叡智と深淵の愛を舞え 10
なんか読んでて「ん?」って思ったのでちょくちょく直していきます。ご了承ください。
「アオヘビさん、私から舞を学ぶつもりはありますか」
一日をリアルで過ごした翌日。リヴラインにログインした俺を地下訓練場に連行したティアラが、そんな提案をしてきた。そろそろ完成しているであろう武器を回収しに来ただけだというのに、なぜこうなったと思いつつ、口を開く。
「拒否権は?」
「もちろんあります。拒否されるのであれば、代わりにあなたへ私が持つ技を教えましょう」
「なるほど?」
「しかし、その技を教えた場合、私は舞を教えることはできません。そう決められているのです」
ふむ、これは分岐か。舞を教えてもらうことでテンライ戦に挑むための準備をするのか、ティアラが持つスキルの一つを習得して、舞を諦めるのか。スキル、スキルねぇ……俺が使えるスキルじゃなかったら、間違いなく凹むからなぁ……魔法や呪術なんかも、鍛冶でしか使わないだろうし……魔力は皆からある程度伸ばしておく方がいいと言われたから伸ばしてはいるけど……
こういう時はメタ的な視点……というか、ギャルゲーとか恋愛ゲーの視点で行くんだと商店街のおじさんが言ってたな。どちらを選択すれば好感度が上がるのか、どの行動をすれば好感度が上がるのか……うん、正直分からない。舞、スキル。どっちも大事。だけど、俺が今一番求めているものは……
「舞を教えてくれ」
「……本当によろしいのですね?」
「ああ、問題ない。舞はテンライに挑むなら間違いなく必須だろうからな」
それに、これは勘だが、テンライを倒した先でも舞は使いそうな気がするし。使わなかったとしても、どこかでその応用を使える機会はあるだろ。無かったら困るけど、それもまたゲームの醍醐味と言えるだろう。
「分かりました。では、こちらをお持ちください」
「おお、完成したのか、それ」
ティアラが抱えていた布の塊を受け取り、紐を解くと、包まれていた七支刀と短剣が姿を見せる。……前に見た時とは違い、見たことがない――――多分この世界の言語であろう言葉が刻まれている刀身と、同じく不思議な言葉が綴られた布が巻かれた柄を見て、ふと俺はカリュドーンから手に入れた仮面を手に取る。
「ティアラ、この文字って、これと同じ?」
「それは……」
「カリュドーン倒したら手に入れた。ソフィアがテンライに渡したら、継承者を探せって言われたらしいけどさ」
その継承者って、お前のことだろ?
俺がこの仮面のフレーバーテキストに書いてある後継者や、テンライが話した継承者、そして彼女の舞などの要素を加味してある程度の確信を持ってティアラに質問を投げかけると、彼女はその綺麗な顔を少しだけ歪ませて、困ったように口を開いた。
「私は……継承者にはなれなかったんです」
「ん?」
「継承者とは、舞を修め、初代様に認められた者のみが名乗ることを許される存在です」
んー……ああ、伝統芸能の師匠みたいなもんか。踊り、口囃子、楽器、全部やれる人しかなれない、みたいな。初代様というのは恐らく叡智テンライと深淵テンライのことで、ティアラが言う継承者というのが俺の知る師匠みたいなものだとするなら……え? マジで? 舞の他に口囃子もあるの? 全く知らないんですけど? いや待て落ち着け俺。舞を修めて、と言ってるんだから舞を完成させるだけで条件はクリアできるはずだ。頼むからそうであってくれ。
「私は、そうではなかった。認められることはなかった」
「んー……ティアラ、ちょっといいか?」
「なんでしょう」
「認められてないって思ってるの、お前だけなのでは?」
「……はい?」
テンライの関係者が他にいるのかは知らないが、ほぼ確定で一番テンライに近い人物はティアラに違いない。それ以外にいたとしても、何となくティアラが一番近い人なんだろうなぁと感じる気がする。そもそも、深淵テンライに霊碑を守れと言われている時点でティアラが一番信用されていて、信頼されていることが分かる。ティアラがなぜこうも自信無さげなのかは知らないが、彼女はきっと、とっくのとうにテンライに認められていたと思う。勘でしかないけど。
