迅雷の猪竜
瓜坊なのか、ドラゴンなのか。
ドラゴンなのか猪なのか、はたまた両方なのか。それが問題だ。
そんな冗談を言わないとやってられないようなクソ強モンスターが、俺の目の前にいる。ここで奴のーーーーカリュドーンのイカれた攻撃を紹介させてもらおうか。
雷光を纏った突進(スリップダメージ付き)! 喰らったらまず一撃。喰らってはならない。
口から放たれる雷レーザー!恐らく弾道にもダメージ判定があるため、喰らってはならない。
巨体を活かしたプレス攻撃! これにも雷属性が付いているぞ! 喰らったら一撃だ!
立派な牙を使ったかち上げ及び落雷攻撃! モーションが大きいけど、間違いなく喰らったら即死だ!
…………うーん、この。絶対に殺してやるという強い意志を感じる攻撃ラインナップに涙が出るぜ。
「ブルルルル……!」
「またレーザーかよ!?」
パリィできない技を出すの勘弁してほしいんだが!? ドラゴンはドラゴンに強く、同時にドラゴンに弱いのか、突進をパリィしたドラゴスパイクが耐久値を半分以下にまでされてしまっている。逆に古草原の槍は無事ーーーーとはいえ、耐久値の残りは半分程度なのだが。
そもそも追憶の獣というのは何ぞや? 明らかにレアモンスターなのだが……しかもドラゴンだし。運営からの殺意を感じさせてくれる凄まじいボスだ。
だって殺気が凄く伝わってくるもの。作り込みが明らかに違うぞこの猪。ステータス的にも、逃げられないのが分かる。んで、こいつの種族は……なんだ? 猪? ドラゴン? どっちだ。ドラゴンスレイが発動しているということは、ドラゴンなんだろうが、見た目が完全に魔法が使えるエレメント猪なんだよな。
(逃げるのは不可能……うーん、こいつは中々……)
クソゲーの香りがしなくもないが……どうだろう? しかし、こいつが現れるという情報だけで、値千金の価値がある気がする。攻略サイトを覗いた時、追憶の獣なんて項目は無かったはずだ。プレイヤーが秘匿している可能性はなきにしもあらずだが。ーーーーまぁ、それはそれとして。
「おい瓜坊。俺は嫌いなものがいくつかあってなぁ……!」
「ブモ?」
「格上エンカウントはいい。別に慣れてる。……だが!」
話を聞く、というモンスターにはあるまじきAIが積まれているようで、俺の言葉を聞いて首をかしげるような動きを見せたカリュドーンに、俺は槍を向けて叫ぶ。
「素材を落とさないやつ、うだうだと話の長くて何言ってるか分からねぇドラゴンとか神! こいつらは絶対に許さねぇと決めている!!」
てめぇはそのどれにも含まれてねぇが……!
「お前ドラゴンだよな? ドラゴンなんだよな? 倒されたら素材を落とすのか?」
「……ブモ」
俺の戦意を感じ取ったのか、ニヤリと笑うかのようにくぐもった鳴き声をあげたカリュドーン。
武器は半壊&ほぼ全壊&無傷で、相手は全くの無傷。普通なら逃げることはできずとも、逃走を選択するのかもしれない。しかし、俺のゲーマーとしての魂が逃げることを許さない。少しでも勝てる可能性があるのなら、0.1%でも確率があるのなら、それを掴もうとする。
「落とすか落とさないか……てめぇを倒して確かめてやるよ!!」
「ブモオオオオオオオオオオッッッ!!」
雄叫びと共にスリップダメージ付きの突進を繰り出してくる猪ドラゴンに対して、俺は残りHPが少ないと分かっていながら、パリングカウンターで迎撃することを選択。ポーションで回復はしているため、半分くらいはある。スリップダメージがあっても、HPが1~5くらいは残るはずだ。
「っしゃあ体力ミリ! お返しだこの野郎!!」
堅牢が発動したドラゴスパイクで、本日大活躍のスパイラルスタブを発動! どんなモンスターであってもーーーーいや、どんなドラゴンであっても、必ずそれは存在しているよなぁ!!
