不本意なイメチェン
「わははははっ! なんやそれ! めちゃめちゃおもろいやないか!」
管理人室に笑い声が響き渡る。
声の主は飛角。声が向けられた先にいるのは総司だ。
もう少し詳しく説明すると、飛角が総司の頭を指差して大声で笑っている状況だった。
「もう飛角君、あまり笑うと可哀想ですよ」
「せやけどこれは笑われずにいられんやろ! ぷっくっくっくっ。あ、あかん笑いが止まらんわ!」
「はは……」
あまりにも笑い過ぎている飛角を咎める雪菜だが、一向に彼の笑いは収まらない。
総司も総司で憮然としているというか、乾いた笑いを声を漏らすばかりで自分の金色の髪をしきりにいじっていた。
「ごめんね! 私がペンキをぶちまけてそんなのにしちゃって」
「いや、事故ですし。数日もすれば落ちると思うので」
「ほんとごめんね。ペンキが落ちてきたら、綺麗になるように知り合いの美容室を紹介するから」
手を合わせ何度も謝っている一花が総司の髪を金色にしてしまった張本人である。
事の発端は一花がアパートの外壁の塗装を行っているところを通りすがった総司に、イエローのペンキ缶を落としてしまったのだ。
見事にぶっかけられたペンキはたちまち彼の髪の毛を黄色く染めていき、乾いた後には金髪っぽくなっていた。
ペンキを落とすための専用液を使っても良かったのだが、刺激物のため肌や髪が痛む恐れがあり水洗いで注ぐしかなく完全にはペンキが落ちなかった。
そんな経緯から彼は今後数日この姿で過ごす羽目になったのである。
「にしてもこんなに金髪が似合わないとはなぁ」
管理人室にある鏡で自分の髪を見やる総司だが確かに似合っていない。
元来、彼はそれほど明るい人間ではないので、金髪になってしまった為に中途半端なチャラさがどことなく漂っている。はっきり言って最悪だ。
総司は面倒くさがってあまり髪を切らないので、前髪は目元近くまで伸びていたりしていて、流石に目が全部隠れていたりするわけではないがどうしてもぱっとしない。
何より彼自身が知り合い以外にはそれほどにこやかにすることも少ないので、黒髪の時はよく陰キャにカテゴライズされていたりする。
「お前が髪型を適当にしてるせいやろ。元々の素材はええ方なんやけどな」
「ですよね。顔立ちは良いですし、もう少し明るく振舞いつつ髪をいじれば大変身できると思うんですけど」
「うんうん、だよねだよね! 今のままだとはっきり言ってダサいかも。いや、こんなにしちゃった私が言うのもなんだけど」
と、三人から散々な言われようである。
似合っていないことも、自分でもぱっとしない見た目をしていることは理解しているので、文句はそれほどない。
ただ、一人だけそう思わないものもいたようで――
「かっこいい……」
真白がぽーっとした表情でそう言う。
これのどこが良いのかさっぱりわからない四人は首を捻るが、彼女にはどうも受けが良いらしかった。
「真白ちゃんはチャラい系が好みなの?」
「ううん。チャラいのは嫌いです。でも、金髪は意外と好きかもしれません」
なるほどそう言う事らしい。
彼女の言動から、騒がしかったり浮ついている人間は好みではないと分かっていたが、髪色は多少派手でも問題ないようだ。
一人くらいはこうして良いと思ってくれて総司は少し安心する。
「にしても、やっぱり似合わんな。身長もそこそこあるし、なんか輩みたいやで」
「うるせーな。ほっとけ。昼から出かけるんだろ? こんなところで油売ってないで早く五十嵐を連れて行ってやれよ」
「へいへい。これでも被っとき。少しはマシやろ」
いつまでもからかってくる飛角を追い払うように総司が言うと、彼は自分で被っていたキャップを投げて渡してくれる。
総司としてもあまり見られたくない姿だったので、帽子で隠せるのはありがたい。
「ったく、気が利くのか失礼な奴なのか」
総司は言いつつ、雪菜の手を引いて管理人室から出て行く飛角を横目に帽子を被る。
ダサさの象徴はキャップおかげで殆ど隠れたが、やはり見えてしまう部分はしょうがない。
早い事、美容室に行こうと彼は決めた。
# # #
その午後、総司が金髪になったことで良いのか悪いのか分からない出来事が起こった。
「あれ⁉ 極夜さんだよね!」
「マジじゃん!」
「お、ひっさしぶり~」
総司が花壇の奥の方で雑草を抜いていると、道路側に面した場所で向日葵に水を撒いていた真白が制服姿の男女三人に声を掛けられていた。
その三人は見知った顔ばかりで、どうやら同じクラスの面々だった。
終業式の日に面倒な事が起きたので、総司は警戒して聞き耳だけ立てておく。
「久しぶり。みんなは部活の帰り?」
「そうそう。極夜さんは?」
「私はバイト中」
「へぇ、何のバイト?」
「アパートの管理人のバイト」
「そんなのあるんだ!」
と、聞く限りクラスメイト同士の普通の他愛もない会話が広げられており、彼らも反省したのだろうと総司は作業に戻る。
