僕たちの力を合わせれば
「おじいさんの話だと、天海さんは人それぞれが持っている魂の記憶をアカシアで見ることができるそうです」
「アカシアには、私たちの経験・体験の記録がぜんぶ集まるって言ってたもんね」
「つまりは、梓さんの恋人が直に答えてくれたというわけではないけれど、恋人の記憶が作り出した言葉っていうことなのか」
その『言葉』が書かれた手紙を、ここなが梓の元にタイミングよく運んでくれた。
楓と梓はここなの姿が見えない。そして逆にここなも二人が見えない。
だから、ここなは僕の位置を参考に、だいたいの目測で梓の場所に手紙を運んでくれたことになる。
結果的に、その場に一緒にいた恵利華には、手紙が風で運ばれたように見えたのだから、成功だろう。
「梓さんが手紙を読んだ後、カメラに天海さんが映らなくなったじゃない?あれはどういうことなの?」
「あの場所で心霊写真が映るのは『CWC』のせいだったから、もう『CWC』が起きないように天海さんの方で対処してくれたんだ。だから、もう今後は、天海さんがカメラに映り込むことは無いよ」
「えぇ、マジかよ。俺のオカルト現象No4が欠番になったぁー!!」
隼人が残念そうに騒ぐから、僕は例のごとく、苦笑いするしかない。
「みんな。今回のことは本当にありがとう」
恵利華は僕たち4人の前に向き直って、改まって大きく頭を下げた。
「楓に相談された時、ただどうにかしてあげたいって思ったのに、自分ではどうしたらいいか分からなかった。でも、みんなに相談できて、お姉さんに変化が起きて、そして楓が心から喜んでた。それが本当に嬉しい」
「俺だって、嬉しいぜ。恵利華が相談してくれて、そしてみんなで解決することができたんだからな!」
「また何かあった時は、こうしてみんなで助け合おうね!」
「そうです。私も誰かの力になれるのは嬉しいです」
隼人、ここな、しずくが恵利華にそれぞれ声をかけて、4人は揃って僕を見た。
「まぁ、それには結人が必須ではあるけどな」
「そうね。今回の件も、結人が居なかったら、解決できなかったわね」
「結人くんは私と出会ってから、ずっといろいろな相談に乗ってくれてるよね」
「おじいさんも、結人さんのことは信頼できるって言ってました」
僕は4人のそれぞれの顔をみて、恥ずかしいような、嬉しいような、何とも居たたまれない気分になる。みんなの表情から、僕への真っ直ぐな思いを感じ取る。
それなのに、僕はその真っ直ぐな思いに向き合えていないと思わされる。
「僕からしたら、みんなが居たからこそだって思ってる。だからこれからも、みんなで協力していけたらって思ってるよ。だけど、まず先に、みんなに謝らないといけないことが実はあるんだ」
「謝りたいこと?」
「この家には2階に開かずの部屋があるだろう?実はテルから、その部屋の鍵を受け取ったんだ」
「2階の奥にある、あの開かない部屋の鍵?」
ここなが聞いてくる。
「そうなんだ。それであの部屋の中には、父さんが僕に託してくれた書物や資料がたくさん在って、実はテルに、その部屋には僕以外入ってはいけないし、部屋の中にあるものは僕しか読んではいけないと言われているんだ」
「へぇ、結人しかダメなのか。ちなみにどんな内容なのかも教えられないのか?」
「僕が読んで、みんなに伝えるは良いって。あの神社の門が世界の変換装置であることも、それで知ったんだ。あの部屋の中には、この世界の仕組みについて研究したような内容が詰まってる」
「へぇ、それは面白そうだな!」
隼人が興味津々な目をする。
「隼人……、だけど」
「おぉ!ちゃーんと分かってるよ。俺は読んじゃダメなんだろう?だけど、俺が気になっていることがあったら、結人が代わりに調べて、教えてくれるってことだよな?」
「え?……まぁ、そうなるのかも」
「ほぉ~~。読まなくても教えて貰えるって、ラッキーじゃん」
隼人はニヤニヤと笑う。好奇心旺盛の隼人だけど、この様子だとどうやら特に問題なさそうだ。
僕は他の3人を見る。
恵利華は僕の隠し事がコレだったのだと気付いたらしい。