「てめぇの場合……ここだろ!?」
「ブギォオッ!?」
パリングカウンターでかち上げた瞬間、腹の真ん中に見えた雷を纏う鱗。逆鱗と呼ばれるそれに槍がぶつかったため、クリティカルが発生し、多段ヒットで逆鱗を貫く。
「弱点見つけりゃこっちのもんだ! 素材置いていけぇ!!」
なお、回復アイテムはもう数個しか残ってません。詰みかな? ……詰みだろうが相討ちにまでは持っていってやらぁ!!
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場所は変わって現実世界。とあるマンションの一室にて、CDの収録を終えて帰宅していた少女がスマートフォンをいじっていた。
(……あら? アップデート来るのね。魔法の調整と、モンスターの追加……)
少女が確認していたのは、リーヴラシル・フロントラインの情報だ。この少女ーーーー今若い男女に人気のシンガーソングライター、天羽星羅こそが、パリィタンクのアオヘビとパーティーを組んでいるソフィアなのだ。アオヘビはどうせアップデートの情報など見ないだろう、と想定して、彼女が代わりに確認している状態だ。
「……やっぱり短剣と刀、渡しておこうかしら」
アップデート内容に軽く目を通しながら、楽しそうに笑みを浮かべる星羅。パワープレイは好まないと言っているアオヘビではあるが、彼のレベルに合っている武器を星羅はいくつか持っている。自分は使わないというのに、同じ穴の狢たる彼と遊ぶためだけに用意していたのである。
星羅ーーーーソフィアとアオヘビの出会いはイモータル・デストラクションのチームデスマッチだ。当時、ランク上位にいたソフィアが出くわしたのは、芋デスにおいて最も扱いが面倒と言われていた電磁ブレードと、ロマン砲と呼ばれていたリボルバータイプの銃でソフィアのチームを切り刻んでいるアオヘビ。
間合いに入った直後、居合いの要領で真っ二つにされたソフィアは、自分と同類が見つかったと理解し、他のプレイヤーには目もくれずアオヘビに襲いかかった。お互いに変態だと言い合い、なぜか話が噛み合い、チームデスマッチが終わってすぐにフレンドになった。今ではゲーム、リアルどちらでも関わりのある関係になっている。
(彼のプレイヤースキルと装備……あとはある程度のレベルがあれば……)
アオヘビの狂ったプレイヤースキルと、それに見合う装備があれば、自分の目的達成にグッと近づくはず。
「問題は彼が受け取ってくれるかだけどーーーーあら?」
そんなことを考えていると、スマートフォンが着信を伝えるバイブレーションを発生させた。仕事用ではなく、プライベート用のスマホに連絡先が登録されているのは、両親を含めて数名しかいない。誰が連絡を、と思い確認すると、今彼女が色んな意味で夢中になっている件の少年からであった。
「もしもーーーー」
『猪なのかドラゴンなのか。瓜坊なのか蜥蜴なのか』
「せめて日本語で話してくれる? 分からないわ」
『日本語だろ』
意味の分からない言葉の羅列に困惑した星羅。そんな彼女に対するのは先程瓜坊にやられてしまったアオヘビこと蛇ノ目碧である。
「リーヴラシルのことだろうけど……状況を教えてくれる?」
『坑道、モンスター、捌く、雷、瓜坊、ドラゴン、パリィ、殺られる』
「……相当疲れてるわねあなた。休んでからまた話をお願いできる?」
『了解。……バイトあるので、そこで』
「ええ、いいわよ」
単語を唱えることしかできていないアオヘビに対して、星羅はそう言って通話を終了する。明日の予定は、決まったようだ。




