二十話《笑っている変人》
「やあやあ、お久しぶりです。お兄ちゃん」
最初に玄関に入ってきたのは長女、美惑。
少し身長が伸びたかな?
「お兄ちゃんお兄ちゃん! 久しぶり!」
そう言って上目使いで僕を見るのは次女、京歌。
うーん……あざとい。
でも、可愛い。
あ、この可愛いは妹としてだよ?
あくまで妹としてだよ?
「久しぶり、兄さん。彼女とか作っていないよね? 作ってたら消すけど」
そんな物騒なことを言うのは三女、猫夜。
パーカーに……よかった。パンツだけじゃない!
さすがに、外に出るのにパンツだけはないよね。
うん、よかったよかった。
僕の妹が捕まらなくて良かった。
「久しぶりだね。美惑、京歌、猫夜。三人ともゆっくりしていくといいよ」
夜になった。妹たちと、昔の思い出やら、最近あったことなどを話していて、気づけばこんな時間でビックリした。
仕方ない。三人分だ。
聞く話も多いだろう。
「兄さん」
夜ご飯を食べてそこそこ経ったくらいだろうか? 部屋で読書をしていると、そう言って猫夜が入ってきた。
「どうしたのかな?」
「本当に、彼女。いないよね?」
「また聞くのか……」
この質問、因みに今日だけで二十三回目である。
「さっきから女の気配を感じるんスよね」
「……気のせいじゃないかな?」
くっ、こいつ! 今、透明になって僕の部屋で隠れている無月をも見抜くというのか……。
「オレのこと騙したら、彼女もろとも消すよ」
「……可愛い可愛い妹を騙すだなんて真似、僕には出来ないよ」
……と言いつつ、今騙しているのだが。
うーん、心が苦しい。
「え、あ、可愛い……? オレが……?」
「ん? どうしたのかな? 猫夜」
「何でもないよ……」
ふーん……。
「あ、猫夜。久しぶりに格闘ゲーム一緒にやらない?」
「うん、いいよ。まぁオレには勝てないだろうけど」
「わかってるよ。でも久しぶりに可愛い妹と遊びたいじゃないか……」
「え、また可愛いって……」
急に猫夜は顔を手で覆った。
「ん? さっきから本当に大丈夫かい? 猫夜。疲れてるなら無理せずに寝てもいいよ?」
「…………はっ! そうっスよ兄さん。オレは兄さんエネルギーが足りてなくて、疲れてるの」
兄さんエネルギーって何だよ。
「だから! 今日は兄さんと寝たい」
「え?」
何を言っているんだ、この妹は……。
「だーかーらー、兄さんと寝たいんスよね」
「……えーっと、つまり僕は妹と寝ろと?」「うん」
誘っているのかこの妹は……妹とはいえ目の前に胸があれば僕は揉むぞ?
揉んでしまうぞ?
それでいいと言うのか? この妹は。
「猫夜は、僕が常に妹の胸を揉もうとしているのを知っているだろ? それなのになんで……」
「別に揉んでもいいよ」
「……」
どうしよう……さっきはあんなことを言ったけど、いざ揉んでいいとなると萌えないし燃えない。
「えーっと……うん、そうだ。猫夜、僕は君を襲うかもしれないよ?」
「いいよ」
「受け入れちゃった⁉︎」
どうしよう、この妹。
え? 他の人にもこんな感じなのかな?
大丈夫か、僕の妹。
妹の貞操は僕が守るしかないと言うのか?
「えーっと……猫夜」
「なに?」
言い訳が……良い言い訳が思いつかない。
妹と寝ない口実、妹と寝ない口実は……!
「今日は一緒に寝ようか」
思いつかなかった。
「うん」
猫夜はそう返事をしてから、風呂へ向かった。
どうしよう……妹と寝ることになってしまったぞ。
揉みたくもない妹の胸を揉んでしまわないといけないじゃないか……!
はぁ……嫌だなあ。
夜になり、猫夜とベッドに入り、猫夜の胸を揉もうとしたが、透明の無月に無理やり止められ、しぶしぶながら、僕は寝た。
けれども、ゆさゆさと揺らされ、僕は起こされた。
「ん?」
「あーくん、大変よ」
「どうしたのかな、無月」
まだ深夜だぞ。
「あーくんの妹の京歌ちゃんがこんな時間に一人で外に行ったわ」
「え? 京歌が?」
どうしたんだろうか? そんな子ではなかったはずだが……。
「わかった。僕はこの辺を探してくるよ。無月も手伝ってくれ」
「ええ!」
僕は無月とともに、美惑や猫夜を起こさないよう、外に出た。
やはり深夜、夏だというのに少し肌寒い。
が、そんなことは気にしている場合でない。
今は妹を、妹を探さないといけない。
とは思ったものの、三時間探しても、京歌を見つけることは出来なかった。
その後、無月と集合したが、無月も京歌は見つけられなかったそうだ。
「はぁ……」
思わず溜息を吐きながら、僕は不安に襲われる。
なんなんだ……これは。
どうすればいいんだ。
僕の不注意だ。
僕が悪いんだ……。
「ごめんなさい、私が止めていれば……」
そう言って無月は僕に頭を下げた。
「無月は悪くないよ。悪いのは僕と僕の妹だ」
「でも……」
「うるさいな! なら過去にでも行って止めてくればいいだろ!」
あ…………。
「ごめん、無月。僕は最低だ。八つ当たりして……」
「家族がいなくなったのだから当然よ。何も悔やむことはないわ」
「……こんな時、何でも知ってる人がいれば」
「何でも……知ってる人? いるじゃない!」
「え?」
「蒜燈さん! あの人なら!」
あ、そうか!
「そうか! 蒜燈さんなら絶対に分かる! 幸いなことに、今月はまだ蒜燈さんに頼ってない! よし、じゃあ早速蒜燈さんの家に行こう」
「ええ!」
それから、僕たち二人は走って蒜燈さんの家へと向かった。
空は段々と明るくなっていく。
もう夜が明けるような時間なのか……。
「キャっ!」
すると突然、無月はそう言って転んだ。
「大丈夫かい? 無月」
「ええ、何かに転んで……」
何か? 僕は無月の足元を見る。
え……これってもしかして。
「死体……だ。これ、死体だよ」
そう、無月の足元には、死体が落ちていたのだ。
見ただけで死んでいると分かるほどの重傷を負った死体が落ちていたのである。
そしてやはり目に入るのは血。
「凄い血ね……これは酷いわ」
無月もそう言って口を抑えた。
「あれ……この血、道みたいにあっちのほうに伸びているけど」
「なら犯人が近くにいるのかもしれないわね」
「……なら、京歌が危ない」
「あっ……」
「……っ、蒜燈さんの家に行く前に、この道を、この血の道を辿ってみよう。犯人がいるかもしれない」
僕は血を辿る。血の道を辿る。
そしてその血が途切れた先には、女の子がいた。
可愛いらしい、女の子。
「あれ?」
その女の子は、そう言ってこちらを振り向く。
というか、その女の子は……京歌だった。
「京歌……」
「あれあれ? お兄ちゃん。こんなところでどうしたの? 奇遇だね」
「お前……そんなに服に血がついて」
「ああ、うん」
「大丈夫だったか? 何をされたんだ?」
「うん? 何もされてないよ?」
「へ? なら京歌はこんなところで何をしているんだい?」
僕が聞くと、京歌はとんでもないことを言った。
戯言だと、虚言だと思いたいところである。
「さっきね。男の人を殺したらね。血がピューっと出てね。今帰ってるところ」
京歌はニコリと笑った。




