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Neoネくら魔's  作者: Reサクラ
勇者編
21/21

第20話 Dulce et Decorum est(中編)

 広瀬の推理を信じるなら容疑者は二人――いや、魔王の方は除外される、あいつは昨日の晩に魔法がほとんど使えない状態だった。あのままなら操を散らしていた状況だ、演技でもないだろう。――となると、こいつしか残らないわけだ。


 コラプス・アーザス・オペランド(※1)。

 魔王を倒した正真正銘の勇者にして、俺の恩人。


「ラプス、お前魔法使えるのか……?」


 俺が聞くと、ラプスは首をかしげた。

「どういう意味? クラマは私が剣しか使えないって知っているでしょ」

「ああ、そうだな。そう思ってたけどさ……」


 リビングだと邪魔な母さんがいるから、俺はラプスと自室に移動した。

 ラプスの眼は、むしろ俺を不審に見つめている。

 だけど、俺には、広瀬の推理がある。あいつ自身は全く信用に足らないものの、あいつの話は論理的だ。


 この世界で起きている不可思議な現象――こいつの犯人に当てはまる条件は簡単だった。


「この場合、できるできないは能力の問題じゃないよ。そもそも君がこっちの世界に戻ってきたタイミングで――正確に言えば戻ってきた翌朝――魔法を発動できた人間だよ。つまり戻ってきてから、次の日の朝までの半日ほどの間で、今の君の姿と前の君の姿二つを認識していた人間だけが、その両方に対して魔法を発動させることができる。これは能力どうこうのもっと前の条件だから、できるできない以前の話ってわけ」


 広瀬が言っていることは単純だった。

 例えば、太陽を破壊する魔法を使える人間は誰か? ――って話で、それだけの能力を持っている人間がいるかどうかって話の前に太陽が何かってのを知っていることが前提条件になるってことだ。

 太陽そのものを知らないやつが、太陽を破壊できるわけがない。


 もっとも、この世界で太陽を知らない人間はいないだろうけど。

 ちなみに向こうの世界にも太陽はあった。言葉は違うけど、おそらく人間が生きる環境にはあの熱くてまぶしい球体が必要不可欠ということだろう。


 で、太陽は誰でも知っているとして、俺のことを知っている人間となると限られてくる。いくら超絶イケメンだからといって、今のところテレビやネットで大々的に取り上げられたこともないし、学校のやつらと――せいぜい同じ市内の人間で何人か居る程度だ。


 加えて、こっちの美少女姿の俺のことを認識しているのは誰だ?

 こっちはもっと少ない。

 この世界で美少女の俺が朝までに会った人間は、母さん、父さん、コンビニの店員、不良二人、そこに加えて、ラプスと魔王、こいつらが条件に当てはまる連中になる。


「じゃあ、その中で動悸のある人間は? つまり君が困って、喜ぶ人間だよ」

「そんなやつ……流石に両親に恨まれているとは思わないし、不良か? でもどっちかというとラプスの方を恨んでるはずだしな。となると魔王か……?」

「恨んでいるとは言ってないよ。君が困って喜ぶ人間って言ったでしょ」

「それって意味違うのか?」


 全く違うよ、と広瀬はピンクの髪で言った。


「まず単なる恨みならこんなまどろっこしいことはしないよ。犯人にはこれだけの力があって、今の君はほとんど無力だしね」

「確かに、この美貌の他に今の俺には何もない……」


 錯乱したおっさん(父親)相手に、手も足もでなかった俺だ。恥ずかしいが否定のしようもない。


「じゃあなんだよ、俺のことが嫌いじゃないけど、俺が苦しんで喜ぶ人間がいるってのか!? そんなおかしなやつが――ま、まさか、彩か!?」

「いいや、彼女はまだそのタイミングでは君がこんな姿になっていることは知らないからね。さっきの条件に一致する人間の中にもいなかったでしょ」


 ま、そうだけど。


「じゃあ誰だ? 流石に両親は違うと思うし、コンビニの店員もほぼ初対面だし……というかこいつは元の俺のことを知らないか。容疑者から外して良いな。で、そうなると不良の二人も別か?」


「残ったのは誰かな?」


   ◆


 俺が確固たる意志が、ラプスにも伝わったらしい。

 ラプスの眼の色が少しだけ変わった気がした。


「なあ、本当のことを教えてくれよ。俺たちずっと一緒に旅してきたじゃないか」

「本当の事って何? 私だって言いたいな、クラマはずっと一緒にいた私のことを疑うんだ」


 そう言い返されると、俺も言葉に詰まった。

 それでも何か言おうとするが、どうにもラプスの腰に刺さった剣が気になった。

 こいつ、服は着替えているのに、ちゃっかりと帯刀してやがる。母さんと話していた時は手ぶらだったよな? くそ、警戒されているのか?


