まさかのエンカウント
昼食と夕食を共にすることになってから約一週間ぐらいが経ち、総司と真白はその食費を出し合っているので、買い物を一緒に行くことになった。
学校の知り合いに出くわすことが無いように二人は朝一番からスーパーにやって来ていた。
まぁ、今は金髪なので昨日の様子からして総司だとはバレにくいだろうが。
「総司くん、そこのお醤油を取って?」
「濃い口でいいか?」
「ん。オッケー」
総司は買い物用のカートを押す真白の横に並んで歩く。
その途中目当ての品のそばを通りかかれば彼女の指示に従い、彼がかごに入れたりと役割を分担しながら店内を巡っている。
「明日の晩御飯は何食べたい?」
「そうだな……今日がビーフシチューだから明日は和食が良いな」
「じゃあ、牛肉のパックを多めに買って時雨煮とかどう?」
「時雨煮か、作ったことも無いし挑戦するには良いな。なら明日はそれにして、他はみそ汁ともう一品和え物でも一緒にするか」
「了解。和え物はほうれん草の胡麻和えにしよう」
二人で買い物をするのは、バレることを考えれば多少リスク的だが、こうして献立を相談しながら買い物が出来るのでお互いに助かっているからでもある。
また、総司は以前まで献立を気にするような事は少なかったが、基本的に毎日自炊していた真白はかなり楽になったと大助かりのようだった。
ついでに効率的な買い物の仕方だったり、肉や魚の安い日、お得な買い方などを総司は真白に教えて貰っていたりもしている。
自炊の大変さと実家で暮らしていた時、毎日何もしないでいても三食食卓に並んでいたありがたみを実感する総司だった。
「これも買っていいか?」
「良いけどお菓子は食べ過ぎちゃ駄目。この間も買ってたし」
お菓子コーナーを通りかかると、総司は自分が好きなお菓子を手に取って来て真白に許可を得ようとするが、彼女から注意を受けてしまった。
買いたいものがあれば基本的には自由だが、食生活に関して総司には春休みの前科があるので、真白が監視している部分があったりする。
「二人で半分に分けたらいいだろ」
「しょうがないな」
「やった。さんきゅー!」
どうしても食べたいわけではなかったが、提案してみれば許可が下りたので彼は嬉しそうにかごへお菓子を放り込んだ。
お菓子一つではしゃいだりできるのだから幸せな人間である。
すると丁度そばを通りかかった主婦らしき二人組が「仲がいいわね」「ねぇー」と横切って行ったりするが、どちらかと言えば今の総司と真白はまるで子供とその母親のようだった。
「は、恥ずかしいな……もう」
「ははは。悪い悪い」
もちろん主婦たちの声は二人に届いていて、真白は周囲の視線を気にしながらそう呟き、総司に対して呆れ気味に咎める。
少々子供過ぎたかと反省しないでもないが、詫びつつも総司は軽く笑っていた。
# # #
「あ、牛乳が安いね。総司くんは牛乳飲む?」
「コーヒー牛乳は好きだな」
「ん。一緒にコーヒーも買おっか」
「らじゃ」
引き続き二人は相変わらず、仲良さげに買い物を続けており、必要な物やお買い得な品を見定めつつかごの中身を増やしていく。
数日分纏めて買うのでそれなりの量になるが、真白曰くちまちまと買い物に出かけるよりもこうして、買い物をする方が余計なものを買わないで済むから経済的らしい。
勉強になるなぁ、と彼は感心しながら彼女の隣で自立した生活のお手本を学んでいた。
「うわ……」
そうしながら買い物をしていると、総司は今絶対に出会いたくない人物を見つけてしまった。
(な、なんでこんなところにいるんだよ⁉)
彼は狼狽えつつも被っている帽子を少し目深に被り直せば、若干下を向いて対面から歩いて来る人物をやり過ごそうとする。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな」
「?」
総司が急に挙動不審になっている事に気付いた真白が不思議そうに尋ねてくるが、彼には真面目に一から十まで答えている余裕はない。
おそらく、金髪状態なので総司だと気付かれる可能性は限りなく低いはずだ。
けれども声は変えられない。その為、あまりしゃべりたくはないので彼は少し黙って歩く。
