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青春と幻想のストラトポーズ  作者: 失木 各人
05/Chapter:"三花-Three Girl Problem-"
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34/Sub:"昼食会"

 ユーリは、大きく息をついた。


「あ、アルマ、ユーリ君!」


 桜が駆け寄ってくる。ユーリは思わずそれを手で制した。


「だ、大丈夫。ちょっと熱中しすぎただけ」


 あと、とユーリは、今度は店員に向かって言う。


「このスーツ、買います」


 隣でアルマが手を挙げながら小さく、私も、と呟いた。

 支払いは振り込みになった。流石に現金の持ち合わせはなかったし、クレジットカードなんて持っているわけはない。アルマもユーリも振込書を貰って、それをATMで支払うことになった。VRの中とは言え、文字通りひとっ飛びした後は空腹を覚え、三人で昼食をとることになった。

 フードコートは賑わっていた。席が見つからないな、とユーリは周囲を見渡していると、アルマがあったぞ、と言う。


「ふふん」


 なぜか、彼女はユーリの方を向いて自慢げに笑みを浮かべた。ユーリは一瞬ポカンとした表情を浮かべると、困ったような笑顔を浮かべて肩をすくめた。こういう時は、背の高い彼女が便利だな、とユーリは思った。

 四人席が空いていたので、そこに三人で座る。ユーリは水を取ってくると言って席を立つと、周囲を見渡す。フードコートの店のラインナップを眺めると、なるほど、国際色豊かなラインナップだった。和食とラーメンの他に、メキシカン、インド料理、タイ、ベトナム、国際色豊かだ。どの店舗も人が並んでいて、賑わっている。水を入れた三つのコップを器用に持って席に戻ると、桜が一人で席に座ってこちらに手を振ってきた。


「はい、水持ってきたよ」

「ありがとう、ユーリ君」


 ユーリは左右を見渡す。アルマの姿は、この近くには見当たらなかった。


「アルマ部長は?」

「順番でご飯買いに行ったよ。次。私とユーリ君で」

「なるほど」


 喧騒の中、二人で向かい合う。何も会話を思いつかずにお互いの顔をただ見つめるだけになっていると、彼女が頬を小さく赤く染めながら顔を逸らした。ユーリは思わず見過ぎたか、と謝罪を口にする。


「ごめん、見つめ過ぎた」

「だ、大丈夫。それは私もだから」


 桜は慌ててかぶりを振った。それでもその眼はちらちらとユーリの事を見ていた。

 なにか話題を、とユーリは考えていると、ふと先程の事を思い出す。フライトスーツの事に関して、ユーリは礼を言うことにした。


「霧島さん。フライトスーツ、ぴったりだったよ。ありがとう」


 ユーリがそう言うと、桜は嬉しそうにほほ笑んだ。


「そう言ってもらえると、マネージャー冥利に尽きるよ」

「アルマ部長が君の目と腕を信頼している理由、何となくわかった気がする」

「それで、実際着てみてどうだった?」


 桜のその問いに、ユーリはフムン、と小さく顎に手を当てた。


「抵抗の低さは十分だ。飛んでいて違和感はなかった」

「気になるところは?」


 少し真剣な表情で彼女が尋ねてくる。先程までの様子からすぐに切り替わったのにユーリは少し驚きつつ、冷静に答えた。


「大推力を出そうとしたときに、一瞬スーツの霊力回路の抵抗が大きくなった気がした。着ていればスーツの方が慣れてくるかもしれないけど、初めは引っかかったように感じるかもしれない」

「あー。新しいスーツだとあるあるだね。うん、霊力を流していれば馴染んでくると思うよ」


 そう言うものなのか、とユーリは思う。ずっとあの一張羅でやってきたユーリにとっては、完全に新しいスーツを着るというのは新鮮な気分だった。いつもアルバイトで貸与されているスーツは、ある程度使い古されたものだ。


