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令嬢と美青年

今回は短めです。


「魔術について、聞きたいことがあるんですが」

 エルフリーデとナイセ、ナイセに関わるだろうリッターシュ侯爵家、ミーナ殿下に婚約を迫っているビーネンシュティッヒ公爵家についての情報収集はルドルフ様が、他の貴族たちの情報収集は私が行うことにして、出来るだけ手紙のやり取りをすると決めた後、私はルドルフ様にあることを質問した。



「ゲームの中での魔術って、どんな感じだったんですか? こちらと同じだったんですか?」

 この前ヒンメル先生に聞いたことを思い出しながら尋ねる。

「うーん、どうだろう。魔術については、細かい描写は殆どなかったんだよね。美少年に萌える為の恋愛ゲームだったから」

 嫌な予感がする。

「……剣と魔法の世界っていう設定じゃなかったんですか?」

「騎士がチラホラ出てきたり、エルフリーデ(ヒロイン)がチラっと魔法を使うシーンはあったよ」

「殆どが色恋の描写じゃないですか?」

「美少年に萌えるためのゲームだったからね。一応ヒロインはいたけど。ちゃんと美少年同士の友情とか、美少年の葛藤とか、美少年の成長とかも描かれていたんだよ」

「学生っていう設定だったんですよね? 恋愛しかしてなかったんですか? 勉強は?」

「授業風景も少しはあったよ。ダンスの授業で美少年と踊ったり、授業で活躍する美少年を見守ったり。あと、図書館でバッタリ美少年に会ったり、テスト前に美少年と一緒に勉強したり、食堂で一緒に食事をしたりも出来たよ」

 おい。

「デートをするために学院に入るんですか?」

「青春するためじゃないかな?」

「その青春のせいで、私の人生は真っ青になるんですよね?」

「ハーフェルナちゃん、上手いこと言うねー。でも真っ青って言うより、真っ黒じゃない?」

 ……死ねばいいのに。

 私は転生してから、初めて殺意を抱いた。




「でも、何だかんだ言って、ハーフェルナちゃんはこっちに順応してるよね? 前世を自覚してから、それまでと性格が変わったとか言われなかった?」

 ルドルフ様は全く悪びれずに、そう聞いてきた。


「全く言われませんでした。というか、前からずっとこんな感じですし。口調も同じですから」

「えっ。大人びてるとか冷静過ぎるとか変わってるとか、言われなかったの? 子供らしくないとか」

「? 言われませんでしたよ。『ハーフィは私の子供の頃にそっくりだわ』とか『しっかりしてるのにたまに甘えてくれるハーフィは本当に可愛い、最高だ』とか『黙って頑張るハーフィはカッコいいし健気で可愛い、最高だ』とかは言われてきましたけど。家族仲は変わらず良好です」

「シュヴァルツヴェルダー公爵って……」

「?」

「じゃあ、ハーフェルナちゃんがキルシュトルテ語とデセール語、それから数学と化学の基礎課程は修めた事とか、礼儀作法もダンスも刺繍も得意な事とかは、チートじゃないの?」

「チート?」

「えーと、この場合、前世の記憶や経験のお陰で、こっちで楽をして多大な成果を上げる、って感じの意味?」

「あまり前世の経験が役に立っている気はしないのですが……。語学と歴史はゼロからに近いですし、というか前世を自覚する前は完全にゼロからでした。理系の科目もそうです。そもそも受験に使わない教科をそこまで覚えていられません。それが出来たら前世でもそこそこのチート状態?だったと思いますよ?」

「あー、うん……言われてみれば……」

「礼儀作法とかダンスに至っては、完全に未経験でしたし。刺繍にしたって、似たようなものです」

「ハーフェルナちゃんて、頑張り屋さんだったんだね……」

「私を何だと思っていたんですか? 確かに多少頑張ってはいますけど、環境に因るところが大きいですよ。あれだけ時間とお金を掛けて貰えれば、誰でもある程度は結果が出せます」

「シュヴァルツヴェルダー公爵が物凄く張り切って色々用意する様子が目に浮かぶよ……」

 遠い目をしながら勝手に想像するのは止めて欲しい。



「そう言うルドルフ様はどうなんですか? 前世を思い出す前と後で、不審がられませんでしたか?」

 私だけ変わり者扱いされるのは納得がいかない。

「僕も殆ど変わらないなぁ。兄上と違って、帝王学を徹底的に叩き込まれてきた訳でもないし。王族としての教育はずっとされてきたけど、王子って言っても第二王子だからね。元々そこまで目立ってなかったし、目立ちたいとも思ってなかったんだ。今と同じで必要最低限のことはやっていたけど、絵を描くのは前から大好きだったから、これといった違いはないよ」

