ゲームをする時は、適度に休憩を挟もう
蛇ノ目家兄弟、姉妹は全員ブラコンとシスコンをこじらせてます。
長女>>>>>>>次女>>>長男=次男くらいにはこじらせてます。これもまた愛。
安全地帯、ベースキャンプにて、第一段階終了の報告をした俺は、ふと時間を見る。
「おお、9時半か……」
「もうそんな時間? 結構やったわね」
「だなぁ」
オールでやると言ったとはいえ、長時間のログインは疲れる。カフェインを摂取すればいいのかもしれないが、俺はカフェインを大量に取り込むと具合が悪くなる。お蔭でエナジードリンクとは縁のない生活だ。
その分、ラムネとかを食べて脳にブドウ糖を送るのだが。
「一回休憩挟んでいいか? 一時間くらい」
「ええ、もちろん。私も軽く何か摘まもうかしら」
「そういや、今日の夜、何食べた? 俺は餃子」
「唐揚げ」
唐揚げ! いいよな、唐揚げ。揚げたてをハフハフ言いながら食べるのが好きだ。
餡をかけた八宝菜もどきにして食べるのも意外と好きだ。作るのが手間だから、あんまり作らないけど。
「餃子、最近食べてないわね。今度食べようかしら」
「そういや、ソフィアって独り暮らしだったよな。自炊とかするのか?」
「ええ、簡単なものならね。手間がかかるのは基本的にデリバリーするわ」
なるほど、デリバリーか……うちは食べる量が多い連中ばっかりだから、デリバリーするより作った方が安上がりだけど、ソフィアみたいな独り暮らしになると、デリバリーした方が安上がりな時もあるのかも?
「アオヘビ君は……結構自炊してるわね」
「人並に、だけどな。今日は姉さんがやってくれたし」
「唐突に上げてくる飯テロ写真は今も許してないわよ」
「今後もゲリラで送るんで」
「仕事の休憩時間にピンポイントで送ってくるの止めてくれる?」
長期休暇とかは昼飯を自分で作ることが多く、昼時ということもあって友人達に写真を送りつけることがある。写真を送ると、ソフィアも含めて全員がいい反応をしてくれるから、癖になっているのだ。
「今度作りに行ってやろうか?」
「あら、それもいいわね。来週の木曜日と金曜日お願いできる?」
「冗談で言ったんだが?」
「真に受けるわよ」
魅力的な笑みを浮かべたソフィアが来週の木曜日と金曜日の予定表を見せてきた。おいこら芸能人。ただの一般人にスケジュールを見せるんじゃねぇ。情報リテラシーどうなってんだ。
「こうなるから、下手な冗談は止めたやめた方がいいわよ」
「なんだ、冗談かよ……心臓止まるかと思ったわ」
「じゃ、木金お願いね。スケジュール見たんだし、逃がさないわよ」
「冗談じゃねぇのかよ!!」
「あ、逃げたらSNSであること無いこと呟くからよろしくね?」
「口と耳と目を潰せ過去の俺!!」
過去の発言が引き金となって、木曜日と金曜日にソフィアの飯を作ることが確定してしまった。しかもバックレたらあること無いこと言われる羽目になる。一般人は権力の前に無力である。
ソフィアめ、自分の影響力を理解していやがる……さすが今一番輝いている(当社調べ)若手シンガーソングライターだ。テレビで見る時は基本的に丁寧で口数が少ないってのに、こうしてゲームをしている彼女は滅茶苦茶饒舌で、煽り合いをするし、冗談を言い合ったり、からかいもしてくる。うーん……ギャップが凄い。
「アオヘビ君の百面相が見れたところで、一回休憩にしましょ。10時15分にログインでいい?」
「こ、こいつ……はぁ、了解。んじゃ、またその時間に」
ウインドウを開き、ログアウトボタンを押す。ここは安全地帯で、宿屋と同じ扱いなので即ログアウトが可能だ。
意識が現実世界に戻ってくる感覚と共に起き上がり、ヘッドギアを外すと、そこは俺の部屋。喫茶店の制服と、趣味のために買ってきたいくつかの機械、そして熱中症対策と言われて家族会議で購入が決定した小型冷蔵庫がある部屋だ。
「……ポカリを飲まねば」
あと、汗を流さないといけない。興奮で汗まみれ……あ、ヤバい、ベッドが寝汗で凄いことになっている。シーツも洗わねば……
「どうするかなぁ……」
うんうんと悩んでいると、俺の部屋のドアをノックする音が聞えた。
