叡智と深淵の愛を舞え 16
金色の雷を纏うティアラと蒼炎を纏うアオヘビが発狂モードに到達した叡淵のテンライと真正面から殴り合っている最中、ソフィア、ヘイズ、フラウヤの三人はその戦いを眺めることはせず、潰しても潰しても現れる幻影――――その中でも楽器を手にして演奏をしながらテンライ達に近付こうとする幻影を叩き潰し続けていた。
「どう考えてもこいつら潰し続けないとやべぇよな!」
「フヒヒヒ……だろうね。何か潰す度にバフ貰ってるし……」
ゆらゆらと、明かりに引かれる虫のようにテンライ達に近付こうとする幻影達を倒す度に、回復やステータス向上などの恩恵を得る。その恩恵はフラウヤが作ったポーションで得ることができるそれよりも遥かに高く、あの化け物のような存在にこの恩恵が与えられた場合、なす術なく全滅するだろうことは容易に想像できた。
この演奏者達に見向きもしようとしていないアオヘビは、心底楽しそうに狂ったような笑い声を上げながらテンライ達に挑んでいる。それに釣られているのかティアラも子供のような笑みを浮かべて剣を振るっている。
ダンスバトルから通常の戦闘に切り替わったものの、そこに乱入した場合、アオヘビ達のリズムが崩れて全滅もあり得る。ゆえにサポートに徹するというのが、三人の見解だった。
「バフがどんどん乗せられて、マジで無双ゲーだな! これレベルカンストしても無理だろってくらい火力上がってるぜ!」
「フヒヒヒ……上位職になったらこのくらいまで行けるかな……? でもまだクエスト消化しきってない……」
そんなことを話しながら幻影を潰し続けていると、ふと、酒が入っているであろう瓢箪を持っている幻影がテンライ達に――――否、アオヘビ達に引き寄せられているかのように動き出した。何か嫌の予感がしたソフィアが真っ先にその幻影を切り裂くと……一瞬、ソフィアの視界がグニャリと歪み、何種類かのマイナス効果が付与された。
「……これ、不味いわね」
「フヒヒヒ……放置、ダメ、絶対」
「恩恵はボスに、デバフはプレイヤーにってか!? 厭らしいな!」
そう言いながらも幻影を無差別に潰していく三人。三人の視界はまるで酩酊しているかのように時折歪んだり、音が籠って聞えたりと、五感が滅茶苦茶になっていた。
「フラウヤ、酒飲むとこうなるもんなの!?」
「フヒヒヒ……ここまでヤバい飲み方はしないよ……成人組は節度ある飲酒を心がけています……」
これから先、お酒を飲むとしてもここまでヤバい状態にならないようにしよう。心の中で決意を固めた未成年の一人、ヘイズはレイピアを握る手とは逆の手に獣のようなエフェクトを宿らせながら魔法の詠唱を開始する。
「『拳獣・熊』! んでもってレイピアこっちに握って、『星よ、猛火を纏い、我が敵を薙ぎ払え』! 『星大剣:火』!!」
「おー、リーチが伸びるんだ」
熊の巨大な腕によって振るわれた炎の大剣が幻影を一気に消し去る。演奏者達も酒飲み達もまとめて消し去るその一撃はまさに高火力な一撃を放つ魔法使いに相応しい。
「ぐおおおお! ヤバい! めっちゃデバフ貰った!! MP四割持ってかれたんだけど!? スタミナゼロで動けねぇ……!!」
「あら、スタミナまで奪ってくるのね」
「フヒヒヒ……デバフは分担しないと死活問題かもね……うへぇ……体力上限削られた……」
降り注ぐ矢と劇毒のフラスコが、獣の爪と魔法の剣が、魔法と呪術の刃が、幻影を蹴散らしていく。バフが盛られ、デバフが盛られ……時折デバフがバフを超えそうになるが、それ以上のバフが三人にばら撒かれ、ギリギリバフが打ち勝っている。
「出し惜しみなんてしてるつもりはないけど……もっと頑張らないとね。ヘイズ、一旦下がってくれる?」
「お? なんかやるつもりか! やったれ副団長!」
「フヒヒヒ……じゃ、私はいつも通りデバフばら撒きますね……私は縁の下の力持ちよ……」
ヘイズが自分の後ろに下がったのを確認したソフィアは、両手に握るシミターのエンチャントが消えた瞬間、自身が使える最も強いエンチャントの詠唱を開始する。
