邂逅の叙任式
書いていて、物語の雰囲気的になんか違う!と思い、全面カットされた叙任式の顛末です。
その年、騎士になるのは30名で、年齢は10代後半から20代前半の若者達で固められていた。
騎士に定年はないが、訓練についていけない者、怪我などで従軍能力を失った者、殉職する者が年に2~30人ほどおり、一定稼働人数を下回らないように補充される。心持多めに。
叙任式は領主夫妻と領内の主だった貴族が立ち会い、領主自らが忠誠と引き換えに騎士の証である剣を一人一人に授けていった。
アルバートの名が呼ばれた瞬間、厳粛な雰囲気に静まり返っていた会場に、鋼が石床を打つ高い音が割れ鐘のように不快に響いた。
前に進み出たアルバートと会場中の視線が集約される。
騎士の証である剣を領主に差し出す形のまま取り落とした当の人物はしかし、慌てるでもなく恥じ入るでもなく、一点を凝視していた。
その先は……
黒い瞳と瑠璃の様な青い瞳。
視線が絡み合い、アルバートの頭の芯が冷える。
先程とは別の静寂が会場を支配した。
破ったのは領主の戸惑いと不審に満ちた、己の妻の名を呼ぶ呟き。
名を呼ばれた彼女は雷に打たれたように身を震わせ、淑女らしからぬ忙しなさで謝罪と辞去する旨を伝えると、引きとめる間を与えずに会場を後にした。
不審さにざわめきがわき上がり、会場の空気が動き出す。
その後、表面上は何事も起こらず、式典はつつがなく終わった。
アルバートに剣を渡す際、領主がそっと執務室に来るよう指示した以外は。
「時間が惜しい。単刀直入に聞くが、君は妻とはどういった関係かね?」
執務室に入るや否や領主が切り出した。
受ける新人騎士は、ある程度予想していた事なので落ち着いて答える。
「申し訳ございませんが、私にも全く心当たりがございません」
殊勝なまでに丁寧に頭を下げる青年を、領主は忌々しげに睨みつけた。もとより素直に告げられないであろう内容を邪推していた彼は語気を荒げる。
「そんな訳があるか!現に妻は不快を理由に部屋に籠っている」
追撃も想定の範囲内なので、ますます頭を垂れて明瞭な口調を心がける。一筋のブレも乱れもなく、自明の理を示すように。
「強いて心当たりを挙げるのでしたら、私の容姿でしょうか。黒目黒髪は珍しいだけではなく、不吉と捉えられる方もいらっしゃいますので……」
青年の毅然とした受け答えに、領主の態度は軟化した。
そして冷静さを取り戻し状況を整理する。
「ふむ、色、か。しかし、君の名を呼んだ直後だった気もする。名……?確かアルバート、であったな?年は?18になる?だから、か――――疑って済まなかった。もう帰って良い」
ブツブツと独り言ともつかない質問に、アルバートが軽い補足を伝えると、一人で納得をした領主が退出の許可を出す。
身に着いた騎士の所作で礼を取り、アルバートは執務室を後にした。
退出際の領主の呟きをしっかりと聞き、側近の表情が痛ましげに歪められたのを目の端に捉えながら。
そうして彼は走り出す。
衝動の赴くままに、渇望を満たすために。
彼の在り処へ、透き通る白髪の紅い瞳の彼の人の元へ。




