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18:第12号坑道②


 地下第三階層は上層階と比べて通路の幅が広く感じられた。

 どういった意図なのかと思ったが《空間把握プリセプション》で洞内の大雑把な構造を知覚したところでおおよそ察する。


 《空間把握プリセプション》は術者を起点として地形を探査する魔法で、地続きになっている空間を視覚的に捉える事ができる。

 これは主に入り組んだ洞窟などで使用、構造や深さ奥行きを調べる事で必要とされる食料やランタンのオイルの量を測るといった意味合いがあるが、隠し部屋や通路を発見することもできた。

 この世界というかこの世界の技術レベルを鑑みるなら、隠し部屋を設置するにしても完全な密閉状態で、というのはかなり難しい。

 小さな隙間や通風口があれば、自分の立ち位置と僅かでも繋がっていれば探知できるのだ。

 ただしトラップが仕掛けられていた場合には探知できない。

 あくまで地形を掌握するだけの魔法なので地雷が埋められていたり壁や床面に魔術回路を描くだけの強制転移テレポーターは見つけ出すことが出来ず、なのでそういった罠には注意が必要だが、少なくとも侵入者を排除する仕掛けを鉱山に敷設する根拠が無いから今は心配しなくて良いと言えよう。

 あと、付け加えておくと、魔法を並列起動できる術者であれば更に生体感知と魔力探知を重ね掛けすればどれくらいの数の魔物が居てそれらの溜まり場がどの辺りかさえ分かってしまうからかなり使い勝手が良くなる。

 いつどこで鉢合わせするとも分からない暗がりの中を進むのは余計に疲弊してしまうものだから。

 何が起きるのか大雑把にであっても予め分かっているというのは探索において非常に役立つことなのである。


 で、坑道地下第三階層では奥に行けば行くほど通路が細くなっている。

 これは階段の周辺だけ追加で掘削、つまり後付けで通路を拡張したと思われる。

 理由はと言えば恐らくは採掘した鉱石を運び出しやすくする事もあるけど、何よりも一番最初に第三階層まで掘り進めた時点で鉱脈を発見、採り尽くした結果坑道そのものが広がっていたなんて話だろうと思う。

 何にしても先細りしていく通路の奥に魔物と思われる生命反応がたむろしていて戦闘は避けられないってこと。

 私は口端がニンマリ吊り上がっていくのを抑える事ができない。


「凄く嬉しそうですね?」


「うん。そりゃあ魔法は使ってナンボだし。派手で強力な魔法を知っていたら使ってみたくなるのが人情ってもんでしょうよ」


「けど私は戦い方なんて知りませんよ」


 レミーちゃんが物申す。

 握り絞めた短刀が微かに震えているのが見えた。


「ああ大丈夫。強化魔法を幾つも掛けてあるから実際に戦いになれば相手の攻撃なんて目を瞑っていても避けられるだろうし、あとは急所に刃を突き立てればお終い。

 ……戦いってのは要するに急所の突き合い。先に相手の喉笛を食い千切った方の勝ちなの。それは剣を振るおうが魔法を使おうとも変わらない」


(どんな深淵を覗きゃそんな考えになるんだ?)


 肩に乗ってるオコジョが念話で囁くも丸っと無視。

 私は強化魔法発動中につき魔力がガリガリと削れていくのを感じながら足を前へと出していく。



 ――戦闘は唐突に始まった。

 私から放たれている魔法の明かりに引き寄せられたのか、廊下の奥から足音共にやって来る一団があって、それらの輪郭を視界に捉えた瞬間にはもう駆け出していた。


 ボンッ!