「『星よ、星よ。火を降らせ、水を生み、土を育み、風を吹かせる天球の叡智よ。光を呼び、暗黒を呼び、滅びを掲げる空の星々の脅威よ。星の力、刃に宿れ』」
本来であればそれで完成する詠唱。しかし、ソフィアはそれに重ねるように鈴の音のような声を響かせる。
「『呪い、呪い。火が土を育み、土が金を育み、金が水を育み、水が木を育み、木が火を育み、焼き溶かし、腐らせ、吸い上げ、穢し、消し去る深淵よ。澱み、清め、巡り、留まる流転の呪いよ。終焉を謳え、誕生を謳え。混ざり合わぬ魔と呪よ、刃に宿れ』」
幻影を切り刻みながら歌われた詠唱が終わった瞬間、両手に収まるシミターにあらゆる光を飲み込むかのような黒が纏わりついた。その刃が幻影に触れる度に、グニャリと空間が捻じれ、千切れるようなエフェクトが発生し、幻影の存在を消し飛ばす。
ソフィアの上位職業、付与魔術師が使えるエンチャント、その最高位に該当する「破滅の流星」。魔法属性である火、水、土、風、光、闇。呪術属性である火、水、土、金、木。その全てを混ぜ合わせ、全てを飲み込むブラックホールのような何かを武器に付与するエンチャントである。この魔術を使った際、エンチャントを施した武器はエンチャント終了時に完全消滅――――修復不可となり、使用者はその場から動けなくなるほどのデバフを受けて三分間無防備な状態となる。
「このシミター、お気に入りだったけど……最終決戦で全ベットは基本よね! 《閃陣万雷独楽》!!」
四方八方縦横無尽に加速するソフィアが凄まじい殲滅速度を以って幻影を細切れにしていく。双剣スキルの中でも最上位のスキル「閃陣万雷独楽」。回転すればするほど加速し、スタミナが続くまで攻撃を可能とするスキルが、ヘイズとフラウヤのキルスコアを一瞬で追い抜く勢いで幻影を消し去る。
「とりあえずこの幻影の出現が遅れるくらいリスキルしまくるか!」
「フヒヒヒ……普通のゲームなら絶対キレるやつだ……採用」
発狂モードのテンライ達はダンスバトルでミスをした時と違って掴み攻撃をしてこない。マジで切りまくるだけの剣士って感じだ。正確さはあるが、繊細さがない。ダンスバトル中はどこを見ているのか分からないから殺気と舞の内容でどこに剣が飛んでくるか考えなくてはいけなかったが、今のテンライ達は視線も殺気も結構雑だ。
「どうしたどうしたァ!! そんな雑な攻撃喰らうかよバーカ!!」
剣を絡め取ってパリィをしたら、ティアラか俺が殴る。これを繰り返しているだけで簡単にどうとでもなってしまうこの状況。俺達のターンとはいえ、何だかなぁと思ってしまうのは俺の頭がイカレているからなのか、それとも変態だからなのか。これなら正直シャコフィストと戦った時の方がヒリついた気がする。もちろんカレイドモンスターだから、滅茶苦茶強い。超速攻撃もあるし、一撃でも喰らえば食い縛り発動待ったなしだ。けど、その程度なら色んなゲームで経験済みなんだよ!! オワタ式ビルドばっか組んでた人間舐めんじゃねぇ!!
「ティアラ、MP――――魔力は管理しとけよ!」
「問題ありません。私は一応、様々な魔法職にも適性がありますので管理については恙なく」
「優秀!」
黄金の雷を纏った長剣を振るうティアラと背中合わせの形でテンライ達を迎撃する。深淵テンライの攻撃をパリィしたことで、蒼炎が武器にエンチャントされていることもあって叡智テンライの弱点を突ける突ける。
にしてもこの迎戟の短剣、フレーバーテキストがちょっと意味深だったんだよな。力を奪い、己の力とする――――ってのが相手が使うエンチャントを自分にも付与するってことなんだろうが、それだけじゃないような気がするんだよ。この戦いに挑む前にティアラとマンツーマンダンスレッスンだったわけだが、その際に行った検証でこの短剣、ティアラの長剣に付与されていたエンチャントを吸収して武器に付与したような感じがしたのだ。吸収よりも強奪か?
