27:絶望は突然に(ゆうき視点)
――ハイファン王国。
ベナレスト大陸の南西に位置する大国。
王城が置かれているのは首都リーブラ。
そんなリーブラの真ん中にあるのが国王ヒューラーⅢ世の住まう巨城、イスカリオテ。
見るからに西洋風といった趣の城の名称としてそれはどうなんだと思わなくも無いけれど。
とにかく現地の方々にはそれで通っているのだから仕方ない。
ってか、追い出された後でこういった基礎知識が明るみに出るってどうなのさ?
イスカリオテ城を追い出され、首都からも追い出されてしまった僕は、着の身着のまま、銅貨十枚を握り絞めたまま近郊にあった町ヤーレンへと辿り着き、金策と偽装を兼ねて学生服を売り払うと現地人と居並んで歩いていても違和感を覚えない安っぽい服を購入。その足で冒険者ギルドに駆け込んで登録。
どうにかお金稼ぎの手段を確保した。
というか、街を追い出される際に渡された銅貨10枚というのは、庶民の一食分の代金が銅貨3~5枚って事を考えると子供のお駄賃そのもので、貨幣の価値をギルドで教わった時には「え、ちょ?!」なんて変な声が出てしまったくらいだ。
勇者召喚の儀式で巻き添え食らって異世界に引きずり込まれた身としては、これを理不尽と言わずして何と言おうか。
いずれにしたって首都リーブラと衛星都市ヤーレン(お世辞にも都市と言えるような規模ではないけれど……)との距離は歩いて半日と少々なので、暗殺者が送り込まれる可能性を考えるならそう長くは滞在していられないだろうと最初から考えていた。
「それにしても……疲れた……」
学生服は良質な生地で作られていたようで思った以上のお金になった。
おかげで数日間の宿代と食事代を賄うことが出来る。
チェックインした宿屋で、ベッドに倒れ込んで最初に思ったのは日本人で良かった、なんて事だったり。
ウトウトしながら考えるに。
城内での鑑定結果、僕は確かに職業……これは生業にしている職業ではなくて先天的に身に付いている適性なんだけど……の項目は空白になっていて、要するに何の取り柄も無い人間って事にはなるのだけれど、少し気になる部分があった。
それは筋力とか賢さの値に補正値が付いている事。
何の役割も与えられていない一般人と断じるにしては、ちょっと値が大きすぎるきらいがあったのだ。
更に言えば、鑑定で表示される項目が見る人間によって違っている可能性。
たとえば同室に居合わせていたのはフィリア王女と宮廷魔術師のブルームとかいう男、それから武装した衛兵が数名だったけど、彼らには職業欄が空白になっている事しか見えていない様子だった。
可能性の一つとして、もしかしたら概念として存在していない値は認識できないんじゃないか、なんて思ってしまう。
だとするなら素の能力値に補正が掛かる原因となるスキルを僕が所有していて、けれど僕自身にも認識できていない、なんて事だってあり得る。
転生転移の特典として僕にも何かが備わっているかも知れないんだ。
これが判明して使いこなすことが出来るようになれば、僕の生存確率は飛躍的に上がるだろう。
「――ステータス」
眠ってしまいそうな体に鞭打ってベッドの上で身を起こすと、指を横に振る。
すると視界の中にウィンドウが出現した。
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朝霧 有紀
種族:人間
性別:男?
年齢:16
Lv:5
HP:75
MP:250
筋力 :12(+5)
器用さ:40(+10)
知性 :70(+20)
俊敏性:20(+15)
耐久性:10(+5)
魔力 :50(+50)
魅力 :150(+100)
運 :40(+10)
第一職業:
第二職業:
第三職業:
技能:
称号:《異世界人》《――》
装備:服
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めちゃくちゃツッコミどころのある内容だ。
まず性別、“男?”ってなんだ!
僕は生まれてからずっと男だっ!
それで(+○○)ってのが補正値なんだけど、なんで魅力がこんなにあるんだっ!
僕ぁ彼女いない暦=年齢なんだぞ!
ナメんなコンチクショウ!!
というかなんで職業欄が三つもあるんだ?
