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魔女の待ち人  作者: 周
本編
10/39

寄る辺なき身

珍しくちょっと長めです。

捨て子に関して書いています。

ご不快になられる方もいるかと思いますが、物語上の流れと言うことでご理解下さい。



「いいや、これっぽっちも関係ないの。何故そう思ったのだ?」


つぶさに反応を伺っていたアルバートも肩透かしを食らう程のあっさりとした返答であった。何らかの繋がりを期待していたのか、落胆した様子で歯切れ悪く言葉を紡ぐ。


「……今日、お菓子屋さんで聞こえてきたんだ」

「何を耳にしたのだ?」


そう聞かれて、意を決して続ける。


「10年位前に、領主様の生まれたばかりの跡取りが死んだって公布されたけど、実は魔女に浚われたんだって話」

「ほう?」


無反応とも取れる手応えの無さに焦りを覚え、勢い込む。


「僕は誰なの?」


しかし、返された答えは相変わらずで。


「アル坊、だろう?」

「そうじゃなくて!」

「何が言いたい?」


苛立を持って求める真実を引き出そうと躍起になる。


「僕、黒猫の代わりに貰ったって聞いてたけど、嘘だよね?」

「そうさの。依頼箱の下に置いてあったの」


あっさりと告げられる。


「それって捨て子、ってことだよね?」

「難しいの。特に書置きなど無かった故、贈られたと受け止めたがの」

「じゃあ依頼受けの下に捨てたのは、領主様?」


自ら用意していた仮説を口にした途端、とぼけた風情だったDが真顔になった。


「それは知らぬ。アルバート、無意味な詮索はやめよ」

「なぜ無意味なの?!」

「自分の出自を明らかにして、どうするつもりだ?」

「知りたいだけだ」

「知ってどうする?親元に名乗りを上げるか?魔女に赤子を渡すような親に会いたいか?」


泣きそうな顔がにらんでくる。


「私の養い子では不満か?」


左右に首が振られて、ほっと息を吐く。


「私もな、親を知らぬ」


呟きの内容に驚いて、アルバートはDの顔を凝視した。


「生まれた村が特殊な村での。男女関係なく大人は皆、働いていた。幼子たちは一か所に集められ、乳母のような役目の者に育てられる。私はまた別な場所で育てられたが、親は誰なのかは教えてもらえなんだ」

「知りたくは無かったの?」

「それが当たり前だったからの。村で生まれた村の子ども、それだけで不自由は無かったの。それではだめか?お前はあの街で生まれ、私に育てられた。それ以上の何が必要だ?」


紅い瞳が揺れる。見た目は10歳前後の少女なのに、今まで生きてきた年月を全て背負っているような、そんな陰りが窺えた。

暴こうと思えば何もかもつまびらかにできたであろう。否、今だって知ろうと思えばアルバートの血をたどる魔法陣を編み出すことで、時間はかかっても出自を明らかにできるだろう。

重い沈黙が垂れこめる。

思いを巡らし、痛みに耐え、何かを諦めたのは少年の方だった。


「僕は僕の事が知りたかったんだ」

「――そうか」

「でも、そうだね。逆に言えば、僕は僕でしかない。親が分かっても、お互いに相容れないだろうしね」


独白に近い述懐を静かな紅い瞳が受け止めた。


「お前が私の所に来てくれて、とても良かったと思っている」

「D」


はにかんで微笑んだその顔は、続けられた言葉で凍りつく。


「猫よりも役に立つし、の」

「D~~!!」


そんな少年の怒りなど意に介さず、ほくほくと菓子の袋を手に取った。


「ところでアル坊、茶はまだか?」


また一つ、何かを諦め……大人の階段を上った少年は、苦笑する。


「はいはい。ただ今お入れ致します」


誤字・脱字・意味の読み取りずらい表現など、ございましたらお知らせいただけると助かります。

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