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五ノ話・六
一方、信長は取り乱していた。
「嘘じゃ。わしは第六天魔王ぞ。死ぬるはずがない」
信長は叫ぶと、抜いた太刀を振り上げ、修羅ノ介に斬りかかった。
修羅ノ介は座したまま、その体は滑るように横に移り、刃を避けた。
修羅ノ介自身は、まったく動いておらぬように見えた。
信長が振り下ろした太刀は対象を見失い、床を斬った。
耳障りな音がして、刃の先が欠けた。
「逃がすな、殺せ」
信長の命で、蘭丸を含むこの場の者たちが、一斉に修羅ノ介に斬りかかった。
少し前まで御伽師の語りが聞こえていた夜更けの寺に、若い小姓衆の声が響いた。
切羽詰まった悲壮な声だった。
小姓衆は次々と修羅ノ介に斬りかかったが、どの刃も修羅ノ介を捉えることは出来なかった。
「ええい、何をしておる。さっさと殺さんか」
信長の怒号が雷鳴のごとく轟いた。
小姓衆は、なおも修羅ノ介を殺そうと斬りかかった。
修羅ノ介はすんでの処でかわしていたが、とうとう、この間の隅へと追い詰められた。
ぐるり取り囲んだ小姓衆たちは、手にした刀の刃を修羅ノ介に向けた。