練習している時が一番楽しいまである
朝の八時まで寝た後、鈴音姉さんによるダンスレッスンが行われた。いやはや、久しぶりに受けたが凄く厳しい。厳しいが、どこが間違っているのかをしっかり話してくれるから、次にどこを気を付けるべきかを考えて練習できる。
しかし、厳しいものは厳しいので心が強くないといけない。鈴音姉さんが冷酷とか氷だとか冷たいイメージで噂されるのは、このダンスへのストイックさがあるからだと思う。一個目の動きを覚えるのに一時間半かかっている。キレが足りない、ステップがズレてる、動きが大胆過ぎるなど……鈴音姉さんの的確で厳しめな指導でようやくマシになったところだ。
「碧、もっと近くでいいよ」
「……間合いじゃん」
「うん。それくらいでいいと思う」
鈴音姉さんの考えがドンピシャで当たっていそうだから、指示に従っているけど……これは、どうなんだろう?
そんな疑問が浮かぶのは、ダンスレッスンが始まってからずっと持たせられているものが原因だ。俺と鈴音姉さんが持っているもの。それは――――
「刀の間合いで踊るなんて……初めての経験だわ」
「大丈夫。当たっても痛くないし、当たらないから」
「まぁ、確かにこれなら痛くないだろうけど……」
刀。ゴム製の、まあまあ立派なそれを持たされて、俺はダンスレッスンを受けていた。本当なら模造刀を使って踊りの練習をする予定だったのだが、俺が慣れていないし、鈴音姉さんの見事な舞に合わせることができない。姉さんが当てなくても、俺が当ててしまって怪我をさせてしまうかもしれないということで、ゴム製の刀を持って練習中である。
「久しぶりに一緒に踊るけど、やっぱり碧は反射神経? 危機察知能力? と動体視力がずば抜けてるね」
「まぁ、そうじゃないと即死するような装備とかばっかり使ってるからな……」
なんでタンクのくせにそんな装備ばっかり使ってるんだと言われるかもしれないが、回避タンクとかパリィタンクなんて全員こんな装備になるよ。え? 回避とパリィがミスったらどうするって? 他の人にカバーしてもらえばいい。パーティープレイってそういうものだろ。ソロ? そうならないように練習してくださいとしか……変態になるなら、その覚悟はできてるはずだ。
しかし、鈴音姉さんの言い方……恐らく――――いや、十中八九その反射神経とか動体視力が今邪魔になっている。
「そのせいなのか、アドリブにも強いけど、型がブレちゃう。これは良くないかな」
そら見たことか。頑張れ俺。基礎を固めないと変態ビルドとは付き合っていけない。パリィタンクや回避タンク、刀リボルバーに魅了されたあの時を思い出せ。どれだけ練習しまくった? それと同じだぞ俺。プレイヤースキルでゴリ押しできたら色んなビルドなんて生まれていないのだ。自分の感覚だけに頼ろうとするな。全力で楽しみ、向き合え。
「っし、もう一回頼む、姉さん」
「うん、いいよ」
音楽は、テンライがいた場所の至る所にあった鈴の音だけ。……そういえばあの鈴、神楽鈴みたいだったなと思いながら、俺は鈴の音と共に動き出した鈴音姉さんの動きに合わせて、刀を振りながら舞う。
鈴音姉さん曰く、相剋で踊ると、流転の舞or相生の舞(鈴音姉さん命名)に寄り添うような動きになるらしい。ここでポイントなのが、俺がその動きに寄り添うこと。上回る踊りも、下手に出るような踊りもしてはいけない。そうなると相乗、相侮、というものになって舞が美しくならないのだそう。
「……そう、次は思い切り回って切り上げる!」
「――――ここかぁッ!?」
鈴音姉さんの声に合わせて回りながら切り上げる。切り上げと共に、切り下げが俺の鼻先を掠めたが、凄く噛み合ったような感じが心を震わせた。
「……だぁはっ!? 凄いひやっとしたし、疲れる!」
「でも一時間半でここまで来た。やっぱり碧はダンスの才能がある。……今度、日本である大会――――ゴホン。エキシビジョンに出ない?」
「出ない」
「えー……」
そんな捨てられた犬みたいな表情を見せても参加しないからな。鈴音姉さんの出る大会ということは、凄いレベルの人達が集まる魔境だろ? エキシビジョンとか言っても絶対に姉さんレベルの人しか集まらないから、素人の俺が出ても恥をかいて姉さんの顔に泥を塗るだけだ。
「姉さんのダンスは生で見たいけどさ……ダンスに出るのは、ちょっと」
「むー…………あ、そうだ。天羽星羅の生歌で踊れるよ?」
「絶対行かねぇ!」
「人気歌手の生歌でもダメか……!」
鈴音姉さんの言葉で絶対に行かないことを決めた。こっそり行くかもしれないが、天羽星羅もといソフィアに出くわしたら何が起こるか……来週の木金も、あいつの部屋に総菜を持っていかないといけないし……材料費とか電子マネーで振り込まれた時は頭を抱えたね。スキャンダルとか起こさないようにちゃんと対策しないと……ぐあああああ……今から腹が痛いぃいいいいい……!!
「というか天羽氏って、ダンスの歌も作ってたのか」
「新作らしいよ。私は聴いたけど凄かった」
「ふーん……」
そういえば喫茶店で何かしてたけど……もしかして、そのダンスについて何か最終調整とかしていたのだろうか? ……まぁ、配信されたらリアタイで聴かせてもらうとしよう。で、ゲーム仲間の皆とのグループチャットで感想を言い合う。うーん、楽しみだ。
「もし参加するなら聴けるよ」
「いや、いいって……」
「えー……」
えー、じゃねえよ。その前にこの舞をしっかり覚えないとソフィアに殺されかねないのでしっかり頼むぜ、姉さん。
「ダンスの練習もいいけど、二人共、一度シャワー浴びておいで」
「紅兄さん。見てたのかよ」
「私も見てたよ、碧、鈴音! 寿命が百年は延びたね……!」
おっと、化物にでもなるつもりか? それとそのちょっとお高いビデオカメラは何のために持ってるんだ?
「弟と妹の姿を舐め回すように見るためだけど?」
「消せ! 今すぐ! あと心を読むな!」
「花音姉さん、ちょっと気持ち悪い」
「辛辣なのも、いい……!!」
びくんびくんしながら体をくねくねさせるのを止めてくれ花音姉さん。俺達のことになるとどうしてこうも変態性を加速させるんだろう、この人は。
変態なのは碧君も同様。




