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パリィタンクが往く、リーヴラシル・フロントライン  作者: ゼノ
空を見上げ叡智を知り、地を見て深淵を知る。
16/68

色んなジョブを使えるゲームって楽しいよね。

「チーズケーキは置いておいて……店長、今日のオススメなんでしたっけ」


「……プリンアラモード」


 結構なお歳でありながら、佇まいが極みへと到った武人のそれである寡黙な店長が今日のオススメを口にする。ちなみにこの店のスイーツは、全て店長の手作りだ。


「俺の給料から天引きでいいんでください」


「……給料はしっかり払うよ。賄いでいいかい?」


「マジですか」


 まさかの賄いがプリンアラモードに決定された。本日分のカロリーと糖分を取りきってしまうのでは?


「……星羅ちゃんと食べな」


「あざぁっす!」


 すぐに作る、と言って調理場に消えていった店長に頭を下げてから、お客さんの入り具合とかを確認する。やはり平日……あまり客がいないな。


「おや碧ちゃん。彼女さんの相手はいいのかい?」


「あの人、俺の彼女じゃないですよ」


「結構仲良さげに見えたがねぇ」


 店長を待っていると、カウンター席に座っている老夫婦が茶化してくる。この人だけじゃないが、俺とソフィアの関係を勘違いしている人が多い。俺もソフィアも言っているが、お互いにルールを設けた上で打算を働かせる関係だ。仮にソフィアを彼女にしてみろ……俺は尻に敷かれる自信がある。


「碧ちゃんはもっと冒険せんといかんぞぉ。若いんだから、当たって砕けろの精神で」


「そうそう。あんなに綺麗な子を放っておくなんて、男の子としてはダメよ?」


「玉砕せよと?」


 今の関係が一番楽しいんだが? 確かに昔ちょっとだけ、ソフィアみたいな人が彼女だったら結構楽しいだろうなとか、考えたことはあったが、それを口に出したらソフィアに滅茶苦茶笑われた。当時の自分も「笑っちゃうよなぁ」とつられて笑っていたが。


 にしてもどうしようかなぁ……この老夫婦の話、始まると長いんだよな……これ以上ソフィアを待たせるわけにもいかないし……


「……お待たせ」


 そう思った矢先、店長が大きな器に入ったプリンアラモードを持って調理場から出てきた。ナイスタイミングです、店長……なんだけど……


「店長、このクロックムッシュはどこに出せば?」


「……2人で食べな」


「ありがとうございます!」


 まさかプリンアラモードだけではなく、クロックムッシュもいただけるとは。この幸運に感謝しながら、ソフィアがいる個室へと戻る。一応ノックもして扉を開くと、パソコンを用いて何やらカタカタと入力しているソフィアがいた。


「ソフィア、お待たせ」


「ーーーーあら、おかえりなさい」


「なんか急ぎの課題でもあったか?」


「アオヘビ君じゃないんだから、それはないわよ」


「おっと、俺は嫌いなものを先に終わらせて娯楽に耽るタイプだ」


 ブルーライト対策としてなのか、眼鏡をかけていたソフィアは俺が手に持っているトレーを見て軽く目を剥いた。


「雑誌に載ってたけど、本当に大きいわね」


「だろ? あとクロックムッシュ。ソフィアと食べろって、店長が」


 クロックムッシュをソフィアに渡す瞬間に、ちらりとパソコンを見たが、何かの文字の羅列が見えた程度で終わった。ソフィアのことだから、多分作詞でもしていたのだろう。


「ご飯も来たところで、そろそろ計画も詰めましょうか」


「まずはレベリングだろ? ノルマは?」


「そうね……クエストの推奨レベルが80だから……75までは欲しいかしら」


 俺の今のレベルが確か……22くらい。だから53もレベルを上げないといけないわけだ。


「ハードなスケジュールになりそうだな、おい」


「? 別にステータスレベルを53上げる必要はないわよ?」


「ぬ?」


「……ああ、言ってなかったわね。リーヴラシルには2つレベルがあるのよ」


 レベルが2つ。……2つ。…………2つ?


「なんでレベルが2つもあるんだよ?」


「ジョブレベルよ。あれもレベルみたいなものだもの」


 ええと……レベルが低くてもジョブのレベルが高ければやりようはある、ということか。今までもジョブにレベルがあるゲームは数多く輩出されていたが、ジョブレベルが普通のレベルと同等の価値を持つゲームはリヴラインが初めてではないだろうか。


「アオヘビ君の職業は?」


「戦士」


「なら、闘技場や自然戦場(ネイチャーコロシアム)がいいかしら」


 ネ、ネイチャーコロシアム……? 天然の闘技場? それも気になるけど……


「クエストをクリアしたり、モンスターを倒しまくってれば上がるもんじゃないのか?」


「それでも上がるわね。けど、職業に適したクエストや場所で特定の行動をする方が上がりやすいわ」


「それが戦士の場合、そのネイチャーコロシアムってこと?」


「ええ。コロシアム……と言っても闘技場ではないけどね」


 闘技場ではない。だというのにコロシアム。うーん……分からない。


「自然戦場は……そうねぇ……少し格上と格上がどんどん押し寄せてくるイベントエリアかしら」


「クリア条件は?」


「モンスター100体撃破または大物3体の撃破よ。まぁ、君が入れる自然戦場には大物が出現しないけど」


 なるほど。連戦エリアなわけね。確かにそれだけ狩れるのなら結構な経験値になりそうだ。だが、そんな経験値稼ぎに最適そうな場所なら、色んなプレイヤーが手を出して混沌としている気がする。特に今は夏休み真っ只中で、プレイヤーも増えているのだから。