「クラマが何を言いたいのか見えてこないからさ、先に私の質問に答えてくれる?」

 とラプスが先に切って出た。

「別に良いけど、何だよ」

「クラマは、今の自分嫌い?」

「今の自分って? ……女の俺のこと?」


 ラプスはずっと俺が元は男で、異世界から転生してきたことを信じていなかった。だけどこうやってこっちの世界に来て、元の俺の姿を写真で確認して――今はもう、俺の元の姿を信じているはずだ。

 だから、今の俺と、前の俺ってのは、そういうことだろう。


「あのな、嫌いとか好きとかじゃねえよ。今の俺は、言うなれば間違いなんだよ、ニセモノなんだよ。俺はただ、本来の、本物の俺を取り戻したいんだ。わかるだろ?」


 女の子が大好きな俺だ。嫌いというのは違う。だけど男の俺じゃなきゃ、大好きな女の子を抱きしめることだってできないんだっ! いや、結構同姓でもなんとかなるかなって気はしてるんだけど、そのね、男のが色々都合が良いんですよ、凹凸的なあれで。


「わからないな。私は、今の自分が本物だって思うから」

「そりゃお前に前世の記憶なんてないからだろ? そもそも俺以外の人間が転生しているかもわからないけど」

 俺だけが転生しているとも思わないが、誰も彼も転生しているとも思わない。

 ただ記憶がないなら、転生していようとしてないなかろうと実際関係ないのかも知れない。

 転生どうこうじゃなくて、結局大事なのは過去の記憶があるかどうかだけなんじゃないだろうか。そう考えると、俺みたいなイケメン高校生が記憶を引き継いだことは大いに価値のあることだけど、無職のニートが転生したところでそれはもう転生だろうとしても同じくゼロからのスタートなのでは? むしろマイナスとすら思える。

 大事なのは転生どうこうじゃなくてチートスキルなんだよなあ、としみじみ感じてしまう転生経験者俺(※2)。

 そういう意味ではイケメンという、女神から愛された恩恵の持ち主だった俺は転生前からチート主人公というやつだったと言える一方で、転生先では魔法が自由自在に使えるという中の上ぐらいの能力しかなかったことは、どこに抗議したら良いんだろうと思えてくる。


 女の子を奴隷にできる能力とかそういうのが欲しかったわけじゃねえのよ? ――これは本当、和姦はOKでも無理矢理とか意志を完全に操るとかそういうのは俺の趣味じゃないし――でもゴブリンに負けるようなレベルの能力で異世界転生主人公です、ってそれどうなのよ。

 ま、他人の心が読めるだけの自称名探偵よりはマシだろうか。今のご時世、ミステリーなんて流行らねえっての。他人の心が読めても、あんなひ弱なメス犬(※3)じゃ俺の右ストレートで一発だからな、相手になんねえよ。俺が女性には手を出さないフェミニストであったことを感謝することだ、本当ね。


 かと言って、じゃあどんなスキルが欲しかったかと言われると困る。

 異世界転生って、実は俺よく知らなかった。

 具体的に言うと、ブレイブ・ストーリーとカラフル(※4)くらいしか読んだことなかった。


「どっちも異世界転生じゃないだろ」とクラスメイトの松房に反論された覚えがある。

「はあ? 何が違うんだよ」

「いやいやいや、ブレイブ・ストーリーは転生してないし、カラフルは異世界じゃないしっつうかネタバレだけど転生もしてないから」

 そうやカラフルは、びゅーんって空に一回飛んでUターンして戻っただけだった。

「じゃあ異世界転生って何よ?」

「良し、オレのおすすめを何冊か教えてやろう」

 と言われて紹介されていなければ、未だに俺の異世界転生の知識は皆無だったろう。


 ちなみに松房はクラスの男子だけど、二度と名前は出てこないと思うから忘れて良いぞ。

 ただ、松房のおすすめの異世界転生小説は俺に色々なことを教えてくれた。


 あれ、異世界転生って何かエロいことめっちゃ起きてね?

