1-25 対チームロー②
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アズガバーナ公国魔術師団副団長マリオネット・オーガスは国家戦力級の魔術師として他諸国に恐れられていた。
その父の背中を見て育ったダブラス・オーガスたちまち父を尊敬するように慕う。
「父上、今日はどこに?」
「お、ダブラス……! 今日はね、悪い魔術師を退治に行くんだよ」
マリオネット・オーガスは貴族の父親の割には優しくダブラスを物凄く可愛がっていた。
目を輝かせて父を見るダブラスにマリオネットは頭に手を当てる。
「パパはこれからお仕事だからダブラスも日々精進して良い魔術師になるんだよ」
「はい……!!」
ダブラスはわずか一歳ながらに魔力を発言させた所謂「天才児」。その天才児は父の背中を負い、いつかはアズガバーナ公国を担う偉大な魔術師家系となるはずだった。
新星暦二九九六年十一月二十日
「逃げなさい……! ダブラス……! お前が敵う相手じゃない」
「うるせえ……! 俺は! 父上のように国の背負う最上位魔術師になる男だぞ!」
ある黒衣を纏う男に襲われた。
その男は無敵であったマリオネット・オーガスを軽くあしらい両膝をつかせた。
「最上位魔術師になるんだったら逃げろ! 命を惜しむな! 生きろ、ダブラス!」
「遺言はそれだけか?」
奴は喉元に剣を置く。
「その手をどけろ! 父上を殺させはしないぞ!」
「止めろ! お前も殺されるぞ!」
ダブラスは最低位魔術《炎の千槍》を片っ端に打ち続ける。
「……貴様に用は無い。邪魔だ」
奴は天性魔術なのかダブラスを強引に浮かし、結界魔術の外に出された。
「ち、父上ーーーー!!」
ダブラスが引っ張り出された瞬間に見せた姿はなんの後悔もないような笑顔だった。
これがアズガバーナ公国魔術師団副団長マリオネット・オーガスが見せた最後の姿である。
後にテミール・ノノア公爵が殺害されアズガバーナ公国の軍事力は一気に低下し近隣諸国に侵攻され、現在アズガバーナ公国が持っている領地は軍事力を多く保有していた頃より三分の一になった。
後になってダブラス・オーガスは知ることになる。
各国の手練の魔術師を殺した謎の人物『魔術師殺し』が父上を殺したということを。
そして、その『魔術師殺し』を討伐したのは相打ちとなって殉職した世界最強の魔術師が一人、五大魔術師第四位フレイ・ハズラークだということを。
彼は絶望した。
そして、自分の無力さに物凄く怒った。
ダブラス・オーガスは動き出す。
私立タレミア魔術学園に入り、強くなることを。
もう後悔しないように、あんな気持ちにならないように。
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「天性魔術《獅子の怒号》か……」
オレは以前か『魔術師殺し』を討伐した後、被害にあった魔術師を調べたことがある。
奴の天性魔術は敵の魔力を奪い、死後に天性魔術を奪うことにある。
なら、奴が保有していたあの天性魔術《獅子の怒号》を保有している魔術師が居るはずだ。
それがダブラスの父親、マリオネット・オーガスだった。
「俺の天性魔術を知っているのか?」
「ああ。お前の父親も確かその天性魔術だったな」
「何故それを?」
「オレも同じ被害者だからだ」
ダブラスは驚いた表情でこちらを見る。
「なら、わかるだろ」
「ああ。オレは私立タレミア魔術学園一年生首席として全力で挑む」
両者共に構える。
そして同時に拳と拳がぶつかり合った。
その衝撃で結界中に吹く強風がオレとダブラスを中心とする強風へと一瞬変化する。
「くっ……!」
骨にヒビが入るほどの痛みがオレの腕に襲う。
やっぱり天性魔術の身体強化は基本魔術の身体強化よりも重さが全然違うな。
すると、オレはダブラスの蹴りに反応できずに飛ばされた。
「くそっ……!!」
天性魔術はこの世において決して同じ天性魔術が交わることが無いと言われている。
前対峙した『魔術師殺し』と同じ天性魔術を持つダブラスは名前が一致しているだけであって根本的な性質は違うと言える。
そしてこのダブラスの天性魔術《獅子の怒号》は明らかに『魔術師殺し』よりも身体強化が増幅されている。
オレはそのまま地面にぶつかり、転がりながらも体制を何とか整える。
「どうした、首席! お前はこの程度なのか……!!」
目の前にはすでにダブラスの拳が迫りこんでいた。
この程度、だって?
その程度で逆に倒せると思うなよ。
オレはダブラスの拳を首に傾げて避け、ダブラスの顔面を掴み、そのまま地面に激突させた。
オレはすぐにダブラスとの距離を開ける。
「痛ってえな……」
ダブラスは頭を抱えながら起き上がる。
ま、この程度ではそこまで効いてないわな。
「舐めるなよ。俺はいずれ父親を超える魔術師になるんだ。ここでくたばってたまるかよ」
「ああ。ここでくたばってくれちゃオレも困る。そうじゃないとオレも一対一受けた意味が無くなるからな」
すまない。
お前には「全力で挑む」と言ったがそれはあくまで身体能力だけの話だ。
オレの本当の本気を出してしまうとお前が死ぬのはわかっているからな。
それに他四人の現状も気になる。死んでなければいいけど、もしかしたらと考えると一対一どころじゃ無くなる。
本当はお前のすべてをぶつけて欲しい。だが、それはできない。
早く終わらせる。
「さあ、第二ラウンドと行こうか」
両者ともに再び動き出す。
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