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二十三話《キスをする変人》


 宴さんの肩に手を触れ、僕が勝利の宣言をしたその時だった。

パチパチパチと、拍手の音が聞こえた。

どこからかと、音の聞こえる方を見ると、そこには男が立っていた。

優しそうな顔で、穏やかな目でこちらを見ている。

見るからに、好青年って感じである。


「随分……やるじゃねえかぁ。ライバル」


すると、男は外見とは似合わないような声と口調で僕の方を向き、そう言った。


「おっと、勝手にライバルと呼ばせてもらうゼェ?」


僕が……ライバル?


「今はまぁ……動けそうにも、話せそうにもねぇなぁ……。でも、まぁ良い。明日にでもまた会いに来るか」


だいたい、こいつ誰なんだ?

急に現れたと思ったら、僕をライバルと呼ぶなんて……。


「君……何者?」


すると、宴さんは僕の代わりのように、そう男に質問した。


「能力者だ……!」


男はニヤリと笑いながら言う。


「へぇ……でもさ。私たち、まだ戦いの余韻に浸りたいから能力者さんはどこかに行っててくれないかな?」


そう言ってギロリと睨み、宴さんは男を威圧する。


「…………っ! 慈宴さんに言われちゃあ仕方ねぇなぁ……。あんたには流石の俺もぉ、勝てそうにねぇ。帰らせてもらうとするぜぇ……」


男は言って、消えるように去っていった。

なんだったんだ?