七支刀や憑竜面とかはまぁ、儀式用の武器や装備だっただろうけど、迎戟の短剣の短剣だけが何だか毛色が違うというか何と言うか……いや、儀式用ってことは分かってるんだよ。ティアラが調整してくれたわけだし、間違いなくキーアイテムなんだけどさ……何かマジで毛色が違うのだ。
「……ま、考えるのは後でいいか」
心なしか竜化が進んでいる気がするが、尻尾とかは生えていない。ちなみに食い縛りを何度も繰り返しているから俺自身は無事だが、防具は結構前に破損して現在戦士装備だ。これも壊れたら裸で戦わないといけなくなる。仮面に全裸って中々の不審者だよな。
「ところでティアラよ」
「何でしょうか」
「このまま終わるような連中か、この二人」
ダンスバトルを超えて発狂モードへと移行。発狂モードで自壊しきって終了となるとは思わないんだが。だってデカい戦争を生き残ったやべぇやつらが、思い出に縋り続けて苦しみ続けて、いつか愛した人に殺されたいがために生き続けた拗らせおしどり夫婦がそう簡単に死ぬわけがないだろう。仮にもカレイドモンスターだぞ? サプライズグッドラック社の作ったゲームだぞ? そんなあっさりと終わらせるなんて絶対にありえない。
「それは……ありえないかと。自壊を始めているとはいえ……」
「だよなぁ」
紫電を纏う刃を迎戟の短剣でパリィを行い、深淵テンライの相手をしていたティアラとスイッチする形で、紫電を纏ったドラゴスパイクを深淵テンライに叩き付ける。通常の槍とは違って剣のような刃を持っているドラゴスパイクだからこそ青龍偃月刀みたいに扱えるが、こういう薙刀系も欲しくなってくるな。槍カテゴリーなんかね、薙刀。
「オラァッ!!」
仰け反った深淵テンライにバーストステップで距離を詰めながらバーストランサーを起動。激突し、深淵テンライが更に怯んで呻き声を上げた直後、瞬時にスパイラルバーストを起動。ドリルのような螺旋のエフェクトが深淵テンライの胸を削り取るように飛び散る。スパイラルバーストが消えたところで、怯み状態から復帰した深淵テンライが剣を振るが、俺が力一杯後方に飛ぶことでその一撃は空振りとなった。
「おいコラ拗らせ夫婦共。このまま自壊して終わるならティアラのこと継承者として認定してくれねぇか」
「「…………」」
ティアラは継承者として認められていないと言っていたからな。多分勘違いだろうけど、ちゃんとこいつらの口から継承者認定してもらわないと……ん? 最初に言ってたか? どうだっけ……まあいいや。とにかくこのまま自壊して消滅するんだったら、消えてしまう前にティアラの勘違いを正してくれ。
「だんまりか? 黙るな喋れよ。さっきまで惚気話だの子育て秘話だの話してただろうが」
戦争で心を失ったわけじゃないだろ? オラ、さっさと喋れや。
「喋らないなら喋るまでぶん殴るしか――――」
「「……………………ぁあ……」」
「ん?」
何か言ったな。懐かしむって感じの声じゃない。まるで大きくなった子供を見て、心を震わせているかのような声だ。
「ティアラ……私の……私達の……可愛い……」
「ティアラ……愛しい……私達の……」
その声が聞えた途端に体のあちこちから噴き出ていた炎と雷が収まっていき、叡智テンライと深淵テンライの素顔――――素顔でいいのか? まぁとにかく竜化や神化? が解けるように解除されていく。竜の鱗が、神のような相貌が、健康的な白い肌色に変わっていく。まるで呪いが体から抜け落ちていくかのように、その変化は指輪を着けている左手以外に及び……ティアラにそっくりなエルフが姿を現した。
「おおっと……これはこれは……まさか親戚とかじゃなく、マジで血縁者か?」
「……」
「あ、いや責めてるわけじゃないからな? 予想してたし」
ただ、師弟関係か何かだと思っていた。一応血縁関係のある間柄って予想は低いけどあるよな、とは思っていたし、驚いているが、驚きが大きいわけではない。
「あなたは、選んだのね」
「ああ、そうか。お前も、選んだのか」
「共に歩む者……悠久を生きる、歪んだ不死なる者達と歩む道を……全てを解放する者達と歩くと……」
「切り開き、最前線を行く者達と、歩く。そう決めたのだな……」
ちょっとフラウヤこっち来てー! ちょっとこの会話は考察要素だからフラウヤ来てくれぇえええ!!! 俺は考察勢じゃないから分からないんだよ! そもそもお前らと戦うってことに全てのリソースを割いているんだから、この状況で考察要素を放り込んでくるんじゃあないよ!!
「お父様、お母様……私は――――彼らと共に行きます」
「その選択を、私達は肯定します」
「お前の選んだ道だ……私達はそれを肯定する」
子煩悩だけど、ちゃんと夢を応援してくれるいい両親だなって、こんな状況じゃなければ思うんだけどさ、気が緩みそうになるからそろそろイベントを終了して戦闘に戻ってくれるとありがたいんだが――――
「「それはそれとして」」
ん? 何だろう、あの夫婦の視線が俺に向いた瞬間、今までの非じゃないくらいの殺気が向けられている気がするんだが。いや、気のせいじゃなくてマジで殺気が向けられてますね。はい、アオヘビ、現実逃避したいです。
「あなたがティアラに相応しい男なのか……」
「ティアラに相応しい強さと覚悟を持った男なのか、試させてもらおう」
あ、そろそろ来るなこれ。アオヘビ、現実逃避から戻ります。
「来なさい、解放者よ。我がいとし子と共に歩む覚悟を示しなさい」
「行くぞ、解放者よ。我がいとし子と共に歩むというのなら」
「「我らテンライを、見事打ち破ってみせよ」」
叡智テンライが長剣と扇を、深淵テンライが長剣と杖を持った瞬間、全身が切り刻まれるような鋭い痛みを伴った殺気が迸り、警鐘どころか緊急地震速報並みのアラートが聞える。
まぁ、とりあえずこの強張った体と硬直しているティアラを何とかするために渾身の冗談をば――――
「お義父様、お義母様、娘さんを俺にください!!」
「アオヘビさん!?」
ティアラの叫び声が聞こえた直後、食い縛りが発生した。ははは、楽しくなってきた。
最終形態:「「娘を幸せにできんのかおおん?」」
ここにな、超高難易度確定コマンドがあるのじゃ。
「お義父様、お義母様、娘さんを俺にください!!」(超高難易度確定コマンド)




