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25:ぼ、僕は男だよぅ!(ゆうき視点)


 後で聞くところの『儀式の間』から連れ出された僕ら5人は別室に案内されて、個人面談したいからって事で一人ずつ呼び出されては別室に連れて行かれる。

 最初に出向いたのは相良君で、30分ほどして戻ってきた彼は真っ先にセミロング髪の女子高生のところまでやって来た。


「義晴君どうだった?」


「ああ、なんか水晶玉に手を当てて鑑定? とかいうのをやった。勇者なんだとよ」


 セミロングさんが心配そうに声を掛ければ相良君はぶっきらぼうに答える。

 その短い遣り取りで僕は察したね。

 2人は青春を謳歌する間柄だ。

 リア充爆死しろっ! くそぅ!


「では次はそちらのお嬢さん、こちらへ」


「じゃあ次は私だね。行ってくる」


「ああ」


 全身鎧の兵士がセミロングさんを指さして、彼女は意を決したように部屋を出る。

 幾分か気分が落ち着いてきた僕はここで進み出ると3人に声を掛けた。


「あの、皆さん気付いてます?」


「えっと、君は?」


「僕は朝霧あさぎりって言います」


「俺は相良さがらだ。で、こっちは一ノ瀬姉と妹」


「あ、ひどい。めっちゃ雑な紹介しやがったよこの男」


 イケメン相良君が良い笑顔で姉妹を指せば、姉のポニーテールさんがちょっとむくれた様子で応じる。

 ん? と思った。


「あたしは一ノ瀬 夏樹なつき、こっちは妹の美冬みふゆ


「えっと、よろしくお願いします」


「2人は雨宮あまみや……今出て行った奴の友人なんだ」


 ポニーテールの夏樹さんがカラッとした笑みで告げる。

 妹の美冬ちゃんはおずおずといった感じ。

 強気の姉とぴえん系の妹。

 ぴえん系というのは見るからにか弱そうで庇護欲をそそるって事だ。


 ……うん、けれどだいたい理解したよ相良君。3人は君のとってもとっても仲の良いお友達なんだね。

 雨宮さんは相良君を名前呼びしていたから、アレは絶対に恋する乙女って奴だ。

 でも相良君はナチュラルに「雨宮」と名字を呼び捨てにしている。

 つまり雨宮さんと一ノ瀬の姉(なつきさん)は彼にゾッコンLOVE。一ノ瀬妹(みふゆ)ちゃんも嫌がっていない。と、こんな関係性なのだろう。


 くそっ! くそっ! 丸っと分かっちゃったじゃないか!

 自分の推理力が恨めしい! 真実はいつも一つっ!

 このハーレム野郎めっ! イケメンだからって何でも許されると思うなよ?!


 ……などと思いながら、僕は二人に会釈する。


「それで朝霧、お前って男なのか? それとも女子?」


 僕が本題に入ろうとしたところで相良君が値踏みするような目で身を乗り出し聞いてくる。

 上背タッパのあるイケメン顔から見下ろされる格好の僕は思わず「ぴえんっ」とか言っちゃいそうになるがそれでも踏ん張って耐える。


「そんなの男に決まってるだろっ」


 男子制服を着ているってのになんて言い草だ。

 なのにこのイケメンリア充、不思議そうに顔を傾ける。


「いや、お前男にしては可愛すぎないか?」


「あ、それあたしも思った」


 一ノ瀬姉が同調する。


「なんかナヨナヨしてるし、声だって声変わりしてないっていうよりは女の子みたいだし」


「や、ホントに男なんだってば」


「あ、分かったこういう子の事を“男の娘”っていうんだ」


「よし、じゃあ一緒に風呂入る機会があったら確認してやる」


「ひえぇ~」


 なんて人達だ。

 そりゃあ昔から童顔の女顔で、姉の趣味で女装させられた時には美少女呼ばわりもされたけどさぁ、それでも僕はれっきとした男子で、あと何年かしたらムキムキのマッスルダンディになる予定なんだよ。

 そんな僕を指して女っぽいとか言うなよぉ!


「と、とにかく、三人には今のうちに話しておかないと」


 男だ女だと下らない論争で時間を費やせるほど余裕があるのかも分からない。

 なので本題に入る。


「時間が惜しいので簡単に言います。僕の予想通りならこの世界はゲームによく似た、それかゲームそのものの世界です」


 今とても恐ろしい想像をしている。

 もしも僕が思った通りこの世界がゲーム“神々の箱庭”そのものの世界だったとするならば、僕が相良君たちと言葉を交わす機会はもう無いかも知れない。

 だから今の間に僕と彼らとである程度でも認識を一致させておく必要があった。


「それってどういう――」


 相良君の言葉を手で制して告げる。


「まずは黙って聞いて下さい。今からする話はこの国の人達には絶対に漏らさないようお願いします。僕の見解から言うとこの世界は僕らの世界で言うところ“神々の箱庭”というRPGに酷似しています。主人公のデフォルトネームは“ヨシハル”で、主人公を日本から召喚するのは“フィリア王女”です」


 一息でここまで述べると目力めぢからだけで続きを促す相良君に頷いて見せた。


「シチュエーションから考えて今は冒頭部分プロローグといったところで、実際に自分の意思で動き回れるようになるまでには多少の時間があります。それでシナリオ通りに進めば相良君はフィリア王女と敵対し、最終的に彼女を殺害するか奴隷にして売り飛ばすことになります」


