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プロローグ 「狂い」

 ――意味がわからない。


 善意で人を助けただけなのに、嫌われた。

 何がいけなかったのかさっぱりだ。

 「君は誰の味方なの?」とか「偽善者」だとか散々言われてきたが耐えてきた。

 ――ただもう限界を迎えた。


 「もう、助けてやんねぇよ」


 自室のベッドに座りながらボソッと口にする。

 拳に力が入り、伸びきっている爪が今にでも潰れそうな気がするがそれでも気持ちは抑まらない。

 心臓の心拍数がバクバクと高まり、耳にまで響いてくるくらいの気持ちが高揚している。


 ――部屋の花が咲いた。


 ふと、目の視界に映ったのは部屋の窓に置いてある太陽の光を浴びつつ咲いていた花だ。

 部屋の中は暗闇なのに、その花は咲いた。

 今咲いたのかはわからないが、ずっと俺は引きこもりであるのは身をもって分かる。


 「誰か……助けてくれ」


 花を見ながら嘆く。

 声にもならない掠れた声でも、口に出さないわけにはいかなかった。

 前まで蕾だったこの植物は、今は欲望を剥き出しにしたように、無様と言えるくらいに咲いている。


 ――咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いて咲いている。


 「咲いて、咲いて、咲いて…………」


 俺は咲いていた一輪の花を、「咀嚼」した。

 どうやら気が狂ってしまったらしい。

 根っこから花弁まで、咀嚼音を響かせながら食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて全部食った。


 美味しい、死ぬほど美味い。土もチョコレートの味のように感じた。


......。


 「母さん、俺は何をしてたんだ」


 「知らないわよ、部屋に入ったらバケモノみたいにあんたが自分で買って育ててた花を食べてたからね、一発ぶん殴ったの」


 「あぁ、母さんらしいな……」


 その後も母親に、俺が何をしていたのか聞いた。

 聞く限り、俺は相当やばめなことをしていたらしい。

 ただあの花が美味しかったのは覚えている。

 蜜がたっぷり入っているかのような味で、ミツバチが蜜を吸いにくるのも納得がいった。

 今は夜、風呂などを済ませてベッドに入る。


 「こうなったのはあいつらのせいだ。明日学校に行って先生に退学願いでも出しに行こう」


 そんなものあるのかは知らないが、俺は部屋に散らかっていた花の残骸や土を片付け、眠りについた。


.......。


 「……朝か」


 ベッドから起き上がり、俺は制服を無くしたため、ジャージを着て登校することを決意した。

 暗い部屋からやっと抜け出すことができる。


 「母さん、父さん、学校行ってくる……」


 リビングに両親がいたが、今は忙しいらしい。

 母は掃除機をかけ、父は洗濯物を畳んでいる。

 何度言ってもデカすぎる掃除機の音で声がかき消されるため、俺はそのまま、


 「いってきます」


 最後にそう一言だけ言った。

 扉を開けると、太陽の光が次々と扉の隙間から範囲を広くして差し込んでくる。


.....。


 「――は? なんだこれ」


 扉の先にあった光景は、今まで見たことがないほどのファンタジー世界だった。


 「これって――もしかして異世界……?」


 ――その瞬間、俺は背後から何者かによって攻撃を喰らい気絶した。


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