0-43 零
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この世に魔力を持たない生物は存在しない。
新星暦二九九二年五月十日
ザノア・レミリス大森林にて大規模な火災が発生する。
それは森の四分の一が一瞬にして荒野と化し、とても自然発生でできるものではなかった。
フレイとアズバング、それに複数の魔術師が現場に到着する。
「君はどう見る、フレイ?」
「どう見ても魔物の仕業でしょ。多分、この森林を統べるサンペストドラゴンだと思う」
サンペストドラゴン。
ドラゴンの中でも名前の付くドラゴンは古くから恐れられた最強の最上位生物。
多分、この森の焼かれ方からして高位魔術《断崖の業火》。
私の《測量眼》がそれを物語っている。
「でも、なんでサンペストドラゴンが急に現れたんだろう。此処三〇〇年は目撃情報は報告されなかったのに」
「さあ。魔物なんてそんなものだろう。急に村を襲って壊滅したなんて事例はいくらでもある」
夫の言う通り。魔物は突然人を襲う。
私はこの荒野の中、生存者を探す。と言ってもここ一帯は人は住んでおらず、居たとしてもドラゴンの魔術で跡形も残らないだろう。
「フレイさん! 子供が! 子供が倒れてます!!」
「!!」
まさか人が居るとは思わなかった。ましてや子供なんて。
私はすぐに駆け寄る。
「信じられない……」
「ちょっと、見せて! ……!!」
驚愕した。
子供がまさか四肢をもがれることもなく、傷だけで済んでいるとは。
それに、子供の手には驚くことに少々の魔晶石があった。
「まさか……この子が……」
魔晶石は魔力が充満する鉱山か、魔物の心臓にしか生成しない。
ここ近くに豊富に採れる鉱山は無い。と、すればこの魔晶石は――――サンペストドラゴンの心臓。
ってそんなこと言ってる場合じゃない!
「今すぐ彼に治療魔術を!!」
「はい!」
この子がサンペストドラゴンを倒したと言うの? だとしたら、どうやって?
この子ぐらいの年齢だとちょうど自分の魔力が大幅に増幅する歳。でも、サンペストドラゴンを倒せるほどの魔力まで上昇するなんて聞いたことない。
ここで緊急事態発生。
「ダメです! 魔術が通じてる気配がありません!」
嘘……!
私はすぐさま《測量眼》で彼を見る。
「……!!」
驚くことに彼から一切の魔力痕が確認できなかった。
魔力痕は傷から当人と違う魔力が少々残っている状態なのに彼からそれを一切感じない。
それに人の魔力量を数字で捉える《測量眼》で彼から数字が一切出ていない。
「私の家で応急処置する。今すぐ私の家まで彼を運んで!!」
「わかりました!!」
後日、彼の名前がノア・ライトマンだとわかった。
そうか。君がゲノアが言っていたライトマン家の《忌み子》なんだね。
※※※※※
オレは最高位魔術《彼岸花》によって直撃した。
爆風が熱風へと変わり、爆発音が奴の結界全体に響く。
「思い知ったか、ノア・ライトマン! これがおれを侮辱した罪だ! 地獄で永遠に後悔するがいい!! ガアアハッハッハッハッハッハァァァ!!」
オレに最高位魔術が直撃した後、《彼岸花》の光線はすぐに止まった。
「嘘だろ……。嘘だと言ってくれ! ノア君!!」
ダンベルが声を荒げて叫ぶ。うるせえ。
奴はダンベルのもとに足を運ぶ。
「さて、次は貴様らの番だ。順番に確実に殺してやるよ」
「くそっ……!!」
すでに二人の魔術師は奴の結界内で魔力を取られ「魔力欠乏症」で気絶している。
ダンベルも魔力はまだ残っているが、『魔術師殺し』を倒せるほどの魔力と、体力は残っていない。
完全に詰んだ。
これによってザノア帝国は大幅な戦力下降により周辺諸国からあらゆる紛争が勃発するだろう。
全てこの得体のしれない化け物によって帝国が滅ぶことになった。
「死ね」
「くっそがああああああああ!!」
――――《死……》。
「があああああああああ!!」
何者かが奴の目を切った。
ダンベルが切ったわけじゃない。
「なぜ? なぜ生きてるんだ!!」
「……!!」
即死攻撃の光線を受けても倒れることなんてなかったんだ。
確実に当たった。それは当の本人がすでに分かっている。
でも、死ななかった。
「ノア・ライトマン!!」
オレが奴の目を切った。
「知らねえよ。ただ、お前を確実に殺す。それだけだ!!」
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魔力を一切を持たない、という《死点》であるならば、ある仮説が成立する。
――――天性魔術《零》
ノア・ライトマンはあらゆる異能の力が当たらない。
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