操色師③
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大桜の一振りを受ける直前に、黒金はポケットに仕舞っておいた黒色のカラーコアを鈍く光らせ、小さなナイフで大桜の攻撃を受け止める。
大桜はつまらなさそうに舌打ちをして、二、三歩黒金から離れ刀を構える。
室内で突然始まった戦闘に観客が集まり、「我色」の主催者である山田が二人の様子を静かに伺う。
「よろしいのですか?」
山田の横へ静かに大桜と黒金を見守る金子が呟く。
山田は眼鏡を指で押し上げ、「好きにさせましょう」と言ってギャラリーを引き連れ二人の決闘場から去っていく。金子も山田の後に続いてすぐにその場を去ろうとしたが、黒金の顔を凝視してから人ごみに紛れて去っていった。
「アンタ、赤系統の操色師か」
「それがどうした」
「アンタ色を制御できてないだろ」
「はぁ?」
黒金の淡々とした態度に大桜は怒りを見せる。
「アンタ色を使いこなせず、暴走した状態で力を使うから人格が分離したんだろう?」
不機嫌そうに大桜は舌打ちをする。
黒金は大桜の態度を見て、自分の推測が正しいと確信する。
操色師の中で、稀に二重人格の者が現れる。
それは、操色師自身が持つ色の力が膨大で制御しきれず、色が人格を呑み込もうとし、それに抗うと人格が分離し、色の能力を使う時だけ色の特性を濃く現した人格が姿を現す。
黒金は過去の記憶で、そう言った人物を見たことがあったため大桜の変化に気づけたのだ。
「お前なんかにアタシの何が分かる!?!?!」
大桜は左足に力を込め、爆発的な速さで黒金に襲い掛かる。
黒金は手に持っているナイフを鞭に変え、大桜が振り上げる刀に鞭を巻き付け大桜の手から武器を引き剝がす。しかし、武器を取られてもお構いなしに大桜は黒金の元に突っ込んでいき、重い拳を一発腹に入れる。
「っ!」
黒金は腹を抱えながら、地面に膝をつき戦闘狂の目をした大桜を見上げる。
「お前に流は渡さん!」
弱っている黒金に蹴りを入れようと足を伸ばす。
「止めて!」
流の声が室内に響く。
黒金の顔の横で大桜の足がピタリと止まる。
「流……さん……」
大桜は動揺した声で、泣きそうな顔をしている流を見つめる。
流は手足を震わせながら二人の元へやってきて、地面に座り込んでいる黒金を抱きしめた。
「流さん……私……!」
髪と瞳の色が徐々に薄くなり元のか弱そうな大桜に戻っていく。
好戦的だった大桜から、流が知る大桜へと変わったことに気がつくと、流は黒金を抱き込んだまま震える声で大桜に問う。
「……華ちゃん。どうしてこんなひどいことをするの……?」
「わ、私は……!」
優しい瞳で隣に立ってくれていたはずの流は、獣に脅える少女として大桜の目に映る。
大桜はぐっと奥歯を噛み、胸に手を当て自分の身勝手さに苛立つ。
「白雲」
「針ちゃん……」
流は黒金から離れ、申し訳なさそうな顔をしている黒金を見つめる。
「(針ちゃんが不器用な人だって分かっていたはずなのに……私は勘違いをして……)」
流は自分の行動に反省をし、黒金に謝罪すると黒金も謝罪をし仲直りをする。
二人の空間に居たたまれなくなった大桜は二人に背を向け、その場を逃げようとする。
「待って!」
流が大きな声で大桜を呼び止める。
大桜は止まったが、全く流の顔を見ようとしない。
「華ちゃん……どうして、どうしてあの時すぐに帰っちゃったの?」
大桜は背を向けたまま流に言う。
「……私、友達がいなかったんです。……でも、あの時勇気を振り絞って貴方に声をかけた時、優しく接してくれて、友達だと思ってくれて……! 私にはこの人しかいないんだって……! けど、違った。部屋は離れ離れで、しかも悪目立ちしていた黒金さんと仲良くしている流さんを見たら、もう私のことなんてどうでもいいんだと思ってしまって……!」
肩を震わせ、地面にポツリ、ポツリと雨が滴る。
流は大桜の背を抱きしめ「そんなことないよ! 華ちゃんを見捨てるわけないでしょ……!」と顔が見えない大桜に優しく語りかける。大桜から言葉は紡がれない。しかし、彼女から零れる雫が大桜の答えだった。
「お人よしだな……」
離れた所から見ていた黒金は大桜と流の涙を見て、やれやれとため息をつく。
「喧嘩は終わりましたか?」
「アンタか」
足音も立てずに黒金の側にやってきた山田を適当にあしらう。
山田は眼鏡を指で押し上げ、満足そうな表情で泣き合っている二人を見つめる。
「アンタ何が目的なんだ?」
「どういうことでしょう?」
「私にはアンタの考えていることがわからない。操色師を集めて、何をするつもりだ?」
「昨日お話した通りです。私は我社の繁栄を求めている。ただそれだけのことです」
「…………」
黒金は山田が浮かべる不気味な笑みを怪しみながら、流たちの様子を見ていると山田は静かにその場を去っていった。
「山田のオッサンは何をする気だ?」
山田の背を見つめながら黒金は小声で呟いた。
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