「私も読まないわよ。そもそも読書、苦手だし。分からないことは占いに頼る主義だしね」
しずくは特に気にした様子もなく、僕に頷く。
「私は特にこの世界のことについては興味がないですし、今は学校の課題が最優先なのです。それに読んではダメなのでしたら、それに従うだけですよ」
最後にここなを見ると、ここなは膨れ上がる思いを堪えるような目で僕をじっと見ていて、僕はたじろぐ。
「私、読みたい」
素直なここなは、僕から目を反らさず、隠さずに本音を言った。
「……そうだよね」
この話を打ち明けるかどうかを悩んでいた原因の一番は、ここなの気持ちを考えていたからだった。
これまでのここなの言動を聞いていると、ここなの関心はこの世界のことに強く向いている。
好奇心旺盛で、やりたいと思ったことに真っ直ぐに向かっていくのがここなだと知っているからこそ、僕はこの話をするのを躊躇っていた。
ここなはあの書庫部屋の内容を絶対読みたいはずだ。僕なんかよりもずっと熱心に夢中になるはずだ。だけど、今回ばかりは我慢してほしいとお願いするしかない。
「でも、テルさんにダメって言われたんだよね」
「ああ」
「もし私が知りたいって思ったことがあったら、結人くんにお願いしてもいいんだよね」
ここながあまり見せたことのない拗ねた顔で、僕をじっと見てくる。
その顔はちょっと新鮮で可愛らしくて、これでは僕がここなにお願いされたら何でも資料を読んであげて調べてしまうかもしれないと焦ってきた。
もしかしたらこれは逆に、自分に枷をかけたのかもしれない。
「……で、出来る限りそうする」
僕は「もちろん」と言ってしまいそうになるのを堪えて、ここなにそう返した。
「分かった。それなら、ひとまず我慢する」
「おーし!!みんな、集まってるなーー!!」
そこへ、どこからか僕たちではない声が聞こえてきた。この声は彼しかいない。
「だ、誰だ?」
「テルさんかな」
「え!テル!?」
みんなが声にどよめく中、「はーい、みんなここだよー!」と、リビングから見える階段から、テルが超ニコニコしながら、降りてくる。
突然に姿を見せる驚かせ方はしなかったようだけど、どうして舞台俳優のように手を振りながら2階から降りてくるのだと突っ込みたくなる。
「本当にテルなの?」
「やぁ、恵利華。対面するのは初めてだな。ずいぶん待たせて悪かった」
「……ふん、本当よ」
恵利華は文句を言いながらも、少し嬉しそうだ。
「初めまして!俺、隼人です」
「おぉ!隼人。君の情報量にはいつも関心しているよ!」
「マジっすか!そう言ってもらえて嬉しいです!」
さすがテルといったところか、一気に場の空気を全部自分に集めている。
「あの、結人から聞いたんですが、テルさんが宇宙人って本当ですか!?」
「まあね」
「うぉぉ、すげぇー!」
隼人はいつにもまして目を輝かせている。
「テルさんが来たっってことは、また新しい任務ですか?」
ここなも嬉しそうな目をする。
「いや、今日は挨拶に来ただけだよ。そろそろ皆の前に、顔を出しても良い頃合いになったからね。改めまして、輝人こと、通称テルです。みんな、これから宜しくな!」
「……宜しくは良いんですけど、本当にそれだけですか?」
僕はテルを勘ぐる。こうやって皆が集まっているタイミングにわざわざ来るなんて、ただ挨拶に来たとは思えない。
「相変わらず、結人は鋭いね」
テルがニカリと笑う。
「これまで星ノ川銀河評議会からの任務を結人に依頼するという形にしてきたけれど、お前たちの活躍をみていると、正式に他のみんなにもお願いした方がいいのかなっと思ってね」
僕たちの前にやってきたテルは、全員を一度見回してから、大事なことを発言しますと宣言するようかのように姿勢を正す。
「ここな、しずく、隼人、恵利華。お前たち4人にも、『CWC』を解決する任務を依頼したい。そして結人を助けて欲しい」
テルが改めてそんな風にお願いするとは思っていなかった。しかも僕を助けて欲しいだなんて、それは僕が言うべきセリフなのに。
「そんなの断る理由がないよ!」