「あれ? 総司?」
「…………」
しかし、もう少しで通り過ぎるという所で彼は声を掛けられてしまった。
「ねぇ? あなた総司よね?」
彼に声を掛けたのはグレーの前ボタンのボタンカットソーと、幅広なクロップドパンツ姿の買い物かごを持った女性だった。
総司は知らない振りをすればどうにかなるのでは? とすたすたと歩こうとするが前方に回り込まれる。
「…………そうだよ母さん。俺だよ」
「やっぱり。金髪だろうが顔を伏せようが、母には分かるわよ」
もう、そこまでされてしまってはどうしようもない。
金髪姿すら看破され観念した総司は白状し、そして彼女の正体を口にする。
そう、目の前にいる女性は総司の母親だった。
「なんで無視したの? って見れば分かるわね。彼女とお買い物デート中だったのねー」
「ちげぇよ。買い物してたらたまたま出会っただけだっての」
総司の母は真白の姿を確認するなり、ニヤニヤと肘で小突いてくる。
母親と出会うだけでも面倒なのに、こうして真白といる時に遭遇するとはタイミングが悪すぎる。
息子に彼女が出来たと勘違いした彼女は面白い場面に出会ったぞ、と総司を問い詰める気満々だ。
ペンキの事も昨日、クラスメイトに怖がられた事もそうだが、どうしてこうもタイミングが悪いのだろうと彼は自分の間の悪さを呪う。
幾分かは警戒心が薄くなったり、詰めや見通しが甘かったりなのも悪いのだろう。
それでも、やはり総司は変なエンカウントに縁があるようだった。
「ふーん。まぁいいわ。それで、あなたのお名前を聞いてもいいかしら?」
「あ、えと極夜真白、です……」
「ふんふん、真白ちゃんね。可愛い名前に可愛らしい子ねー! 名は体を表すとはよく言ったものだわ。あ、私の名前は深春。司深春よ。よろしくね?」
早速、真白に興味を示した彼女は名乗り合う。
一応まともにコミュニケーションを取っているものの、真白は急な展開に戸惑い総司に視線を送っていた。
けれども、もうどうすることも出来ない。
流れに身を任せつつ、適当に彼女をあしらうほかないだろう。
ただ、久しぶりに会った息子の隣に可愛い少女がいて、それも買い物デート中っぽい場面に遭遇したら、世間一般的に母親と言う存在はもう色々と根掘り葉掘り聞くまで逃すはずがない。
彼は面倒くさい事になったと内心で大きなため息を付いた。
「それで、お二人は実際の所お付き合いされているのでしょうか!」
「だから、違うっての。なぁ?」
「う、うん」
一人はしゃぐ深春は、芸能人の熱愛を突撃リポートするマスコミ関係者のように楽し気に二人へ質問する。
総司は即座に否定して、真白に同意を求めれば彼女も困惑しつつも頷いてくれる。
「でもでも、一緒に買い物中なのよね?」
「いや、違うって。だよな?」
「うん」
今度は嘘を付きつつもう一度同意を求めて真白に振れば、彼女もそれに合わせて同じように頷く。
これで誤魔化すことが出来ればいいのだが。
「あー誤魔化さなくていいのよ? だって、総司の好きなお菓子とかジュースがそのかごに入ってるもの。それにあなた、買い物中と言う割にかごも何も持ってないじゃない?」
「ぐっ……!」
無論、誤魔化すことは出来ず、深春から鋭い指摘が返って来るほどだ。
母親の名推理に総司は言い返すことが出来ない。
先ほど入れたお菓子が真白と一緒に買い物をしている証拠となってしまった。
後悔しても仕方がないが、数分前の自分にやめておけと言いたくなる。
「あら図星ね」
「と、ともかく、ここだと人の邪魔になるだろ。一度場所を変えるぞ」
「それもそうね。あっちの休憩スペースに行きましょ」
総司はとりあえず、取り繕うためにもっともらしい理由を並べ、戦況を立て直そうとそう提案すれば、彼女も同意して一同はそれぞれ買い物を済ませ休憩スペースで合流することになった。
ようやく投稿頻度を戻すことができ始めました。
本日はもう一話、投稿予定なので楽しみにお待ちください。
本作品を面白い、続きを読みたいと思われましたら、ブックマーク登録、目次の下にあります☆☆☆☆☆に色を塗って評価などをして頂ければ、
大変嬉しく思うと同時に励みになりますので、よろしくお願いいたします。




