次は王都に行こう
ギルド内の浄化が進んだとの話だったけれど、いったいどの程度まで汚染されていたのか疑問に思った。もっとも人数で言われても判断できないし、立場的な発言権もあるのでパーセンテージで表せるものでもない。しいて上げれば役職者の何割なのか程度は聞いておいても良いだろう。
「汚染の度合いって教えていただけるのですか? もちろん、詳細まで聞くつもりは有りません。職員を管理する側の何割程度が関与していたのですか?」
「お恥ずかしい話になりますが、『長』と付く者が代行権限を持つ者を含め8名おり、その全てが大なり小なり件の組織と関係を持っておりました」
「組織の在り方が駄目なんですかね」
「王都にある本部に対しての虚偽報告が多数発覚していますが、どれも昇進を伴う異動で反発が少なかったのも影響しているのでしょう。事実、複数のギルドで内勤経験のある私でも些細な違和感しか覚えませんでした」
「補足するならば内部ルールを無視し、横のチェック機能を一部に集約されていたが故に気付きにくくなっていたようなのじゃ」
おそらく、以前ニュースで見た事のある事例に酷似しているのだろう。現代日本の大企業でさえ、一部の管理職や現場責任者がルールを蔑ろにして大きな社会問題を引き起こし続けていたのだから、通信手段が明らかに劣っているこちらでも起こるべくして起きた問題なのだろう。もっとも、こちらの問題では多くの人命やより多くの尊厳が蔑ろにされていたので罪は大きいと思う。
ふと思った。もしかすると、件の組織のトップは転移や転生をした者なのではないかと。
だからと言って私がどうこうできる問題でもないのだけれど。
「さて。そこで、浄化の切掛けを与えていただいたお礼として各自のランクアップを、前ギルドマスターが大勢の前で虚偽の断罪を敢行した謝罪として金貨50枚を、冒険者を助けていただいた礼としてPTランクのアップをそれぞれ行うこととしたいが如何か」
「ご提案を受け入れさせていただきましょう。ただ正直なところ、自身のランクアップの代わりに職人を紹介していただくことは可能でしょうか」
「どんな職人かに依るが、鍛冶職などの生産職なら個人的に紹介する事もできるよ」
「鍛冶師、特に刀鍛冶を得意とする方を紹介していただきたいのです。実は特殊な鋼材が手に入ったので武器を新調したく」
「なら、王都に良い職人がおるので紹介状をお渡ししよう。差し支えなければどういった鋼材を? 潜られていた迷宮に特殊なものは無かったはずじゃが」
「鱗斬鋼です。30層のアースドラゴンが鱗をドロップするんですが、これと鉄鉱石などを錬成するとできる鋼材で、魔力を纏わすことが出来ないものの刃物にするには最適だと聞いていたんです」
実際は鑑定などの錬金系スキルで知った事だったけどそれまで話すと収拾がつかなくなるので止めておく。すでに複数の刀が打てるほどの鱗斬鋼を錬成済みなので、職人さえ見つかれば直ぐにでも渡せるようになっている。
「確かにそのような鋼材があるのは聞いていますけど、鱗と鉄鉱石の比率は1:2と鱗の使用比率が高いですし、売価と手間が釣り合わないはずですが」
「リポップが遅いですからね。おかげで潜りっぱなしになってしまいましたが、息抜きにはちょうど良かったですよ。ね、アリス」
「そうですね。水は魔法で出せましたし、食料も豊富に持っていける手段があるので、旅をするより快適だったと思いますよ」
ベッドで寝れるしトイレもあるし、食材は豊富に持っていたので食事の質も高かった。さすがにシャワーは2日に1回ほどしか浴びてはいないけれど、鍛錬も程よく出来ていたので時間を持て余すことも無く快適だったと言えるだろう。
正面の2人は戸惑った顔をしていたけれど、自分が規格外な自覚はあるし、そんな顔をされるのはもう慣れてしまった。
近日中に紹介状を書いてもらえることとなったので、今日はこれで解放してもらった。
宿は前回と同じところが取れたので、3日借りる事にした。3日目にギルドに寄って紹介状を貰ったらそのまま王都に向けて出発する予定でいる。その間の2日間は食べてしまった食材の補充をしなければいけない。
そうだ、手紙を書こう。
ナタリーさんやカティアさん、ヘイルさんにくだんの件を含めて近況報告をしよう。
ナタリーさんは今回の対応を褒めてくれるだろうか。
カティアさんには心配をかけてしまうかもしれないけれど、ヘイルさんなら方々に根回ししてくれることだろう。割高にはなってしまうけれど、こちらでよく飲まれているお酒を樽で送ってあげるのも良いかもしれない。
だから明日は先ず便箋を買ってこよう。そして手紙を書いてゆっくりと過ごそう。