「おーい」


 ユーリと桜が声の方を向くと、アルマが戻って来ていた。彼女の手にはアラームが握られている。どうやら、待つことになったらしい。


「じゃあ、僕達も行ってきます」

「アルマ、行ってくるね」

「おう。より取り見取りだったぞ」


 どかっと椅子に座り込んだアルマを尻目に歩き出す。


「ユーリ君はどれにする?」

「あー……」


 ユーリは視線を移す。インド料理はこの間食べた記憶がまだ真新しかった。メキシカンは、自分で作った方が美味しい。そうなると、消去法になりそうだった。


「ベトナム料理か、うどんかなあ」

「麺がいいの?」

「麺でも、さっぱりしたものかな」


 ユーリの腹は決まった。ベトナム料理の、牛肉のフォーにしよう。大盛りにして、春巻きもつけよう。とにかく、多く食べたい気分だった。


「決まったよ」


 ユーリがそう言うと、桜はまだ悩んでいるようだった。


「うーん……どうしようかな」


 桜はユーリの方をちらりと見る。そうして、何か思いついたように目を見開いた。


「うん、冷やし担々麺にしよう!」


 ユーリは、突っ込まないことにした。

 ベトナム料理の店の列に並び、注文を済ませる。牛肉のフォーの大盛りに、春巻き。がっつりと食べるには丁度良さそうだった。ベトナム料理は辛くない物が多い。あまり辛い物の気分ではなかった。

 アルマと同じようにブザーを貰って、席に戻る。どうやら先に桜の方は注文が先に済んだらしく、アルマと桜、並んで会話を楽しんでいた。どこか居心地の悪さの様なものを感じつつ向かいにユーリは座る。居心地が悪かろうが、ここで一人別に食べるというのは違う気がした。


「ただいま」

「遅かったな。混んでいたのか?」

「思ったより、ですかね」


 ユーリはそう言うと、コップの水を飲んだ。冷たい水が喉を流れ落ちていく。ごく、ごく、と喉を鳴らして水を飲み干していくと、すぐにコップは空になった。もう少し大きければなあ、とユーリはコップを持って立ち上がる。


「水汲んできます」

「私の分も頼む」


 アルマが自分の分のコップを渡してきた。ユーリはそれを受け取ると、水を汲みに行ってすぐに戻ってきた。


「うむ。有難う」


 そう言ってひょいとアルマがユーリの手元からコップを取り、ごく、ごく、と飲んだ。

 あれ? とユーリは小さく首を捻る。アルマが取ったコップ、ユーリが使っていたコップの様な気がした。そんなユーリの疑問も他所に、アルマは勢いよく水を飲み干した。


「ぷはぁ、やはり喉が渇いた」

「もう一杯飲みます?」


 ユーリがコップを受け取ろうとするが、アルマはそれを手で制した。


「いいや、流石に自分で注ぎに行くさ」

「下のスーパーで飲み物買ってこようか?」


 桜が言うと、アルマが頷いた。名案だった。


「私が行こう。麦茶でいいか?」

「うん。僕もそれがいい」

「私も麦茶がいいかな」

「分かった。手っ取り早く行ってこよう」


 そう言ってアルマは立ち上がると、小走りで去っていった。再び桜とユーリが残される。

 再び、二人の間で沈黙が流れた。どうするか、とユーリは話題を考える。そしてふと、ある事に気付く。


「そう言えば、霧島さんとアルマ部長――」

「待って」


 桜がびし、とユーリを静止する。何事かと思ったユーリが思わず口をつぐむと、桜は覚悟を決めたような表情でユーリを見つめた。彼女の右目が、ボンヤリと金色に光っているように見えた。