こんな真夜中に誰だろうか? 花音姉さんは複数のレポートがあるだとかで部屋に閉じこもっているはずだし、鈴音姉さんも今はダンスの大会で忙しいはず……となれば紅兄さんだが――――兄さんは彼女さんのところに泊まっているはずだ。
「ええい、ままよ。どうぞ」
俺が入室の許可を与えると、ドアが開く。暗い廊下から、俺の部屋に入ってきたのは――――
「や、碧」
俺の尊敬する兄であった。
「紅兄さん!? 彼女さんのところにいるはずでは……!」
「彼女は家の都合で今夜からいないんだ」
「なーる」
艶やかな髪を短く整えた色白の青年、蛇ノ目紅。御年22歳の蛇ノ目家長男にして、最強の良心である。花音姉さんと鈴音姉さんが突き抜けた変人だとするなら、紅兄さんは突き抜けた善人。なお、お人好しではなく、突き放す時は突き放すことができる善人だ。
容姿は滅茶苦茶整っている。清潔感のある短髪、垂れ目気味の優しい光が宿った瞳、線が通っているかのような鼻。かっこいいよりかは綺麗、という部類の顔立ち――――いわゆるイケメン。自慢の兄だ。
「で、どうしたの?」
「いや、冷蔵庫の餃子って食べてもいいのかなって」
「いいやつだよ。前も言ったけど、名前が書かれてないなら好きに食べていいから」
「そうだっけ? ……あ、そうだ、お土産買ってきたから一緒に食べない?」
「ご相伴に与らせていただきます」
お土産。兄さんの買ってくるお土産にハズレはない。むしろ当たりばっかりである。
「ふふ、深夜に食べるお菓子とか惣菜って、なんか背徳感あるよね」
「分かる~!」
防音素材で作られている家だから、結構叫んでも近所迷惑にならない。父さんと母さんが結婚した時に建てたって聞いているが、なぜほぼ全ての場所を防音加工に……? 聞いたらちょっと深淵に片足突っ込むどころか首まで浸かりそうだから聞いてないけど、なぜ防音加工にしてるんだろう。
「碧はご飯は食べるかい? 僕は食べるけど」
「んー……俺はいいかな」
「私は食べたい」
「じゃあ私も」
「「ふぉおおう!?」」
突然俺達の間に挟まってきた声に驚き、兄弟どちらも同じ反応をしてしまう。
「やあやあやあ、おかえり、マイスイートリトルブラザー&リトルシスター」
「花音姉さん、酔ってる?」
「可愛い弟と妹がいることに興奮しない姉はいない!!」
いや、普通にいると思う。世界の姉が全員そうだったら怖いよ、普通に。
凄い勢いで頬擦りしようとしてくる花音姉さんを躱しながら、もう一人の姉を見る。
「というか、鈴音姉さんはいつ帰ってきたんだよ?」
「さっき。あとこれ、優勝トロフィー」
おお、凄い派手なデザインをしたトロフィーだ……む、トロフィーに何か挟まっている……難しい英文があって全部は読めないが、姉さんに愛を囁くような内容だ。多分、今回の大会で組んだパートナーからの手紙だろう。
「姉さん、この手紙どうするんだ?」
「手紙? …………気付かなかった。捨てていいよ」
哀れ、パートナーの人……無慈悲なまでの廃棄処分だ。すまない、うちの姉、そういうところは鈍いんだ……へっ、ざまあないぜ。
「兄さんと会わなかったのか?」
「会ってない。紅兄さんとは多分、数分違い。あと碧、おかえりのキスとハグを――――」
「しねえよ!? 生まれてこの方やったこともねえわ!?」
氷のような印象を持たせる細身の女性は、小さく笑みを浮かべて俺ににじり寄ってくる。無表情に見えて、その実、滅茶苦茶感情豊かな我が二人目の姉、蛇ノ目鈴音。ダンスの世界に飛び込んで、結構結果を出しているらしい突き抜けた姉だ。あと、滅茶苦茶モテる。男性女性問わず。どこの馬の骨とも分からない奴に鈴音姉さんは渡さねぇぞ。
「古い慣習は、更新するためにある……」
「古いものにもいいことがあるんだよなぁ……! 俺の傍に近付くんじゃあねぇ!!」
「じゃあ、そっちが近付いて――――」
「達人の間合い!」
あ、危ねぇ! この姉、凄く滑らかな、それでいて自然な動きで俺に接近してきやがった!! 花音姉さんを捌きながら、鈴音姉さんを捌くのはキツイ! 俺が無双できるのはゲームの世界だけなんだよ!!
