アプデって深読みする?
私はしない。仕様が変わったらしいって話を聞いて試してみてどんなもんかを実感するタイプ。
スライムオブレギオンと戦い、撃破した後、シャコフィストに拉致されてPvPをやり続けることになってしまった。結果? 惨敗ですが何か? 強かったなぁ、シャコフィスト……対人に特化しているという話は本当だったんだな。あれはまさしく人の形をしたウォーローグって感じだ。最後の方で何とか見切り始めたのだが……ギアが数段階上がったかのような動きでKOされ続けてしまった。プロゲーマーっていうのはあんな化物しかいないのか?
その後、【グラディタンズ】に所属している人達から勧誘という名の決闘を挑まれそうになったり、断っている間に嬉々として二十一回目のPvPを挑んできたシャコフィストがいたりと、カオスカオス。シャコフィストは追い付いてきたローニンによって一撃首チョンパで撃破されていた。抜刀から直撃までのタイムラグがほぼ無かったのはスキルの影響だろう。シャコフィストが満足してホクホク顔になった隣でローニンが滅茶苦茶平謝りしていた。楽しかったし、気にするなと伝えたらエリクシールをもう一つ貰ってしまった。貴重な回復アイテムだろうに。
「はぁ……それはそれとして。金は覚えたけど、次は水かぁ……」
時刻は午後三時。ログアウトしてからすぐにダンスレッスンを終えた俺は、キッチンで舞のことを考えながら冷凍庫に眠っていた肉塊を解体していた。今日はニンニクが入っていないキムチを使った鍋である。
五行の舞――――鈴音姉さん命名――――は一個一個を繋げると難易度が跳ね上がるので、隙間時間に反復しないといけない。一個だけを踊るだけなら簡単なんだけどな……難しいけど。
「碧、お姉ちゃんコーヒー飲みたいなー」
「要件はしっかり話してくれるか花音姉さん。あと包丁使ってるから近付くな」
音もなく擦り寄ってきた花音姉さんから包丁を遠ざけながら距離を取る。
「コーヒー飲みたいからコーヒー淹れて! とんでもなく甘くしてね!」
「コーヒーの苦味を消せと申すか」
うちにあるコーヒー豆は普通の豆とカフェインレスの豆。どっちも苦味と酸味とコクを程よく感じられる、バイト先の喫茶店から定期購入しているものだ。これが美味しい。紅茶もコーヒーも美味しく飲む派の俺だが、店長の淹れたコーヒーは別格だね。店長ブレンド、素人の俺が淹れても凄く美味しい。
「苦いのはどうしてもダメなんだよねぇ」
「バレンタインの地獄を忘れないぞ、俺は。あれはコーヒーがあったから切り抜けられたんだ」
「その節はお世話になりました。今回もよろしくね! あと、あれは鈴音もだったでしょ」
花音姉さん、鈴音姉さん、紅兄さん――――は彼女ができてからはそこまでだが、三人ともモテる。男性にも、女性にも。だから、バレンタインはチョコレートを山ほど貰って帰ってくる。髪の毛が入っていたり、血生臭かったり、呪いの手紙みたいなのが入っていたり……ああ、思い出しただけで心が軋む。脳が理解を拒む。体が震えを呼び起こす。
とにかく、我が姉、兄が貰ってくるチョコレートを攻略するために、コーヒーは強い味方となってくれるのだ。その英雄の苦味を消すとは……しかし、美味しく飲むのが一番だと店長が言っていたし、押し付けは良くない。
「トッピングは?」
「キャラメルと生クリーム! 鈴音、紅! 二人は?」
「私はいらない。アイスのブラックで」
「俺はミルクだけ淹れてくれるかい?」
キャラメル生クリーム、アイスブラックコーヒー、ミルク入りホット。うーん、いつもバイトでやってることをやってる感じがする。店長は手ずから淹れているが、俺の淹れるコーヒーは人に出せるようなものじゃないので機械で淹れる。父さんが買ってきたのに使っていないコーヒーメーカーよ、今日も力を貸してくれ。
「そういえば碧、鈴音と踊っていたあれは?」
「リヴラインでちょっとね」
軽く経緯を話すと、紅兄さんは納得したように頷いた。
「なるほどね……踊りかぁ……五行……陰陽師みたいだ」
「超難しい」
一個一個は難しいが、確かに踊れないことはない。けど、繋げて踊るとなると話は別。馬鹿なのかと思うレベルで難しい。踊り子的なジョブが追加されるのではなかろうかと疑うダンスの難易度である。しかもシステムのアシスト無しで踊れって……運営ィ!! 凄く難しいぞ運営ィ!!