「私、ユーリ君の事、ユーリ君って呼んでるよね」

「う、うん」

「ユーリ君が私の事、霧島さんっていうの、不公平だよね?」


 そうかな、そうかも。ユーリは咄嗟の物言いに混乱しつつも、小さくため息をついて彼女の提案に乗ることにした。どっちにしろ、そちらの方がユーリにとっては慣れている。


「――桜さん」

「……まぁ、いっか」


 なんだか腑に落ちないような物言いの桜を無視して、ユーリは話を続ける。


「桜さんとアルマ部長、昔からの知り合いだったりするの?」

「どうしてそう思うの?」

「いや、これはただの勘」


 ユーリがそう言うと、桜は驚いた表情を浮かべ、そしてそれからほほ笑んだ。


「うん。アルマは、幼馴染なの。家が近所で」


 姉貴分だったよ。そう言う桜の表情は、親愛の表情だけではないのはユーリにも流石に分かった。


「そうなんだ。仲が随分いいな、って思って」

「ユーリ君と、アンジェリカさんも、同じように見えてると思うよ?」


 そう言うものなのか、とユーリはふと思う。ユーリとしてはごく自然な距離感であると思っていたが、周囲から見るとそう言う風に見えるのかもしれない。改めて、第三者視点と言うのをユーリは再び意識した。


「だから、桜さんはアルマ部長の隣に立ちたいんだね」

「うん。だから飛行部のマネージャーになった、っていうのもあるよ」


 それに、と桜は呟く。その表情にユーリは見覚えがある。恋慕。


「アルマが飛んでいるのを、近くで見ていたかったから」

「……いいじゃないか」


 ユーリがそう言うと、桜はそのままユーリの方を見てくる。その瞳には熱が籠っていて、ユーリは一瞬小さくドキリとした。


「ユーリ君が飛ぶ姿も、素敵だったよ」

「ありがとう、と言っておくよ」


 ユーリは肩をすくめて、コップに口をつける。湿ったコップのふちの感覚が、いやにはっきりと感じられる。


「アルマとユーリ君、二人で並んで飛ぶ姿、大空によく映えるんだ」

「そう見えるかい?」

「アルマはずっと、ユーリ君に追いつくんだ、って言っていたけどね」


 そこで、ユーリはふと思う。ここで、アルマがなぜユーリにここまで執着するのか、桜に尋ねることはできないだろうか、と。そしてすぐに彼はその考えを心の中で却下した。

 彼女にとって大事な理由であるのなら、こういう形でユーリが知るのは、彼女にとって望まざる結果となるだろう。ユーリが思い出すのが最も良い結果になるであろうだが、それが望めないのならアルマの口から直接聞くべきだろう。そうしたら、忘却に対する謝罪も、ユーリはする覚悟でいた。

 少なくとも、アルマからはそのような気迫を、既にユーリは感じ取っていた。


「ユーリ君はさ」桜はどこか探るような口調で、ユーリに尋ねる。「アルマの事は、どう思ってるの?」

「どう、ってのは?」

「好き?」


 ユーリは、思わずむせた。


「きゅ、急に何を」

「いや、ただ純粋に気になっているだけ。私とアルマ、付き合ってるから」


 もう一つ投下された爆弾は、地中貫通弾のようにユーリの頭をガツンと打った。だが、理性が訴えかける。なんとなくそんな気配はしていたじゃないか、と。


「好きと言うか、翼を並べるものとしては、好ましいと思っているよ」

「あ、ずるーい。そう言う言い方」

「ゼロサムで物を語らないで欲しいかなあ」


 ユーリはコップに残った水をぐびぐびと飲み干した。向かいの席では、桜がニコニコと彼の方を見つめている。ユーリは、それ以上何も語る気になれなかった。


「待たせたな」


 そうやってしばらく待っていると、アルマが戻ってくる。彼女の手には麦茶のボトルの入った袋。桜の隣に座ると、彼女は全員に麦茶を注ぎ始める。そしてアルマは、どこか様子のおかしいユーリに気付く。


「どうしたんだ、ユーリ?」

「……なんでもないです」


 なんだかこの二人に関わると、疲れる気がする。ユーリは意識が遠のく気がしたが、それは注文の出来上がりを知らせる無機質なアラームで、強制的に現実世界に引き戻された。


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