「絵の腕は、前世の影響じゃないんですか?」

 さっき見た絵柄が脳裏を掠める。

「違うよ。前世では創作活動までは出来なかったから。でもこの世界の王侯貴族にとって、絵を描くのが芸術的嗜みで良かったよー。王宮に画材が揃っているって、素晴らしいね」

 ルドルフ様も現世の環境に恵まれていたらしい。

「……BLの趣味は前世の影響ですよね?」

 さっき見た美少年二人が見つめあう絵を思い浮かべながら、核心を突く

「前々から綺麗なものは好きだったから、何とも言えないなあ。キルシュトルテでは同性間の恋愛も、そこまで疎まれていないしね」

 良くも悪くも、前世の記憶に意味がない気がしてきた。




 そのまま悶々としながらハーブティとベリーのタルトを味わっていたが、

「あ、そうだ!」

 と、目の前から素っ頓狂な声が聞こえてきて、フォークを置く

「僕の護衛騎士と従者を紹介するのを忘れていたよ。ごめんね。今日は朝からずっと絵のことで頭がいっぱいだったから」

 そう言ってルドルフ様は、離れた所にいた2人を呼んだ。そうだ、どうせなら私もアンナを紹介しよう。


「まず僕の従者、フィデリオ。僕がまだ王領にいた5歳の頃から、僕に仕えてくれているんだ」

 ルドルフ様がそう紹介すると、執事服のようなお仕着せを着た若い男性が、一歩前へ出て挨拶をした。

「フィデリオ・フォン・オースターハーゼと申します。ルドルフ殿下の従者をしております」

 黒に近いダークブラウンの髪をオールバックにし、ブルーグレーの瞳が涼し気だ。

「ハーフェルナ・フォン・シュヴァルツヴェルダーです。フィデリオさんは、オースターハーゼ子爵家の方ですか?」

 私も淑女の礼をとって挨拶を返すと、フィデリオさんはやや驚いた顔をした。

「当家をご存知でしたか。オースターハーゼは私の実家にございます。今は兄が当主を務めておりますが、子爵家とは言っても領地を持たない小さな家ですので、ハーフェルナ様にご存じ頂いていたとは、光栄です」

「オースターハーゼ子爵は大学で素晴らしい研究されていて、フィデリオさんも魔術使試験に学院在学中に合格されたと聞いています。優秀な方が身近にいる殿下が羨ましいです」

「恐れ入ります」

 貴族名鑑を読んでいて良かった。


「次に専属護衛騎士のアイテル。王宮に来た8歳のときから、務めてくれている」

 キルシュトルテ近衛騎士軍の軍服を着た青年が前へ出て、綺麗な騎士の礼をとる。

 赤みがかった茶色の髪に、ヘーゼルの瞳で、フィデリオさんよりも若そうだ。

「殿下の専属護衛騎士を務めます、アイテル・リッター・フォン・ズッカールです。近衛騎士軍では第一近衛騎士師団に所属しております」

「ハーフェルナ・フォン・シュヴァルツヴェルダーです。騎士の雄として名高いズッカール家のご当主に専属護衛騎士をして頂けるなら、ルドルフ様も心強いでしょうね」

 アイテルさんにも、淑女の礼をとる。

「シュヴァルツヴェルダー中将のご息女にそう言って頂けるとは、騎士冥利に尽きます」

 お父様に近衛騎士軍(職場)の話を聞いておいてよかった。


「私からも、侍女を紹介させて頂きます。アンナ、こちらへ」

 2人との挨拶が終わって、一度後ろに控えるアンナに視線を向けてから、3人に紹介する

「ハーフェルナお嬢様の侍女を務めております、アンナ・ヴルカーンでございます。今後はハーフェルナ様が殿下とご一緒する機会も、()()()()()()多くなると思いますので、以後お見知りおきを」

 アンナは美しい淑女の礼(カーテシー)をした。

 ルドルフ様の側に仕える2人が、揃って意味もなく美青年でも、全く見劣りしない。

 流石は我が家の万能侍女だ。


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