「実際難易度は高い方。けど、初心者でも練習すれば踊れるように調整されてる」
「マジでぇ?」
どんな舞からでも繋がるようになっているようには感じたけど、練習すれば誰でも踊れるというのはちょっと信じがたい。難しいぞ、あれ。
「大丈夫。碧は筋がいい。すぐに踊れるようになるよ」
「絶対の信頼に胃が痛い」
「だから今度のエキシビジョンにも参加しない?」
「嫌だ」
「残念」
全く……油断も隙も無いというかなんというか……
お、コーヒーできたな。花音姉さんがキャラメルソースと生クリームをぶっかけて……あ、ガムシロも入れないと。んで、鈴音姉さんはアイスコーヒーで何も入れない。そして紅兄さんはホットでミルクを入れる。各々に配った後、俺は冷蔵庫で冷やしていた炭酸水を飲む。うーん、強炭酸。
「それにしても、リーヴラシル・フロントラインは凄いエンジンを使っているんだね。ネットの記事はそれについてで持ち切りだ」
「へぇ、見てなかったけどそんなに?」
「はい、一覧表」
「マジだ」
凄いな……ほとんどリヴラインの記事だ……あ、BMWの記事もある。へぇ、プロがやるゲームにBMWが追加されるんだ……大丈夫か? コアなゲーマーでも心が折れるレベルの変態しかいないぞ、あのゲーム。何が酷いって、ストーリーモードでは悪辣なNPC達が手取り(物理)足取り(物理)このゲームの何たるかを教えてくれる。なお、ストーリーモードを協力プレイでクリアもできるので、ストーリーをクリアするだけならそこまで難易度は高いとは言えないだろう。問題はPvPになった時である。
最初の方は同じレベルのプレイヤーとマッチングするのだが、勝ち続けてしばらくするとシステム側が「もう慣れた? 慣れたね? よし、じゃあ格上とも戦ってみようか!」と唐突にランク百位とかとマッチングさせてくるのだ。酷い時にはランク九位とか、トップランカーのような化物と戦う羽目になる。俺のランク? 越されているだろうけど、一番最後は九位でした。ヘイズは確か十一位くらいだった気がする。我が高速型ウォーローグ『メルクリウス』と自爆暴走型ウォーローグ『ジズ』は上位ランカー共が満面の笑みで挑んでくる最高のウォーローグだ。多勢に無勢となったのを何とか切り抜けたり、自爆して巻き込んだりしたのはいい思い出。
思い出したらやりたくなってきたが、それはそれとして、リヴラインを運営しているサプライズグッドラック社は、『VR技術であなたの明日に嬉しいサプライズを』というキャッチコピーを掲げているゲーム会社だ。毎月、自社や傘下の会社がリリースしているゲームについて動画サイトで生放送している。リヴラインやBMWなどもそうだが、たまーに他のライバル社の人を呼んでトークをしたりして沸かせているのだ。直近だと、芋デスをリリースした会社のゲームプランナーとのトークショーとか。
そんなサプライズグッドラック社がリリースした『リーヴラシル・フロントライン』のエンジンは他のVRゲームの常識を覆す――――なんて言われているくらい凄いものらしい。滑らかに動いたり、NPCのAIが凄いとかは何となく感じるけど、他に何が凄いかはよく分からん。その道の人達からすれば凄いことなんだろうな、としか。
「お、クランの話もしてるんだ」
「色々あるみたいだね」
秩序あるPvP大好きの集まり【グラディタンズ】、どんなところでもPKを行うPK集団【鬼刃道】、カレイドモンスターの一角たる腐敗の女神フレア討伐を掲げる【太陽の団】、リヴラインについて考察をしまくる【考察の大書庫】……他にも様々なクランがあることを楽しそうに話しているサプライズグッドラック社のゲーム開発チームの方々。本当に楽しそうにゲーム開発をしているんだなと理解できる表情と声音だ。
「ふんふん……夏のアップデートもあるのか……大型アップデート……」
ジョブとモンスターとエリアとスキルとNPCとクエストと武器と魔法と呪術の追加、あとはいくつか仕様の変更……今後も馬鹿みたいに増やすって書いてるんだが? 最高かよ。
「まぁ、やってればなんか感じるだろ。読んでも分からん」
「適当だね」
「ゲーマーの大半がそうだと思うぞ?」
読み込む人は読み込むし、読み込まないでプレイして仕様を確かめる人もいる。俺は後者のプレイヤー。ソフィアから仕様変更とかを聞いて、軽く検証したりすることが多いのだ。いつも助かってます、ソフィアさん。
BMWにおいてのアオヘビを見たプレイヤー達の反応
・超エンジョイ勢。くたばれ(満面の笑みと共に乱入)
・エンジョイしてるだけでランク九位に昇ってきたやべーやつ。やろうぜ(乱入)
・ジズだっけ?面白いビルドだね! メルクリウスも凄くいいね! くたばれ(狂気的な笑顔と共に乱入)
・よく動かせるな、そんなピーキーな機体(棚上げ)。くたばれ(闘争心剥き出しの笑顔と共に乱入)
・なぁ、上位ランカーだろ? 上位ランカーだよな? 上位ランカーだよなぁ!!?(乱入)