「俺は舞について素人だけどさ、ティアラの舞、凄く綺麗だったし」
「……感情が乗っていないと言っていましたが」
「それはそれ。これはこれ。というか乗ってないのは情熱だけだよ。俺の舞は軽いというか……うん、盆踊り。お前の舞はちゃんと舞」
自分で言っておいてなんだが、雲泥の差が過ぎるな? まぁ、何を言いたいのかと言いますと、だ。
「多分ティアラはちゃんと認められていたと思うよって話! 疑うならこの仮面に刻まれてるやつ読んでみろよ」
「…………」
どこか不安そうに仮面と俺の顔とを交互に見るティアラ。何だ、本当に感情豊かなエルフじゃないか、お前。掲示板で見た氷のようなエルフという印象よりも、ちゃんと人間臭いエルフだ。普段は冬みたいな表情をしているのに、たまーにこういったナイーブというか、じめっとしたところを見せたり、晴れている空みたいに小さく笑ってみたり、ちゃんと人間らしい表情を見せてくれる。
「というかティアラが継承者じゃなかったら俺達が困る。マジでお前が継承者であってほしい」
「明け透けですね」
「正直な方が印象がいいだろ?」
「それを言っている時点で良い印象を持たれることは少ないのでは?」
「それはそう。まぁ、それは置いといて。一回試してみろよ」
それでダメなら他の方法を見つけてこの封印とやらを剥がしてティアラに見せるけど。さぁ、見るんだティアラ……お前が継承者であってくれ。
そんな念を込めながらティアラを見つめていると、彼女は恐る恐るといった緩慢な動きで俺から仮面を受け取って、施されている封印の中心であろう文字を指先でなぞる。――――数秒後、パキンッ、と何かが壊れる音が響き、仮面がぱっくり縦に割れてしまった。
「割れたぁ!?」
え!? 何!? ティアラが触ったらダメだったやつ!? 継承者はティアラじゃなかったのか!? だったら誰だよヒントを寄こせよ!
「……いいえ、これで正解です」
………………壊れたのが正解?
「アオヘビさん、竜は、どのように炎を使いますか?」
「へ?」
「お答えください」
突然の質問に思考が止まりかけるが、ティアラの物を言わせぬ圧を感じて思考を回す。竜がどのように炎を使うか……? ドラゴンが炎を使う時って基本的には口から吐いて全てを焼き尽くす時じゃね?
「く、口から吐く?」
「それも正解ですが、もう一つあります。あなたはもう見ているはず」
「もう一つ?」
口から吐く……それともう一つ……もう見ている、というのはオープニングのことか? いや、俺はオープニングで炎を纏うドラゴン――――レイヴァディングしか見てない。……纏う?
「もしかして、カリュドーンとかが纏う炎って、口から吐き出してるのを纏ってるのか?」
「はい。だからこそ、この仮面も、竜を象徴する半分をこのような見た目にしているのです」
そう言ってティアラが宝物を触るかのように丁寧に抱える仮面は、先程まで見ていた仮面とは全くデザインが違うものへと変貌していた。
「憑竜面。火を纏う竜をモチーフにした仮面です」
「てことは、もう片方は……」
「はい。憑神面。雷を纏う神をモチーフにした仮面になります」
前者の憑竜面は荒ぶり、炎を吐き出す猛々しいドラゴンのように少し恐ろしく、それでいて威厳のあるデザインだが、後者の憑神面は雷を纏い、誰かを先導するカリスマ性を感じさせるデザインだ。踊り子の仮面、二つあるのか……ん? ちょっと待ってくれ。
「ティアラよ」
「何でしょうか」
「その舞というのは、まさかとは思うが、二人一組で舞うものなのか?」
「? そうですが」
「……えーっと……ちょっと待ってな……?」
…………………………………あれ? これ、まさかとは思うけど、ダンスできるプレイヤーが二人いないといけない感じ?