ゲーム“神々の箱庭”はレトロなオフラインゲームで、ネットゲームみたいに補助的なクラスは無かったはずなんだけど……。
まったくワケが分からないよ。とはこの事だ。
称号にある《異世界人》ってのは、まあ分かる。でも補正値に起因していると関連付けるにしては数値の上がり方が異常なんだよな。
それに問題なのは《――》って表記だ。
どうして伏せられているのか。
まだ解放されていないって事なのか。だとしたら解放の条件は何だ?
幾ら考えても答えが出てこない。
こういう時に欲しいのは質問したら直ぐさま答えてくれるようなスキルだよなぁ。
と、こんな事をつらつら考えている間に眠気が押し寄せてきて、再びベッドに潜り込んだら朝になっていた。なんて話である。
ここからほぼ一週間、冒険者ギルドで請け負った仕事と言えば手紙の配達とドブさらい。
農場で畑仕事もしたっけ。
そんなだから戦いに関する技能なんて生えてくるはずもなく、変化と言えば全身筋肉痛になったところから筋力値が1とか2とかの割合で上がったくらい。
筋力と耐久性が最低な僕なのでちょっと上がったくらいじゃ話にもならなくて、むしろようやっと町で普通に暮らしている娘さんと同等になったというか。
うん、自分でも「男?」って訝しく思っちゃうこの頃です。
けれどそんなでもお金はちょっとずつ貯まっていって、靴屋さんで新しい靴を新調する事が出来た。
他には武器として短剣。……いや、武器にはならないけど長剣になると一気にお値段が跳ね上がって手が出せないのと、仮にお金があっても腕力も技術もない僕じゃ到底扱いきれないってところから購入は断念していた。
あと金額的にギリギリ買えなかったのは背負い袋だろうか。
リュックがあれば荷物の持ち運びができる。
異世界転生小説にありがちなアイテムボックスなんて便利スキルは持っていないし、ギルドの書庫でスキルに関して調べても関連しそうな情報は得られなかった。
……ギルド書庫に保管されているのは新人冒険者が生きていくために必要な、スキルと言うよりは知恵で、この地方に生息している魔物とその対処法だったり、薬草や毒草に関する書物、こういったスキルを習得するためにはこんな練習方法がありますよ、とか。
罠の仕掛け方なんかもあった。
どれも専門性としては低いのだけれど、誰でも素早く簡単にできる手法であるからこそ意味があるんだと思った。
極限状態では、ちょっとした気付きや基礎知識とその応用こそが生死を分けるのだろうと、保管されている書籍のラインナップを眺めて理解したもの。
学問として専門性のある本が読みたいのであれば王都にある図書館に赴くのが最も理に適っているのだと、これは受付嬢の受け売りだ。
――召喚されてから一週間が過ぎて。
今日もドブさらいの仕事でも受けようかと思って宿を出る。
早朝ともなれば道を行き来する人もまばらで、昼日中のような喧噪も無い。
空気が美味しいな、なんて思いつつ空を見上げて不意に気付く。
僕の真上は真っ青なのに、王都の直上に黒々として分厚い雲が居座っていることに。
ドゴンッ。
その分厚い雲から一条の光が落ちたかと思えば隣町にあっても聞こえるほどの大音量で爆発があって、次に黒い煙が濛々上に向けて吐き出される。
ゲーム“神々の箱庭”にそんなイベントは無かった筈。
まだ城には相良君たちが居る筈で、幾ら勇者とか賢者とかいった職業で能力値に補正が掛かっていたとしても一週間が経ったくらいじゃ戦力としては一般兵にも劣っている筈なんだ。
これが何者か、この場合は高確率で魔王の傘下にある魔物なのだろうけれど、襲撃が行われているのだとしたら勝ち目は全く無い。
恐ろしい想像をした僕は彼らの無事を祈りつつ、王都とは逆の方へと身体の向きを変えて駆け出した。
今の相良君たちではどうしようもない。
それは僕にしても同じ事。
王都に向かったとしても出来る事なんて何一つ無くて。
無力感と申し訳なさを覚えながら、それでも逃げ出した。