 一夫多妻制、奴隷少女、猫耳――他多数。

 しかしそのエロを支えているのは主人公が持つ、唯一絶対最強能力に他ならない――はずだったけど、俺はエロの部分以外あんまり覚えていない。

 うーん、みんなどんなスキルで戦ってたかなあ。


「私は、今のクラマが好きだよ。でも私の知らないクラマがいたってことも、わかっているつもり」

 ラプスは、ベッドに腰掛けている俺に近寄ってきた。

 警戒していた俺は、咄嗟に逃げようとするが、立ち上げる隙もなくラプスの手が俺の肩を押さえた。

「クラマの言いたい事もわかるつもりだけど、でも今の――私の目の前にいるクラマもニセモノじゃない、私にとってのクラマなんだ、ずっと一緒にいたクラマは今目の前にいるクラマなんだよ」

 ラプスが手に力を入れて、軽く押すと俺は何の抵抗もできないまま押し倒された。

 ちくしょう、超絶無敵スキルとまでは言わないから、胸なし女子相手になんの抵抗もできないってのはどうなのさ。自慢の魔法もろくに使えないままだし。


「で、でも、俺は男なんだよ、わかんだろ? 女の姿だだと、問題があるっていうか」

「性別なんて本当のところ、関係ないと思う。問題ないと、私は思うな」


「お、お前がどう思うかは知らん! これは俺のことだからなっ!」


「同じ、私がそう思うから――きっとクラマもそう思うようになってくれる」


 俺の頬にそっと、ラプスのもう片方の手が触れた。

 フラッシュバック――脳裏を似たような光景が過ぎる。

 昨日、親父に襲われかけた時のことか? いや、違う、もっと別の、あの時も――。

 ああったく、こういう時いつも助けてくれるのはラプスだってのに、今襲って来てるのがラプスだってんじゃ俺はどうしたらいい? 誰に助けてもらえばいいのさ。いい加減助けてもらう側は卒業したい、そろそろ女の子を助けて惚れられる側になりたい。


 そんな時だ。


「のう、お主。妾の言った通りだったろう、そいつは信用ならないと」


「お、お前は――ま、まおっ――!?」

 ま、まお――……まお……?(※5)

※1 コラプス・アーザス・オペランド

オペランド王国の王家の血筋とどこかの凶暴な野生ゴリラの血筋を受け継いでいるらしい正真正銘の勇者。正直言うと胸が小さくてパワータイプという他に特徴があるのかと言われると、俺は黙るしかない。でも特徴が多ければ良いってもんじゃない。おっぱいだって二つだからいいんだ、三つだったら怖いだろ。それと同じだ。みんなもそれを知って欲しい。


※2 転生経験者俺

ひょんなことから異世界転生も異世界転移も経験している俺だが、その二つをどう区別すればいいのかはわからない。ラノベと一般小説、この二つの差が曖昧になっている昨今、明確に区別する方法がなくなっているように、異世界転生と異世界転移もきっとほとんど同じものになってしまうんじゃないだろうか。この際両方とも異世界旅行とかそういうポップな表現にまとめてはどうだろう。いや、それは違うか。


※3 ひ弱なメス犬

差別表現ではありません。念のため、ね。第一、俺はメス犬もか弱い女性も好きだからな。むしろ褒め言葉だと受け取って欲しい。


※4 ブレイブ・ストーリーとカラフル

ブレイブ・ストーリーには奴隷猫耳少女が出てくるし、カラフルにはちょっとエッチな女の子と何故か主人公にベタ惚れしているちょっと不思議系の女の子の二人のヒロインが出てくるという、一般小説だけどラノベみたいな要素がしっかり入っている作品だ。でも、エッチな展開には期待するな。キッズのみんなは安心して良いが、大人な諸君はズボンを下ろさず読んでくれ。


※5 まお……?

まお……?

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