然としていた。
「この本能寺は火事により幾度となく焼け落ち、その都度新たに建て替えられてまいりました。
ところで、本能寺が度々炎に包まれるのには、わけがあるのでございます」
「何を言うておる。たすかりたければ、命乞いでもするがいい。
そうしたところで、たすけるつもりなど毛頭ないがな」
信長の顔はさらに険しくなった。
しかし、修羅ノ介は平然としているように見えた。
「先ほど申し上げました不届きな土地神の話でございますが、どうやって生贄となる者を殺すのかと、私はこ奴に尋ねました。
すると奴は、こんなことを言ったのでございます」
修羅ノ介は続けた。
「わしが治める地に建つ寺、本能寺は、隠名を炎寺という。
よって、何度立て替えようと燃えてしまうのじゃ」
土地神は得意げにそう言いました。
この時、私は何故か無性に腹が立ったのでございます。
私はこの不届き者を捕まえると、柱に括りつけました。
そこまで言うと、修羅ノ介は顔を上げ、ちらと目を動かした。
「あちらに見える柱でございます」
みなが、修羅ノ介の視線の先を追った。