 人間に近い体型だが背丈は子供くらいで、全身の肌が緑色。

 醜く見るからに凶悪そうな面構えはゴブリンであろう。

 それらは腰にボロ布を巻いただけの原始人ルックで、手に錆だらけの剣や棍棒らしき塊を握り絞めている。

 一番手前に居たゴブリンが慌てて手にする剣を振り上げたときにはもう私はソイツの真ん前にいて、デコピンする体勢の手を額に押しつけ間髪入れずに指を弾き出す。

 たったそれだけのことで一匹の頭部がグシャリと弾け飛び、頭蓋の欠片と脳漿を撒き散らして床にどうと倒れる。


「掛かってこい。全部殺す……!!」


 ニタァ、と悪魔的笑みを堪えきれず私がうそぶけば、奴らは気後れしたようにワンテンポ遅れて攻撃態勢を執った。


「遅すぎて欠伸が出る! ほら、グズグズしていたら鏖殺されてしまうぞ?」


 ボンッ!


 弱い者虐めのなんと楽しいことか。

 二匹目のゴブリンをデコピンで粉々にした次の瞬間、真横から振り下ろされた棍棒をバックステップでやり過ごしては杖の柄で攻撃者の腹を突く。すると臓物を撒き散らし腹部に風穴を空けられた一匹が壁まで吹っ飛ばされ動かなくなった。


「くくっ、楽しいなぁ!!」


 ボグンッ!!


 反対側から飛び掛かってきた一匹に裏拳を叩き込めば、手に握り絞めていた剣の刀身諸共、子鬼の身体が爆散し、血飛沫の向こうへと消えていった。

 腹の底から湧き上がる愉悦。

 更に正面、倒れた一匹の向こうから槍を手にしたゴブリンが突っ込んできた。

 そいつの顔は既に恐怖の色に染まっている。

 銃弾すら掴み取る私が槍の穂先を躱せないなど有り得ない。

 突き出されたボロボロの刃の根っこを捕まえて素早く引っ張る。

 すると非力な敵は前へとつんのめって、私は放した手をそのまま握り絞めて殴りつけた。


 ズシャ!!


 たったそれだけの事で物言わぬ肉片へと姿を変えたゴブリン君。

 後続の妖魔達が私の立ち姿を拝して臆したのか突進する勢いに急ブレーキ、回れ右して逃げだそうとした。


「私に刃を向けた以上は撤退も降伏も認めない。戦って死ね!!」


 ――《水貫槍ウォータランス》。


 ズドドドドドドドドドドッ!!!


 私は最初から一匹たりとも彼らを生かしておくつもりは無かった。

 全部が全部をぶち殺し肉片に変えてやる腹づもりだった。

 だから逃げ場の無い坑道内において水系魔法を発動させ、逃げ惑う子鬼共へと放ったのだ。

 通路いっぱいを埋め尽くす大蛇の如き濁流が顕現し、相手を丸呑みするとかいう壮大な絵面が完成する。

 普通の術者ではこうはいかない。

 魔力の増幅機構を備えている魔法杖を用いて、魔王すら軽く凌駕する魔力の持ち主たる私が発動させた魔法だからこうなるのだ。


 放たれた鉄砲水が駆けているゴブリン達を飲み込み、四肢を、腹を頭を、どこもかしこもを食い破り破壊する。

 バラバラになった肉片たちが、術の消失と共に床面に取り残されていた。


「……はぁ。スッキリした♡」


 恍惚として独り言ちた私。

 いつの間にやら肩から降りていたオコジョが足下までやって来てゲンナリする。


(お嬢、あんたマジでヤベェ奴だったんだな……)


 勿論のこと無視する私。

 けれど振り返った先には短刀を両手に握り絞めガクガクと震えているレミーちゃんの姿ががが……。


「ええと、うん。こういう事もあるってことで」


 お弟子ちゃんを怖がらせたいわけでは無かったので、どうにか取り繕おうと誤魔化し笑いを浮かべてみる。

 するとレミーはまだ瞳に怯えの色を残しつつ溜息を吐いた。


「お師匠様は恐ろしく強いって事ですね。はい、納得しました」


 怖がろうと何しようと自分から弟子入りを懇願した事実は変わらない。

 そう自分を納得させたのか、栗色髪の娘さんは力ない笑みを返したものである。


「ここで一つ聞いておこう。レミー、魔物と動物の違いって分かるかな?」


 見回して敵の反応が失われているのを確認してから再び歩き出した私は、気持ちを切り替えたのか幾分かしっかりとした足取りで追従してくるお弟子(レミー)ちゃんを振り返ることもしないで尋ねる。


