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魔女の待ち人  作者: 周
本編
2/39

ある朝の風景

超・不定期連載です。

お気軽に読める娯楽を目指します。

 森の中の小さな小屋に住む少年の朝は早い。

 空が白み始める頃、遠くから聞こえる夜明けの鐘の音と共に起き出す。

 前日に汲んでおいた水で顔を洗い、両頬をパンと打ち鳴らす。まだ波紋が収まっていない水鏡を覗き込む顔は、黒眼とストレートの黒髪と相まって7~8歳の少年とは思えないほど男臭い。あらかた目覚めた所でざっと身支度を整え眼鏡をかけると、先程の表情は無かったかのように理知的に引き締まった。


 竈の火をおこし、朝食の支度に取りかかる。

 昨晩のスープの温め直しと、目玉焼きとサラダとパン。

 自分の分にベーコンも焼く。

 サラダ用のドレッシングに、オリーブオイルとビネガーと塩を合わせておく。配分は目分量で、1:1:一つまみ。


 テーブルが整い始めた頃に家主が起き出して来る。

 器用にも目を閉じたままフラフラと食卓に近づくのは、少年より2~3歳ほど年上の少女。

 勝手知ったる……なのか、目も開けずに椅子を引き腰掛ける。

「――はよー」

 ぼそりと呟いた少女を見ながら、苦笑気味に少年は答えた。

「おはよう、D。毎朝のことだけど、目を開けないと危ないよ?」

 手早くスープをよそい、サラダにドレッシングをかける。

「何年住んでいると思う?何処に何があるか、坊やより遥かに熟知しているわ」

「先日、自分で置いた荷物に躓いていたけどね」

 サラダの上で胡椒を挽きながら、肩をすくめた。

「あれはたまたまだ!」

 両コブシでドンと机を叩く。

「その前は……」

 まだ続きそうな少年を紅い瞳が睨みつけ、

「アル坊!髪!!」

 早朝の淡い光を受け虹色に輝くガラス細工のように美しい白髪を、頭を振ってまとまっていないと態度で訴える。

「埃が立つんだけど」

「埃で人は死なぬ!」

「はいはい」

「返事は一回!!」

「はいはい」

 食卓からいったん離れ、額飾りに注意しながらブラシで腰まである髪を梳き、ゆるく三つ編みにしてリボンで留めた。

 少年を睨みつけたかった少女はしかし、その作業中は振り返る事も出来ず、気持ちの持って行き場を探す。ふと自分にあてがわれた琥珀色の澄んだスープを覗きこみ、やにわに匙で何かを取り除き始めた。選り分けた物の行先は少年の器。

「ちょ、ちょっと、D!!」

 リボンの形を整えていた少年の制止は聞き届けられることは無く、満足気な少女がダメ押しで一言。

「成長期の君にたんぱく質を差し上げたのだ。感謝するように!」

「あ――、はいはい。ありがとうございます」

 溜息をついて、諦めたようにお礼を言い、少女の向かいの席に着く。

「素直に喜びたまえ。幸せが逃げるぞ?」

「逃げるほどの幸せなんかないよ」

 憮然としながら祈りを捧げ、朝食を胃におさめてゆく。

 その様子を見ながら目玉焼きをつついていた少女が、ぼそりと呟いた。

「それなら、これから自分で掴み取れば良い」

 最後の欠片を口に運んでいた少年は黒い瞳を見開き、食事と共に嚥下する。

「僕の……幸せ?」

 咄嗟にポケットに入れた物を取り出すように反芻している少年に、人の悪い笑みを浮かべた少女が揶揄を飛ばした。

「美味いビネガーのあるうちさ!」

 内に籠もりかけていた少年は微かに顔を赤らめて、少女を睨みつける。

「D!!」

「ああ!ほら片付けをする時間がなくなるぞ!」

 言われて太陽の高さを確認した少年は、眼鏡越しに細めた眼で少女を見やり、

「言われなくても片付けるから、早く食べて」

 少女を急かしたのだった。


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