寄る辺なき身
珍しくちょっと長めです。
捨て子に関して書いています。
ご不快になられる方もいるかと思いますが、物語上の流れと言うことでご理解下さい。
「いいや、これっぽっちも関係ないの。何故そう思ったのだ?」
つぶさに反応を伺っていたアルバートも肩透かしを食らう程のあっさりとした返答であった。何らかの繋がりを期待していたのか、落胆した様子で歯切れ悪く言葉を紡ぐ。
「……今日、お菓子屋さんで聞こえてきたんだ」
「何を耳にしたのだ?」
そう聞かれて、意を決して続ける。
「10年位前に、領主様の生まれたばかりの跡取りが死んだって公布されたけど、実は魔女に浚われたんだって話」
「ほう?」
無反応とも取れる手応えの無さに焦りを覚え、勢い込む。
「僕は誰なの?」
しかし、返された答えは相変わらずで。
「アル坊、だろう?」
「そうじゃなくて!」
「何が言いたい?」
苛立を持って求める真実を引き出そうと躍起になる。
「僕、黒猫の代わりに貰ったって聞いてたけど、嘘だよね?」
「そうさの。依頼箱の下に置いてあったの」
あっさりと告げられる。
「それって捨て子、ってことだよね?」
「難しいの。特に書置きなど無かった故、贈られたと受け止めたがの」
「じゃあ依頼受けの下に捨てたのは、領主様?」
自ら用意していた仮説を口にした途端、とぼけた風情だったDが真顔になった。
「それは知らぬ。アルバート、無意味な詮索はやめよ」
「なぜ無意味なの?!」
「自分の出自を明らかにして、どうするつもりだ?」
「知りたいだけだ」
「知ってどうする?親元に名乗りを上げるか?魔女に赤子を渡すような親に会いたいか?」
泣きそうな顔がにらんでくる。
「私の養い子では不満か?」
左右に首が振られて、ほっと息を吐く。
「私もな、親を知らぬ」
呟きの内容に驚いて、アルバートはDの顔を凝視した。
「生まれた村が特殊な村での。男女関係なく大人は皆、働いていた。幼子たちは一か所に集められ、乳母のような役目の者に育てられる。私はまた別な場所で育てられたが、親は誰なのかは教えてもらえなんだ」
「知りたくは無かったの?」
「それが当たり前だったからの。村で生まれた村の子ども、それだけで不自由は無かったの。それではだめか?お前はあの街で生まれ、私に育てられた。それ以上の何が必要だ?」
紅い瞳が揺れる。見た目は10歳前後の少女なのに、今まで生きてきた年月を全て背負っているような、そんな陰りが窺えた。
暴こうと思えば何もかもつまびらかにできたであろう。否、今だって知ろうと思えばアルバートの血をたどる魔法陣を編み出すことで、時間はかかっても出自を明らかにできるだろう。
重い沈黙が垂れこめる。
思いを巡らし、痛みに耐え、何かを諦めたのは少年の方だった。
「僕は僕の事が知りたかったんだ」
「――そうか」
「でも、そうだね。逆に言えば、僕は僕でしかない。親が分かっても、お互いに相容れないだろうしね」
独白に近い述懐を静かな紅い瞳が受け止めた。
「お前が私の所に来てくれて、とても良かったと思っている」
「D」
はにかんで微笑んだその顔は、続けられた言葉で凍りつく。
「猫よりも役に立つし、の」
「D~~!!」
そんな少年の怒りなど意に介さず、ほくほくと菓子の袋を手に取った。
「ところでアル坊、茶はまだか?」
また一つ、何かを諦め……大人の階段を上った少年は、苦笑する。
「はいはい。ただ今お入れ致します」
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