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側近の日常

 


「きゃー!見てエドワード様よ」

「いつ見ても麗しいわ」


 いつか見たデジャブを繰り返しながら、エドワードならぬレイチェルは、長い廊下を歩いていた。

 違うと言えば、

「それにしても・・」

「ええ。エセルバート殿下の側近になったって本当だったのね」

「ああ、お二人とも麗しいわ!!」

 黄色い悲鳴をどこか遠くに聞きながら、レイチェルは恨めしげに少し前を歩く新しい主人、エセルバートを見上げる。

 艶やかな黒髪は、光に当たって青みを含む。右は紺青色、左は金褐色は見る人を魅了するオッドアイ。スラリと伸びる肢体に、鍛えられた身体。赤薔薇色のベルベットのコートは、青色の縁取りをされ、美しい彼に似合っている。美しいと思ってしまう自分にも、嫌気がさしながら、レイチェルは浅くため息を吐き出した。

「なんだ?エド」

「いえ、何も」

 エセルバートに切れ長の瞳で怪訝そうに見下ろされる。それに小さく首を横に振って答えてから、レイチェルは再び歩き出した。

 さて、今日は彼の側近になって5日たった。なんの変哲もなく、側近らしく書類の山の整理を手伝い、毎日決まった時間に昼食が準備され共に食べ、また書類と向き合い、アフタヌーンティーをいただき、また書類とにらめっこし、そんなありきたりの日々が続いた5日目の今日、何故かエセルバート共に執務室を出て、歩いている。

 今日の朝、いつも通りエセルバートに朝の挨拶を済ませて、いつも通り書類の山の整理をして、そこから昼食を食べて、と、いつもならこのまま書類と再び向き合うのだが、「今日は昼から私についてこい」と、まったく前置きなくそうエセルバートに言われ、現状況だ。

(だいたい、行き先も言わずってどうなの?)

 まったく行き先も告げられず、ただついていくしかないレイチェルは、そのことに少なからず苛立ちはあった。だいたい、自分は側近になったのだ。それは信用という名のもとの代名詞である。

(まあ、仕方ないわ。私も初日からそれなりの条件をのんでもらったし・・)

 我慢するのよ、我慢。自分に言い聞かせるように頷いた。







「――わかりました。」


 しっかりと頷いてから、レイチェルは賭けに出た。兄エドワードが約束したことだけれど、今のレイチェルはエドワードなのだから本当だったらこんなこと言ってはならないのだろう。けれど、どうしても譲れないものがある。

「約束は果たします。必ず・・ですが、果たした暁にはリディアンヌ殿下の親衛隊に戻して下さい!」

 はっきりと口にしたレイチェルは、ぶれない芯のある声で告げた。その双眸はエセルバートの視線とぶつかる。けれど今度は引かなかった。ふいに、彼が切れ長の瞳をスッと細めてみせた。

「・・面白い。いいだろう、その願い聞き受けた」

「そうですよね・・無理ですよね・・・・・・っっえええぇえ?!」

「なんだ?不服か」

 フッと、何故だか笑みを浮かべた彼に、慌てて首を左右に振る。

「いや!そんなことは全然!」

 必死に募るレイチェルに、彼はさらに笑みを深める。反対に簡単に願いを聞き受けてくれたエセルバートに、レイチェルは唖然とするばかりだった。


 


 結局その日はそのままお開きになり、後日から普通に側近として普通の仕事をしている。会話もまあ、それなりにしていると思う。

 けれど問題なのはその約束事の内容だ。それすらわからないレイチェルはただただ、なすすべなく現在に至るのだ。

(聞くわけにはいかないのよね・・・)

 なんてったって、レイチェルはエドワードで、約束をした本人(ニセモノ)なのだから。

 当然、よそへ思考を飛ばしていたレイチェルは考え事をして、難しい顔をしながらエセルバートの後ろをついて行ったわけだが、その顔を面白そうに前を歩く彼が見ていたなんて知るわけもない。



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