「混雑してそうだなぁ……」


「問題ないわ。自然戦場に近付くプレイヤーは大体変態奇人の集まりだから、普通のプレイヤーは寄り付こうとも思わないから」


「……遠回しに俺が変態奇人の1人って言ってる?」


「事実じゃないかしら、変態プレイヤーさん?」


「はっ、巨大ブーメラン突き刺さってんぞ」


「あら、本当ね」


 蠱惑的に微笑んだソフィアに煽り返すと、受け流されるどころか受け止められてしまった。まぁ、煽り合いの大喧嘩になるよりかは健全だ。


「それに、プレイヤーが挑戦中は、自然戦場に他プレイヤーが入れない。パーティーを組んでいるなら別だけど」


「アイテムとかは落ちるのか? それなら金策にーーーー」


「落ちないわね。実績と経験値は手に入るけど」


「ほーん……」


 アイテム稼ぎや金策には使えないんだな。まぁ、使えちゃったら入り浸る大型クランとかもいそうだし、妥当な設定だろう。


「で、なんでそこに行くんだ?」


「さっきも言ったけど、戦闘職の経験値の入り具合は場所によって変わるの。騎士系なら城などの屋内、戦士系なら草原などの屋外。闘技場はどんな戦闘職でも上がりやすいけど」


 曰く、闘技場は色んなプレイヤーが集まり、NPCも混ざるためPvPスキルだけではなくPvEスキルも磨けるのだとか。確かに初心者ならそこに行くべきだと思う。けど自然戦場は魅力的だなぁ……格上が押し寄せてくるイベントエリアかぁ……


 プリンアラモードに乗っていたアメリカンチェリーを口に放り込みながら、どこに行くべきか思案していると、ソフィアが口を開く。


「私のオススメは断然自然戦場ね。闘技場は、そこを縄張りにしている【グラディタンズ】のお陰で治安はいいけど、まだちょっとアレなの」


 そういえば掲示板にも注意書きがあったな。少なからず害悪プレイヤーが混ざっているため、注意するようにとかなんとか。あと出会い目的のプレイヤーがいるとか。リヴラインはマッチングアプリじゃねぇぞ。


 とにかく、そうなってくるとソフィア視点だと比較的治安がいい自然戦場がオススメってわけか。まぁ、俺も対人よりもPvEをやっていたい人間だから、自然戦場の方がいい。ーーーーあ、そういえば闘技場で思い出した。


「ソフィア、俺、ローニンとフレンドになったよ」


「……ローニン? ローニンってあの【剣妖】のローニン?」


「そう、そのローニン。なんか気に入られた」


 何が理由で気に入られたのかは分からないけど、とにかく気に入られたのだ。思い出したことをソフィアに伝えると、彼女は呆れたような、やらかした弟を見る姉のような視線を俺に向けてくる。


「ローニンに気に入られたって、何をしたの?」


「いや、普通にPK捌いてただけ。ローニンが倒したけど」


 アップデートによってPKに重いペナルティが入っているらしいけど、それでも減らないということは闘技場でのPKではない、不通のPKに魅力を感じているプレイヤーがいるということだ。俺が会ったやつは初心者狩りをしてるだけで、PKの魅力を知らないのだろうが。


「ソフィアはローニンと知り合いなのか?」


「シャコフィストとは知り合いよ。ローニンとは面識がないわ」


「シャコフィスト……ああ、【拳聖】!」


 あの2人は上澄みの中の上澄みだろうな。負けるかもしれないが、いつか戦ってみたいものだ。


「ま、とにかく自然戦場に行くわよ。あそこでレベリングすれば、戦士のレベルはすぐ上がるから。君、サブ付けてないし」


「ここにきて縛りプレイの恩恵が……!」


「そのうちサブも取るわよ。生産職か探索職」


「なぜ生産職と探索職」


「補正値の特化がこの2つなのよ。私は取ってそのままだけど」


「マジか」


 リヴラインは色んな職業を使う機会があると、運営の雑誌インタビューで記載があったが、戦闘面でもシナジーがあったりするみたいだ。


「ギルドでしか職業の切り替えはできないけど、やることに合わせて変更する人は少なからずいるわよ」


「へぇ……」


「メインを料理人にしているプレイヤーが、肉や魚が欲しいと言って狩人や釣り師になることもあるの」


 ……つまり、あれか? インテリアを作りたい大工が木材を取るために木こりになったり、採掘師になったりするってことか? 自由度の高いゲームとは分かっていたし、全てのジョブに意味があるとは分かっていたが……全てのプレイヤーがほぼ平等に色んな機会が与えられている。もちろん時間は費やさないといけないが。


「あと、下手な戦闘職よりも生産職の方が強かったりするわよ」


「ええ……」


「シャコフィストなんか、メインが上級鍛冶師(ハイスミス)の素手ビルドだしね」


「……仲良くなれそうな気配がするなぁ?」


「少なくともアオヘビ君みたいな変態プレイヤーじゃないわよ。メリットのためのメイン生産職、サブ戦闘職だし」


 いやしかし、それでも一度会って話をしてみたい。ローニンは……多分侍? サブがなんなのかは分からないが、軽業系ができるサブとかを付けていそうだ。

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