「詰んだのでは?」
「? アオヘビさんにはソフィアさんがいらっしゃるでしょう? 彼女が魔法の舞を会得しているのでは?」
「いや、あいつ、ダンスに関しては壊滅的なんだ……」
「……」
「そんな目で俺を見るんじゃねぇ!!?」
どうする!? ここで俺だけが舞を覚えてもダメだったと言って、他の連中を呼び出して何とかなるのか!? いや、無理だろうなぁ……時間が足りないし、鈴音姉さんと叡智テンライに舞を教えてもらってるからこその、ある程度舞えるだけで……どうする? どうすればこの現状を突破できる? 考えろ、考えるんだ俺……!! 現状を打破してみせろ! 踊れるやつが欲しい! できれば身内に含まれるやつで……ローニンとシャコフィストは無理だろう。あいつらは対人戦特化過ぎるし、何より別派閥みたいな存在だし……身内……踊れるやつ……情報が秘匿される……あ。
「ティアラ、一緒に踊ろうぜ」
「はい?」
これが俺の導き出した答えだ。今からすぐにでも踊れるやつ、といえばもう彼女しかいない! そう、恐らく継承者であろうエルフ、ティアラしか!
現状を説明すると、ティアラは難しい表情を浮かべながらも口を開く。
「すぐに踊れる者がいない現状で、私が踊れるならば私を対として舞う……何となく理解はできますが……」
「おいおい、不安そうな声出すなよ。そもそも舞を教えてくれる約束だっただろ? その延長線として一緒にテンライに舞を見せてやることもお願いしたい」
「……」
綺麗な顔を迷いと困惑と不安で塗りたくった表情で固定したティアラは、抱えた仮面を見つめて熟考している素振りを見せた。困り顔も絵になるというのは、ソフィアやティアラみたいな美形に共通していることなのだろうか。
「………………失敗するかもしれませんよ」
「そうならないように今から詰めるんだよ」
「継承者として認められていないかもしれません」
「いや、仮面の封印が外れた時点であり得ないだろ」
「…………本当に、私でよろしいのですね? 探せば、私以上の適任が――――」
「お前以上の適任が見つかるとは思えないわ。やってくれるか、くれないのか。どっちだ?」
「………………………分かりました。足を引っ張らないよう、全力を尽くします」
よぉし!! これで勝ったとは言わないが、道が開けたぞ!! この件は皆に共有しておかないと、色々面倒だからあとで連絡しておこう。
「それで、テンライに……初代様に挑むのは、いつですか?」
「んー……皆が集まるのが五日後だから……多分そのくらいには挑めるようにしたい」
「……分かりました。それではアオヘビさん、呪術の舞はどれほど舞えますか?」
「ん? 一応一通りは」
「なるほど。では、私の舞と合わせて踊ってみてください」
なるほど、もうダンスレッスンは始まっている……そういうことだな、ティアラよ。いいぜ、どこまでも喰らいついてやるよ。
「では、合わせてくださいね。木の舞からお願いします」
「おう、やってや――――なんだその舞!?」
知らない舞が出てきて驚いたが、七支刀と短剣を構えて木の舞を繰り出す。雷光を放つ七支刀と共に、ティアラの剣が暴風を纏う。……もしかしてそれ、魔法の舞ですか?
「咄嗟の舞とはいえ、合わせられた。素晴らしいですね、アオヘビさん」
「それはどう、も!!」
「それでは続いて火の舞を。……ついて来れますね?」
「当たり前だ!!」
何だか楽しそうじゃねぇか、ティアラ! 祭りの幕引きをお願いしますとか何とか言ってたけど、やっぱり自分の手で色々清算したいって思いはあったのかもな。
そんなこんなで、俺とティアラのダンスレッスンが始まった。挑戦まで残り五日。完璧に仕上げてやろうじゃねぇか、発破をかけたとはいえ、ティアラがやる気なら、俺がやる気を出さないわけにはいかない!!
スキルを貰うことを選んでいたら、ティアラとのダンスイベントは発生しません。