「肥料は何処にやったっけな。おーい、ここにあった肥料なんだが……」
彼は雑草を抜き終わって肥料を撒こうと思い肥料を探したが見つからず、そう声を出しながら不覚にも総司は真白たちの前に出て行ってしまった。
「あ……」
「うわ……」
「えっと……」
三人のクラスメイトたちは総司を見るなり、一様にびっくりして少し腰が引けていた。
帽子を被っているとはいえ、チャラそうな金髪姿の男が出てきたら驚くのも無理はない。
彼の身長はクラスメイトたちよりもやや高いし、中学時代にスポーツをしていたこともあり体つきは良い。
クラスでの総司とあまりにもかけ離れていた所為で、彼らは目の前にいる少年が総司だと気付いていないらしく、「なんかヤバい奴が出て来た」といった反応を示していた。
「あの! すみません! お仕事中なんですよね! お邪魔してすみません!」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「失礼しますっ!」
「いや、別に……って行っちまった」
別に何かしようとしたわけではないが、彼らからすれば仕事中であることと怖い人という組み合わせによって怒られるとでも思ったのだろう。
三人はそそくさと逃げ出してしまった。
「行っちゃったね」
「ったく、よく見れば俺だって分かるだろうに。いや、まぁ気付かれなくて良かったのか」
怖い人と勘違いされたことは不本意だが、総司と判明しなかったことは不幸中の幸いだろうか。
夏休み前は目立つタイプの生徒ではなかった彼が、急に金髪になっていたら変な噂が流れるかもしれない。
夏休になってはしゃいでいると思われるのは嫌だ。
何より、真白と一緒にいる所を見られるのは面倒くさいことになりそうなので、バレなかったのは良かったと前向きに捉えるしかない。
「俺、そんなに怖いか?」
「全然」
「だよな」
「うん」
真白はそう否定してくれるが、日常的に一緒にいる友人だからこその回答ともいえるだろう。
多少の慰めになる程度で、総司は彼らの反応がショックだった。
「お前は綺麗な銀髪だし良いよな。この金髪、色が悪いから余計に悪く見えるんだろうな」
「いっそ総司くんも銀色にする?」
「絶対に似合わないだろ」
真白の髪はいつ見ても流麗で見惚れるほどだ。
長い髪の手入れは大変だろう。仮に総司が銀色に染めたとして、真白の銀髪のような綺麗さを保つのは不可能に近い。
彼にそれほどのマメさもないし、金髪ですら似合わないのに銀色などどうやっても似合いそうにない。
「一度、友達と髪色をお揃いにしてみたかった」
「俺とやるのは諦めてくれ」
ふと、真白が自分の髪をくるくると指で巻きながら言う。
どうやら彼女にはそんな願望があったらしい。総司はあまりお洒落に興味が無いので、髪型や髪色を誰かと揃えたりしようと思わないのだが、女子はそういうものなのかもしない。
クラスでもたまに髪型をお揃いにして遊んでいる女子を見かけることがあるし、仲の良い女子同士でインナーカラーを合わせたりしているのも見たことがある。
だが、残念ながら総司はそういう事をする意味が分からない人種だった。
「というか、髪をいじって遊びたいなら五十嵐を誘えばいいだろ」
「駄目。彼女は黒髪が一番。それ以外は邪道」
「あー分かる。あいつはザ・大和撫子って感じだもんな」
真白と仲の良い女子と言えば雪菜くらいだが、その髪色は黒だからこそ良いのだと彼女は力説する。
もし、雪菜が銀髪になったとしても綺麗だろうが、確かに黒髪の方が映えそうな気がするので彼も真白の意見には全面的に納得した。
「まぁ、金髪と銀髪も対照的で面白いけど」
「そうか?」
「うん。そんなわけで、私たちのコンビ名は金さん銀さんにしよう」
「俺はすぐに黒髪に戻すけどな」
ペンキが落ちてきたら真っ先に美容室に行って綺麗に整える予定である。
真白には悪いが黒さん銀さんコンビに戻らせてもらうつもりだ。そもそもコンビかどうかも分からないが。
「もったいない」
「ほんとに金髪が好きなんだな」
「自分でも意外な発見だった」
真白はほんのり照れながら言う。
彼女が金髪が好きだというのなら、言うほど悪い気もしない。もう少しだけ金髪でいてもいいかと総司は思った。
「でも、少し髪は切らないと。ちょっと長い」
「おい、帽子を取るなよ」
「ふふふっ。眼福なり」
真白は不意に総司の帽子をとって彼の金髪を見て楽しもうとする。
あまり見られたくないので彼は嫌がるが、そう言ってくれるのならやはり悪い気はしない。
総司は諦めて彼女が満足するまで帽子を取られたままにした。
長らくお待たせしてすみません。
出来る限り通常の投稿頻度に戻していきます。流石に週一投稿は休み過ぎなので反省してます。
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