「お、おい!」

「ちょっと、おかしなこと言わないで!」


 相良君と一ノ瀬姉が勢い込んで物申す。

 けれど僕はここでも手振りだけで制した。


「落ち着いて下さい、あくまでゲーム内でのシナリオの話です。……ただし相良君の行動とは関係無くフィリア王女は人格的にゲーム通りに狡猾で残忍な女性である可能性が極めて高い。舐めてかかるととんでもない目に遭いますよ?」


 ここで一旦言葉を切って三人の顔を見つめる。

 相良君は元より一ノ瀬姉なつきさんも気を引き締めているかに見える。

 みふゆちゃんは怯えたような顔をしていた。


「僕が今このタイミングで話をしているのは、最悪僕だけが脱落する可能性があるからです。どういう事かと言えば、本来この世界に勇者として召喚されるのは4人。勇者と聖女、賢者、それから覚醒イベントで勇者化するキャラ。言い方を変えると最初から配役ロールの席は数が決まっていて、だから僕のぶんの役が無い状況なんです。相良君は今しがた鑑定を行って勇者である事が確定していますが、それは僕が無能の烙印を押されて物語から強制退場させられるって事の裏付けにもなります」


 相良君は苦々しげな顔をしている。


「さっき出て行った、ええと、雨宮さんだったかな? 彼女の鑑定結果が“聖女”か“賢者”だったらほぼ確定なので、その次は僕が行きます」


 キッパリと言い切ってから大きく息を吐き出す。

 三人に同情らしき目を向けられてしまった。

 彼らは想像も付かないかも知れないけれど、もしも追い出された場合、その後は王女が放った刺客に殺されるか道中で人攫いに遭遇、そのまま誘拐されて奴隷としてどこぞの変態貴族に売り飛ばされる公算が高い。

 だって、人権なんてガン無視の世界観で、王女様も裏で暗躍するのが大好きな腐りきったお貴族様なのだから。

 将来的に敵に回るかも知れない不穏分子を生かしておく筈が無いんだ。


「それで、ここからはネタバレになるんですが、元の世界に戻る方法は魔王も知りません」


 そう、僕が彼らに伝えたいのはコレだった。

 ゲームのシナリオ通りに事が進むなら、魔王を倒してハッピーエンドとはいかないのである。


「元の世界に帰る方法を知っているのは、この世界でたった一人、“瑠璃色の大賢女”と呼ばれている女性です。何処に居るのか分からないし、そもそも本当に存在しているのかすら怪しい。ゲームの設定だと月の裏側にある“開闢かいびゃくの迷宮”っていう超高難易度ダンジョンの地下100階に裏ボスとして君臨している筈なんだけど、存在してるなら実際にはもっと近場に居ると思う。勇者達の冒険を近くで見物してたみたいな台詞があったし……」


 ゴクリと唾を飲む音がしたけれど、誰のものかさえ分からない。

 ちなみにゲームと同じで“開闢の迷宮”が存在するのなら、そこへ辿り着くには“天ノ鳥船(アメノトリフネ)”っていう古代遺跡に眠る宇宙戦艦を復活させる必要があるのだけれど、その手順がまた面倒臭い。対消滅エンジンの核と燃料となるゲルマニウム、あと起動させるための認証キー、それら全部を揃えなきゃいけないワケだが、ハッキリ言って魔王を討伐するより難度が高かったりする。

 だったら帰る事を諦めて魔王を倒して一応のハッピーエンドを迎える方がよっぽど楽で確実だ。


 ……ってかよくよく考えると“神々の箱庭”ってめっちゃクソゲーだよな。ゲームバランスガン無視だったし。

 さすがレトロゲーのコーナーでワゴン売りされていただけの事はある。なんて遠い目で感慨に耽ってしまったりの僕です。


「どうしても日本に帰りたいなら“瑠璃色の大賢女”を探して下さい。出会えなければ諦めてこの世界の土に骨を埋める方向で。そしてこの話は城の人間達には絶対に明かさないように。王女を初めとした貴族連中は性根が腐っているので知られてしまうと後になって敵対関係になる可能性があります。大賢女は存在していれば魔王を瞬殺するレベルで強い筈だから最悪大陸ごと消滅させられてしまうでしょう」


 僕はそこまで言って言葉を切った。

 相良君は二度三度と何かを言い掛けたが、結局出た言葉は「サンキューな、朝霧」なんて短い感謝だけ。

 僕ははにかむように笑んで応えるばかりだった。


 それからさして時間を置かず出て行った雨宮さんが戻ってきて、聖女だということが判明。

 僕は相良君と頷き合うと踵を返し部屋を出た。


 結論を言えば、僕の鑑定結果は全能力値が最低の、職業クラス欄も空白の村人Aと呼んで差し支え無いステータスで。

 予想通りというか何というか、元の部屋に戻ることもなく簡素な馬車に押し込まれたかと思えば王都の入り口まで強制移動。

 有無を言わせず街の外へと放り出されてしまった。


「オラッ、王女様の温情だ! 有り難く受け取って何処へなりとも行きやがれ!」


 そんな乱暴な物言いで銅貨10枚の入った小袋を投げ渡され、こうして晴れて自由の身になった。

 なお、近々暗殺されちゃう予定です。


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