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5-2

 そのうち、ひとびとは何人かのグループにわかれて歩きはじめた。あるグループはあっちに、またあるグループはこっちに。少しずつそれぞれの道にはなれていく。


「ミレイちゃん、ロクトくん、くれぐれも『魔物道』にだけは入らないようにね」


 わたしたちの一団に、さっきミレイちゃんたちに話しかけていた女の人が心配そうに声をかけてくれた。

 はーい、と返事をしたミレイちゃん、ロクトくん、そしてレイさんといっしょに、四人で広めの山道を進む。わたしはもう一度まわりをみまわしてみた。


 本当に、どこもにたようなうっそうとした山。やっぱり目印はぜんぜんない。


「っていうかここ、わたしがレイさんに助けてもらった山ですよね?わたし、こんなとこ一人でうろついてたんだ・・・それも雨の中」

「たしかに、そういうむちゃはもうやめたほうがよさそうですね」


 レイさんがふふっと笑って、わたしは苦笑い。ちょっと顔が赤くなっちゃった。


「あっ・・・」

「おっと。だいじょうぶ?」


 ずるり。となりを歩いてたロクトくんが足をすべらせて、わたしはとっさに手を出してささえた。すると立ちなおしたロクトくん、こちらをきっとした目で見て。


「ぼくにさわるな!」


 さすがにとまどって、わたしは手をひっこめる。


「ロクト、そんな言い方ないでしょ。ちゃんとおれい言いなよ。転んじゃうとこだったよ」

「ぼくはたのんでない」


 ミレイちゃんがあきれたように言ったけれど、ぶっきらぼうな返事。ふいと顔をそらして、わたしからはなれていっちゃった。いれかわるように、レイさんがわたしのとなりに立つ。


「ロクトくん、ご両親がなくなちゃってからあんなかんじなんですよね・・・悪い子じゃないんですけど。気を悪くしましたか?」

「いえ、だいじょうぶです。わたしもなんとなくわかりますから」


 わたしも、母さまがなくなってすぐのころはだいぶ気分がしずんでたもんなあ・・・おばさんからみればあんな態度にみえたかも。


「たぶん、さびしいだけなんだと思います。ロクトくん。ご両親のことから立ち直るのに、ミレイちゃんより時間がかかっちゃってるんじゃないのかな。そんなかんじがします」

「そうですか。なら今はしかたないかもしれませんね」とレイさん。


 それはそれとして、ちょっと気になることが。


「そういえば、さっきあの人が言ってた『魔物道』ってなんですか?」

「ああ、あれは・・・この山の中に、ふだんはあまり使われない道があるんですけど。その道の先に古い大きな木があって、その木の中に魔物が封印されてるってうわさがあるんです。だから『魔物道』。うわさでは人の心につけこんで苦しめる魔物だそうですが・・・なんでもその木に近づいた人が何人もおそろしいまぼろしをみたりしてるみたいで」

「え、それってもしかして、シュバルトメア・・・」

「シュバルトメア?それは?」


 聞かれてわたしは、もとの村にいたころに習ったことを思い出してみる。魔法の先生は、なんて教えてくれたっけ。


「魔法使いの世界に、こういう話が伝わっていて・・・」


 百年以上の昔。ある集落の魔法使いたちが、自分の村を守らせるために、何体もの魔物をつくった。その魔物がシュバルトメア。魔法使いや人間などの生物にとりつくことで、その心につけこむ魔物だった。ところがそのシュバルトメアたちは自分を生み出した魔法使いたちにはむかうようになり、にげだしてあちらこちらへと散らばっていった。そこで魔法使いたちは散らばったシュバルトメアをさがし出し、一体一体、木にとりつかせて封印していった。意識をもたない植物相手では、シュバルトメアの力は効果がなかったのである。こうしてシュバルトメアたちは、世界のあちらこちらの木に封印されることになった。


「・・・というわけで。魔法使いの間では、けっこう知られた話なんですが・・・」

「人の心につけこむっていうのは?」

「シュバルトメアは、人の心の奥底にある一番強い『おそれ』をまぼろしや夢にして見せるんです。その人が持つおそれ。今までの最悪の記憶とか、その人の一番こわいものとか・・・」

「・・・考えたくもない未来、とか?」


 レイさんが、ちらりと横目でわたしをみながら、先をひきとるみたいに言った。


「そうですね。その可能性もあると思います。その人が、もっともおそれている未来とか」

「そうですか、なるほど・・・未来へのおそれ・・・」

「・・・レイさん?」


 なにやら考えこんでしまったレイさんが気になって、わたしの足がとまった。レイさんの緑色のひとみに、またあのときのゆれを見たような気がしたそのとき、どすんっ!

 わっ、びっくりした!だれ?こしにとびついてきたの。見下ろしてみると、ミレイちゃんの大きな黒いきらきらの目がふたつ、くりくりっ。


「お話もいいけど、みてみて!ここ、ぜっこうの場所だよ!」


 言われて顔をあげると、わあ・・・!

 わたしたち、いつのまにか小さな川のほとりについてた。ぽっかり開けた木の間からお日様がさんさんとふりそそいで、すきとおったみなもをきらきらとてらして、さあささと気持ちいい、水の音が流れて。そしてその近くのあちこちから、山菜がにょきっ、にょきっ。


「すごい!あな場だ」

「さっそくとろうよ!山菜!」


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