「さて……と、邪魔者は消えたね」


宴さんがそう言って僕に話しかける。

が、僕は話すことすら出来ないので、首を少しだけ縦に降る。

この動作も、結構痛むが仕方あるまい。


「うーん、ま……さか。負けちゃうなんてね。絶対無理だと思って、肩に触れろって言ったのに、あああああ! 油断した。

でも、約束は約束だ。ルールはルールだ。

君の妹は、見逃してあげよう……」


宴さんはそう言って、ニコリと笑う。


「影入ちゃん……だっけ? 早くこの子連れて帰ってあげないと、死んじゃうよ?」

「え、あ、わか、りました」

「じゃあ、私は帰るねー、依頼主に言い訳考えないと……バイバーイ!」


宴さんはぶんぶんと手を振り、そして帰っていった。

その後、影入に重たい体を乗せてもらい、つまり背負われて、秋宮君の家へとたどり着いた。


「誰だ? こんな時間に」


言って秋宮君は出てきて、ボロボロになった僕を見て驚く。


「ど、どうしたんだよ! えーっと……影入、こいつどうしたんだ?」

「う、宴さんと戦って、なんとか勝ったんですけどぉ……ボロボロになりましたぁ」

「ったく、世話がやけるぜ。待ってろ、今すぐあの水を持ってきてやっから」


走って家の中に秋宮君は入っていき、数分。

秋宮君は汗を少しかきつつ、水を持ってきた。


「影入、手伝え。急いで飲ませるぞ」

「ひゃ、ひゃい!」


言って二人は協力し、僕に水を飲ませてくれた。

まだ少し痛むし、傷は残るものの、少しずつ回復していくのが分かる。

そして、二人はある程度僕が治ったのを見た後、二人で僕を担ぎ、秋宮君のベッドに僕を寝転がせてくれた。


「あ、ありがとうね。秋宮君。それから影入も」


やっと声が出るようになったので、僕はそう言って礼を言った。


「……ん、あぁ。でもこりゃあ、二日は動けねえなぁ……身体の骨の殆どがボロボロだ。脚に関しちゃあ、骨じゃなくてもう粉だぜ? これ」

「流石のフェニックスの水とは言え、すぐには治らないか……」

「まぁ、仕方ないだろ。生きてるだけで奇跡だ。二日間ここで泊まっていけ。しっかり治してやっから」

「だね……。あ、でも妹たちが心配するからら、電話させて貰っていいかな?」

「んー、まぁ良いけど、明日の朝にしておけ。今の時間じゃあ誰も起きてねえよ」

「確かに……わかったよ」


全く……頼りになる親友だ。

そんなことを思いながら、僕は壮絶な眠気に襲われ、眠りに落ちた。



 昨日、寝る前にカーテンを閉めて行ってくれなかったせいで、僕は日の光で目覚めてしまった。

まだ眠たい……けれども、仕方ない。

起きるとしよう……僕は二度寝は好かない。

目を擦りながら、あくびを一回。

うーん、そういえば身体が動かないんだった。

自由利かないなぁ……不自由だなぁ……。

それよりお腹空いたなぁ……。

それにしても……僕、あんな形とはいえ、宴さんに勝ったんだな。

妹を……京歌を、守れたんだよな……。

そういえば、昨日のあの男はなんだったんだろうか?

能力者……とは言っていたよな?

僕のことをライバル呼びしていたけど、どういうことだろうか?

うーん……分からない。

一度会ったこと……あったかな?

僕の記憶力の不確定さじゃあ分からない。

会ったことないと思うけどなぁ……。


「大丈夫? あー君」


突然、そんな声が聞こえたと思うと、扉を開けて、無月が立っていた。


「無月! どうして……ここに?」

「秋宮さんから連絡が来たのよ。あー君が死にかけたってね。それで急いで準備して来た訳」

「……ありがとう」

「感謝しなくていいわよっ……か、彼女なんだし」


言いながら、無月は顔を赤らめる。


「心配かけたようだね。今回も」

「うん……」

「ごめん……」

「全く……あー君が死んだら私も死ぬわよ?」

「……それは困ったなぁ」


冗談じゃなく、本当に死にそうだ。

無月、ヤンデレ気質だから……。


「あー君っ!」

「え、はい?」


どうしたんだ? 無月。


「あの……いつ、こういうことが出来なくなるか分からないから、しておきたいことがあるのよ」

「しておきたいこと?」

「えっと、あの、彼氏彼女がやることよ……」

「ん?」


彼氏彼女がやること?


「キ、キ、キシュ……っよ!」


あ、噛んだな。


「キスのこと?」

「そ、そうよ」

「良いよ。キス……しようか」


無月は首を縦に降る。

うーん……しようかって言ったけど、恥ずかしいなぁ。

えっと、こうかな?

目を瞑り、僕は顔を無月に近づける。

距離は縮まり、唇と唇が触れる。

ふと目を開けると、無月の顔は真っ赤になっていて、可愛らしい。

多分、僕の顔もこれくらい赤くなっているだろう。

なんというか……幸せを感じる。

好きな人とのキスが、ここまで幸せを感じさせるなんて思ってもなかった。

数秒、その状態が続き、唇が離れる。


「す、好きよ……あー君」

「僕もだよ。無月」


二人で息を漏らしながら言う。

どうしよう、無月……凄い可愛い。

僕の理性が崩壊しそうだ。

そう思った時だった。階段を上がってくる音が聞こえた。

秋宮君だろう。

全く、雰囲気ぶち壊しだよ……。


「よ! 大人しくしてるか?」


秋宮君はそう言って入ってきた。


「うん、まあね。無月の顔が見れたし、回復が早まったような気がするよ」

「そうかぁ……お前ら恋人同士だもんなぁ。ったく、羨ましい限りだぜぇ。俺には女っ気の欠片もねえからなぁ……」

「秋宮君は外見怖いからね」

「うーん、そんなに怖くしてるつもりはないんだけどなぁ……」

「ま、性格は良いし、いつか出来ると思うよ?」

「なんだ、彼女がいる余裕って感じか?」

「まあね」


言って僕は笑う。

続いて、秋宮君、無月と笑う。

三人で、笑いあう。

こんな平和で、笑顔のあふれる生活を、ずっと続けられたら良いな……と僕は思う。


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