「えと、魔物は凶暴で、動物は温厚、とかですか?」


 するとこんな答えが返ってくる。


「いやいや、野生動物だって場合によっちゃ凶暴でしょうよ。魔物ってのはね、そもそも生き物じゃないんだよ」


 分岐点に差し掛かったので迷わず右に舵を切る。


「動物は交配によって子供を作り繁殖していく。でも魔物は、ある時点で急に出現するんだ。これをポップすると言うのだけれども、魔物が魔物と呼べる形態になるまで何段階かあってね。

 ある一定以上の魔力が溜まっている場所に邪気、つまり人間や亜人といった動物が発している悪い気、殺意や敵意、怒りや憎しみ妬み嫉み。そういったものが混ぜ合わされた状態で一定時間が経過すると魔物の元になる魔種が生まれるんだ。

 魔種はまだ実体を伴っていないから剣で突いても斬っても無駄。むしろ悪霊に近い存在だから聖職者が使う神聖魔法で散らすといったやり方が適切かも知れない」


 坑道内の薄暗さを切り裂く魔法の光。

 私たちは光に導かれでもしているかのように靴裏にて一歩また一歩と剥き出しの地面を踏み締める。


「魔種は更に一定の時間が経過するか、生き物の肉を食うか、もしくは生きている動物に取り憑くことで受肉する。私たちが魔物と呼んでいるのはこの状態。

 魔物が生まれるサイクルは弱い個体ほど短い。なぜかと言えば魔種になる過程でそこにあった魔力を消費し取り込むから、空白になった場所ではそれ以上の魔物は生まれることができないんだ。

 弱い魔物ほど生まれるために消費する魔力が少なくて済むから、結果として循環期間サイクルは短くなる。

 ゴブリンなど低レベルの魔物は条件の揃った場所ならそれこそ一日に数匹は生まれてしまう。

 だから減らない。キリが無い。

 私がギルドで討伐依頼を受けないのは、完全に消え去ることの無い相手に数を減らすだけの目的で突っ掛かって行く行為が時間の無駄としか思われないから。

 もしも聖職者達が得意げに説くように世界を作ったのが唯一絶対の神であるとするのなら、ソイツはどうしようもなく精神のねじくれたクソ野郎に違いないでしょうよ」


 もう少々歩けば第二回戦の始まりだと視界の隅にて蠢く赤い点々を見つめつつ身構える。

 先ほどの戦闘を遠巻きに見ていた個体でも居たのか、向かう先にあるワリと大きな空間に生体反応が終結しつつあった。

 数は知れているが一番奥に大きな個体が居るっぽい。

 ゴブリンキングとか、そういったものだろうか。

 もしそうだったとして私の攻撃にちゃんと耐えてくれるだろうか。

 杖の記憶領域には破壊力抜群の攻撃魔法が幾つもインストールされているのだ。

 せめて一つか二つは使わせて欲しいと高揚する気持ちを抑えるばかりである。


「さあ、間もなく戦いのお時間です。心の準備はできてる?」


「は、はいっ!」


 短刀を手にしたレミーちゃんは小動物的な可愛らしさがあって、思わずギュッと抱き締めたくなってしまう。

 けれど既に返り血の付着している私の身体で彼女の衣服を汚すワケにもいかなくて。

 何とも悩ましいところだ。


 やがて暗く窮屈で圧迫感漂わせる細道は急に開けて玄室に出た。

 ひしめく魔物は50かそこら。奥に明らかにゴブリンとは違う個体が見える。


「私たち以外の存在は全てが敵。一匹残らずぶち殺す。行くわよ」


「はいっ!」


 我が弟子の恐怖半分といった返事を聞きながら、或いは「プシッ」と排気ノズルから白い息を吐き出す魔法杖にて地面を突きながら、私は魔物の群れとの距離を詰めていった。


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