僕を苦しめる想定外
「結人、今回の任務を伝える。そのキャンプ場の管理人に会って、話を聞いてやってくれ。そして対応してやってくれ」
やはりそうか。この急な変更は星ノ川銀河評議会が関わっているのだ。
「……どんな内容なんですか?」
「管理人に話を聞けば分かるよ」
「お化けとか幽霊とかじゃないですよね?」
「それは違う。お前にお願いすることは『CWC』だけだ。今回の現象がお化けや幽霊の類だったら、持ってこないよ」
テルの言い方が気になった。お化けや幽霊の存在を否定していない。
「……お化けっているんですか?」
「いるよ。だけど結人やここなは滅多に遭遇しないんじゃないか。波動が違い過ぎるからな。会いたいなら、会うことができるようにしてやってもいいけど」
ただでさえ、ここなたちのような存在が視えるのだ。それに加えて、そちらの類まで視えてしまったら、区別のつけようがない。
「いいです。遠慮します」
僕が強く拒否すると、テルは大きく笑った。
「まぁ、そっちの分野はそっちのお得意さんに頼んでおけばいいのさ。で!ここから一つ選べ」
テルはどこから持ち出したのか、白い小さなカードを両指の中で広げた。トランプのババ抜きをさせるつもりなのか。
僕は一つ選んで、ひっくり返す。そこには『〇■△●県教育委員会ボーイスカウト所属 柏木結人』と書かれていた。これは名刺だ。しかも覚えのない肩書が入っている。
「なんですか、これは」
「結人の世界の地球人は肩書きを大切にするからな。反対をいえば、肩書きがあるだけで信頼させられるし、自分を守ることもできる。裏はしっかりと整えておくよ。助っ人も用意する。だから安心して、『CWC』の解決に励んでくれ」
高校の課外授業の行き先を変更してしまったくらいだ。僕はもうお膳立てされてしまったということなのだろう。
「……僕に解決できるでしょうか」
急に不安になってくる。テルから依頼された初任務。僕の特異体質が役立つならばと請け負ったけれど、この僕にそれが出来るのか自信がない。
「出来ると思えばできる。出来ないと思えばできない。そういうもんじゃないか」
テルはサラリと厳しいことを言ってのけた。
「不安がってもしようがないって言いたいんですね?」
ちょっと皮肉っぽく返してしまう。
「まぁ、そうだな。俺はあまり深く考えないタイプだからな。諦めたら解決しない。諦めなかったらいずれ解決する。単純なことだと思うんだよな」
「そんな簡単なことじゃない気がするんですが……」
テルの言っていることは理屈的には分かる。だけど、『出来る』『諦めない』。そんな行動を起こすこと自体が難しいということだってあるはずだ。
僕が渋い顔をしていたからだろう。テルが僕を子ども扱いするようなことを言ってくる。
「結人が任務に尽力したら、ご褒美を用意するよ」
テルから用意されるご褒美をイメージして、僕は何故かあまりウキウキしなかった。テルのことだから、ろくなことじゃない。そう思ってしまう僕がいる。
「……どんなご褒美ですか?」
「俺が結人を助けるために役立つ、最大な何か、かな」
そのニュアンスからして、僕のためのものではない。
「それって僕へのご褒美なんですか?」
「さあな。それは結人次第だな。さて!」
要件はもう終わった、話すことはもう無い。テルはそう主張するかのように、「帰る」と告げた。名残惜しさなんて一ミリもなく、突然その場からシュンっと消えた。
その行動に僕は慣れない。逸る鼓動を抑えるのに、しばらく時間を要したのは言うまでもない。
3.
「柏木、私は君を見直したよ!」
キャンプ場に到着してすぐ、僕は担任に呼び出された。
「ボーイスカウトの隊員だったなんてな。お前はこの高校に入学してから、部活は入らない。イベント行事に参加しない。クラスメイトに友人を作らない。二年に進級しても同じかと思って心配していたんだが杞憂だったようだ」
テルが用意した肩書は担任にすでに侵透していた。それどころか、僕のこれまでの学校生活態度まで、見直されてしまったらしい。
「柏木。頼みたいことがある!イベント実行委員の代役を引き受けてくれ。元々実行委員だったメンバーが風邪で全員休みになったんだよ」
そんなことは想定していなかった。 イベント実行委員!?想像しただけで、僕には荷が重い。
「ぼ、僕に出来るわけがないじゃないですか。無理ですよ」
「何を言っているんだ。ボーイスカウトなら、こういうのはお手の物だろう!謙遜しなくていい。柏木が居てくれて、本当に助かったよ!」
担任が僕を救世主でも拝むような目を向けてくる。
嘘の肩書で得た信頼。それに見合う経験がまるでなかった。これまで表にも、ましてや裏方にも、こういう行事にすら参加してこなかった。そんな僕に与えられてしまった新たな役目。
肩書は僕を守ってくれるはずだったのでは……?
「はぁぁ……」
キャンプ場の管理人に話を聞きに行かなければいけなかった。だけど、僕は人通りのない建物の隅に座り込み、動けなくなっていた。
担任に突きつけられた大役に、どうしたらいいか分からなかった。
手元には渡された引継ぎ資料。ざっと目を通しただけで、眩暈がした。
イベント実行委員が行わなければならないタスク。ずらりと書き連ねられたその量に、頭の整理すら追い付かない。
イベント実行委員は、キャンプ場内での全体統括、トラブルのサポート。二日目午後のレクレーション準備と進行が任されていた。バーベキューやキャンプファイアーを予定しているらしい。僕はバーベキューもキャンプファイアーも体験したことがない。
他の実行委員は自分がやり易いように選んで良いと言われた。だけど、友人を作らなかった僕は選ぶ以前の問題だ。
そもそも僕にはテルから任されている任務がある。その任務だってこの課外授業に参加している間に解決しなければならない。
『出来ると思えば出来る。出来ないと思えば出来ない』
『諦めたら解決しない。諦めなければいずれ解決する』
テルの言葉が苦しい。気付くと手が震えていた。
しっかりしろ。こんなところで座り込んでいる場合じゃないだろう。
だけど今の僕には高すぎるハードルがそびえたっていた。
引き続き、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
結人の初任務です。
そして、更なるハードルを突きつけられた彼は、
この後、どうなっていくのか……?
是非、皆様の感想・コメントお待ちしております。
次回の更新は明日12時30分の予定です。
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