「む……しばらく見ないうちにまた素早くなった」
「俺は休憩するためにリアルにいるのに、なぜ疲れている……?」
「隙あり!」
「甘いんだよなぁ、ブラコン&シスコンがよお……!!」
飛びかかってきた花音姉さんを相手に、バーストステップモドキを披露することになった俺は、この状況を切り抜けるための手段を考える。
その1、風呂場に逃げ込む。汗をかいたから、正直着替えたい。だが、紅兄さんが帰って来たという衝撃で着替えを忘れてきたため、これは却下。
その2、兄さんにタゲを擦り付ける。一番簡単だと思う反面、兄さんのような聖人をこのくだらない戦に巻き込んでいいのだろうか? 否、巻き込んではいけない。
その3、諦める。羞恥心に耐え、我が姉達の攻撃を受け入れる――――一番嫌なんだが? 俺もブラコン、シスコンなところはあるが、あそこまではっちゃけているわけではないのだ。姉さんと付き合う相手は見定めさせてもらおうと思う程度にはあれだが。
「あ、そういえば碧、リーヴラシルはやってるのかい?」
「やってる――――というかさっきまでログインしてたんだけどうおあああああ!?」
「体幹が!?」
飛び込んできた姉二人を支えきれず、咄嗟に手を伸ばしてきた紅兄さんを巻き込みながら倒れ込む。柔らかい床材と、人をダメにしそうなレベルで柔らかいソファがクッションになってくれたお蔭で怪我はない。頭がクラクラする程度だ。
にしても、こんなに騒々しく、それでいて賑やかなのはいつぶりだろうか。なんだかんだ言って、趣味の時間とか、一人の時間に費やす家だし、両親は帰ってくることが難しいくらいに色んな県に飛んでバリバリ働いている。だから俺と花音姉さんが一緒に食事をする機会が多いくらいで、皆と食事をしたり、こうして戯れるのは結構久しぶりな気がする。
「く、くくく……! あっははははは!」
「碧、どうかした?」
「頭打った!?」
「いや、大丈夫」
久しぶりの戯れに、笑いが出ただけで、頭は正常に働いている。乱数の女神は敵、ハクスラはゴールの無いマラソン、回避タンクとパリィタンクは最高のジョブ。うん、正常に働いているぞ。
「まぁとにかく、何か食べようぜ。紅兄さんも鈴音姉さんも腹減ってるんだろ?」
「空いてる。あ、お土産あるから、皆で食べよう。ご当地カレーパック」
「ご飯が欲しくなるやつ来たな……兄さんのお土産は?」
「塩辛と漬物。向こうで人気なんだって」
どうしてこうもご飯に合うお土産を買ってくるんだ、うちの連中は……! 軽く何か摘まむ程度に留めようと思っていたのに、白米を食べたくなってくるじゃないか。
夜中に白米を食べるというのは、健康に悪いかもしれないが、今回は特別だ。それに、兄弟、姉妹が揃ったんだし、待ち合わせの時間まで色々と話をしたい。
休憩するために現実世界にいるのに、ちょっと疲れてしまったが、楽しい夜の団欒になりそうだ。




