第二百七十六 〜 井戸のある中庭 〜
井戸の中には、雲が流れていた。
雄紀は、上を向いた。
空の景色を確認するためである。
頭上の空の景色は、少し長い、途切れ途切れの筋雲が、少し早めな様子で流れていた。
雄紀は、もう一度、井戸を覗いた。
真っ青な空に、ふわふわで真っ白な羊雲が、昼下がりのお日様色に光っていた。
『こっちの方が良いなぁ・・・・。 』
雄紀は、思った。
雄紀は、周りを見渡した。
どうやら、平屋の建物の中庭の様だ。
ガラス戸越しに、建物の中の様子が目に入った。
暗過ぎて、よく見えない。
どうやら、食べ物屋さんの様だ。
手前にレジがありそうなポディウムの様なカウンターがあって、そのカウンターは、細長く部屋の奥まで続いている様であった。
そして、その奥の様子は、良くは解らないが、テーブルが、たくさん並んでいる様に見えた。
井戸の周りを観察して見る。
植木鉢がたくさん重ねられた列がいくつかあって、そのうちの1つに、移植ごてが入っている。
奥の、方の入口の脇に、袋に入った土が、2列、腰の高さまで積まれていた。
どうやら、この建物の家主は、何かを鉢植えにするか、移植するつもりらしい。
ちょっとだけ、席を外している様に見えるが、一向に戻って来ない。
と言うか、井戸から出て来て、雄紀は、誰にも会っていない。
風が、空気は、まだ少し、冷っとするが、日差しが心地良い。
雄紀は、再び、井戸を覗いた。
井戸の中に腕を伸ばしてみる。
霞の様な、何か、実態を持たない膜のようなものに触れた気がした。
手を、上へ持ち上げると、羊雲の空の景色が、指先にくっついて、びよよよんと、離れてはずんだ。




