第一話 「嫌われ者」
――目が覚めると、暗闇にいた。
ただ何もない真っ暗な闇部屋。
そこに、奥から人影が現れてくる。
俺はいつのまにか椅子に座っており、その歩いてくる人影をじっと凝視することしかできない。
「俺――さっき誰かに攻撃されて……なんでここにいるんだ?」
独り言、いやその人影に向かって俺は問いかけた。
だんだんとその人影もしっかり姿を現す。
白髪ロング、紫色に輝く目、黒色のドレスを着て、自分も奥にある椅子に座った。
俺の椅子と違って背もたれも手の置き場所もある。
「君は……僕に選ばれたんだ」
「――俺はただ学校に行こうとしただけなんですけど?」
「その学校ってのはわからないが、選ばれた。君はこの世界を統べる力がある」
「ハッ、俺は夢でも見てんのか?」
彼女は頬杖をしながら俺に何度も「僕に選ばれた」としか言ってこない。
夢でもないらしいが、それならなぜ俺のような引きこもり17歳男子高校生が何に選ばれたのか。
「もったいぶるなよ、話してくれ」
「君にはこれから、僕のやり残したことをやってもらう」
「やり残した……こと?」
「簡単に言えば、世界を滅ぼす。それだけだよ」
「いや何言ってんだお前!! 俺が滅ぼす?」
急に俺の人生を捻じ曲げてくるような発言をされてしまった。
人殺しする勇気なんてない。世界を滅ぼすということは人を殺すということだ。
それをこの俺ができる?答えはノーだ。
「君は「使徒クリエイティブ」だよ」
「使徒クリエイティブ? なんだそりゃ」
「僕の使徒。親は僕だと思ってくれて構わない」
「はぁ、誰がお前なんかの使徒になるかよ!」
平然と彼女はそう言ってきた。
なんだが楽しそうに、それでも希望を抱いているかのように俺の目をじっと見つめながら話す。
俺は意味がわからない、わかりたくもない状況下にあるようだ。
簡潔にいうとすれば「スキルあげるからこれで世界を滅ぼせ」ということになる。
「……残念だけど、俺はそんなことしないよ」
「ふふっ、狂ったように花をムシャムシャしながら食べていた君がかい? 笑わせないでくれよー」
「なんでっ……お前がそれを知ってるんだ!?」
彼女は母親しか知らないはずの言葉を吐き捨てた。
俺の顔は一瞬で凍りつき、対比に彼女はゲラゲラ笑いながらまたも楽しそうに手のひらを自分の膝に叩きつけながら話している。
「てことで話は終わり。頑張ってね!」
「――は?」
――その瞬間、俺の座っていた椅子が消えて地面までもが消えてなくなり、俺はその穴に吸い込まれた。
「!? 何すんだぁぁぁぁあ!!!!」
最後に見えた彼女の座っている姿は、凛としていて笑顔で見送るように手を振っていた。
俺の視界はどんどん地面に吸い込まれ、最後には彼女の姿も見えなくなってしまった。
.......。
「―――ぁ? なんだよここ」
目覚めると、ザ・異世界というばかりの光景が広がっていた。
中世風でいくつも並んである、大きく古ぼけている建物の連鎖。
商店街がズラリと並ぶ街、そこを行き交う人々の姿が見受けられた。
「異世界って……俺無理だろ、こんなところで」
弱音しか吐き出せない。
ただこの世界から抜け出せる余地もない。
なんとか適応していくしかないと思ったその時、俺は先ほどの彼女の言葉を思い出した。
「使徒クリエイティブ……クリエっていうやつだよな?」
周りとはかけ離れているジャージ姿で、俺はポケットからスマホを取り出しクリエイティブの意味を調べてみようとしたが、電波は圏外で使えなかった。
周りの人達に聞いてみようとしても、聞く前になぜかみんな俺を避けてくる。
そんなに俺の姿が気に入らないのか。
「あぁ、もう!!クリエイティブってなんだよ!」
その瞬間、周りにいた人々は足を止めてこちらに目を向けてきた。
教えてくれる、かと思ったのも束の間。
目を見ると、全員が残酷で冷酷な表情をしていた。
「なんだよ……その目は」
問いかけに誰も応じないのはわかった。
ただ違和感が着々と募っていくのもわかった。
この世界での母親、父親、子供、祖母、祖父などがみんな睨んでくる。
子供はギャーギャーと泣き出し、母親はそれを慰めている。
父親は子供と母親を守るように、
――まるで「必ず守る」と言わんばかりの防御体制に移った。
高齢の人は杖を片手に、この場から逃げ去っていくのが目に見えてわかった。
だが、俺はここでまた彼女が言っていた言葉を思い出してしまった。
「そうか……俺この世界の敵枠なのか」
――使徒クリエイティブ。
もしかしたらこの世界の人は全員、知っているのかもしれない。
世界を滅ぼそうとする奴だと。
「み、みんな落ち着いてくれ!!俺は世界滅亡なんて眼中にねぇよ!!ただの高校生だ!」
「まったく、通報を受けてやってきたとなれば随分間抜けな嘘をつく使徒クリエイティブだなんて」
「――お前……もしかしてゲームでいう剣士的なやつか!?」
「……なるほど。あなた達の時代は身分も筒抜けにできる、ということですね?」
最悪な誤解を生んでしまった。
商店街の奥から素早く歩いてきた彼女は、剣士のような見た目をしていた。
白と金色が混ざった高貴そうな衣装を着用し、身体の左腰に太くも細くもないレイピアを携えている。
どうやら性格も高貴らしく、この街を守る存在として俺の前に立ちはだかった。
側から見たら俺は完全なる「悪者」だ。
「まさか、お前が俺を気絶させた張本人だな?」
「それは誤解ですね。勇気ある者は誰でもあなたを殺しにいくので」
「いや俺気絶だよね? 死んでないよな……」
「さて、初対面なのであなたの名前を教えてください。使徒クリエイティブの名を」
「――何言ってんのかさっぱりだけど、普通の本名は言える」
――俺の名前は、椿蓮だ。
ツバキ・レン。
産まれた時、初めて親にもらった名前だ。
嫌な名前だと思ったことはないし、なんならいい名をもらったと思う。
「ツバキ・レンね、名を口にしたということはよっぽど覚悟があるようで」
「自分から聞いといて本当意味わかんないけどよ、逆にお前は誰なんだ?」
「どんな権能を持った者かも知らずに、私が本名を明かすとでも?」
彼女は歯にぎしりと力を入れ、唇から血が出るほどの力で噛んだ。目は冷たいにも程がある。
風になびく金髪ロングは美しい。
ただ目に宿る殺意だけは美しいとは言えないほどの決意が込められている。
体はわずかに震えている。
ただ、彼女はすでに剣を俺に構え今にでも攻撃してきそうだ。
「クソッ! 俺がお前に勝てると思うのか!?」
「使徒クリエイティブのあなたが何を言い出すの?負ける確率といったら、私の方が高いのに」
「なら! なんで俺を殺そうとするんだ!!」
「死んでもこの街を、人々を守る。それだけのことよ!」
「――ッ!?」
――その瞬間、彼女は剣をものすごい速さで俺の顔面に投げてきた。