「俺はもちろんいいぜ!これまでだって結人を助けてきたんだしな!」
「そうね。私も神社の門番として『CWC』のことは理解したいし、この能力の使い道があるなら、本望ね」
「任命されたっていうことでしたら、拒否する理由もないですし、みなさんとならば、私も大丈夫だって思います」
4人は躊躇いなく承諾する。
「そうなったら、僕たち仲間としてのチーム名を作りたくなるよな!」
「チーム名ですか?」
「なによ、なんとか部みたいなものを付けるつもり?」
「じゃあ、『結人くんを助け隊』なんてどうかな?」
「い、いや……。それは絶対にやめて、ここな」
僕が慌てると、他の4人は笑い出した。
「お前たちのそれぞれ得意なところを合わせれば、いろんな問題を解決していけると俺は思ってる。これからも頼むな!」
テルから『CWC』の任務を依頼されるようになってから、僕はここにいる4人に相談して、自分だからできること、そしてみんなが居るからできることを行動して、一つ一つの問題に向き合ってくることができた。
ここなと出会う前の自分からは想像できないくらいに、今を投げやりに過ごすことをしなくなったと思う。
それはきっと以前よりも、自分のことを大切にできるようになってきたからだと思う。
特異体質のある自分を受け入れてくれる仲間が増えて、そして活かすことができる環境がここに在って、僕は少しずつ、自分自身から目を背けないようになってきた。
まだ心から自分のことを好きだとか、自信があるとか、そこまでには至っていないけれど、前よりは自分自身のことを嫌だとは思わなくなったと思う。
それはきっと、僕の目の前にいる仲間のおかげだ。
「テルさん。『CWC』を解決しているのって、俺たちだけじゃないんですよね」
「まぁ、そうだな」
「本部は『星ノ川銀河評議会』になるんですよね?」
「まぁ、そうなるか」
「そしたら俺たちは、『CWC解決本部星種町分室』ってことだよな!」
オカルト現象にカッコいい名前を付けたがる隼人だけあって、僕たちもどこかの機関のような名前になっている。
「それをチーム名にしたいってこと?長すぎるわよ」
「そうか?それならシンプルに、『CWC解決室』とかどうだ?」
隼人がそう提案して、僕たちはそれぞれ顔を見合わせる。特に誰も反対しないようだ。
「みんな、ありがとう。手伝ってくれるなら、心強いよ。
これからは、『CWC解決室』の一員ということで宜しくお願いします」
僕は改めて4人にお願いすると、彼らは嬉しそうに頷いてくれた。
「おう!」・「はーい!」・「いいわよ」・「分かりました」
活気のある返事と、みんなの前向きな意気込みがリビングを包み込む。
「おし!じゃあ、じゃんじゃん任務をもってくるから、頼むなー!」
テルはそう言うと、要件は済んだので、そそくさと階段の方へと歩き出した。
今、テルはじゃんじゃんって言ったか?
テルは結構、容赦ないところがある。ハッキリ断っておかないと、すぐにでも任務を用意してくるに違いない。
「待ってください。じゃんじゃんは勘弁してください」
去っていくテルの背中に僕は懇願する。
「やーだね!」
テルは「ハッハッハ!」と悪役のように笑って、これまた舞台俳優のように階段を登って消えていった。
第二部 完
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
第二部まで完結いたしました!
ただいま、第三部を執筆中です。公開までにしばらくお時間を頂きたいと思いますが、
また結人たちに会いに来てくれたら嬉しいです。
ぜひ、作品のブックマーク。そして評価をお願いいたします!
皆さまの声が励みになります!
***
今回、魂が還るお話を書きましたが、
この時期、私にとっても大切な魂が空に還りまして、とても身に染みた夏となりました。
「僕がいなくなっても、幸せに笑っていて欲しい」
そう思っているだろうと感じています。
まだまだ暑い季節、身体も心も大切に大事に抱きしめて、
この夏を乗り切っていけたらと思っています。
どうか皆様もご自愛ください。
HiKaRi




