3 落とし前
「きゃぁ!」
「あたたたた。」
「あ・・・、ありがとうユーキ。」
俺はソフィアが地面に倒れる前にブーストで滑り込んだが、おかげで俺は下敷きだ。本人を目の前にしては口が裂けても言えないが、ソフィアも割と重い。俺の上から早く降りて、お願い。
「間に合って良かったぁ。ソフィア、大丈夫か?なぁ君たち、いくら何でも女の子に対してこれはひどく無いか?」
せっかく男前なセリフなのに、俺がつぶれたカエルのような態勢で言い放ったため焦点がボケまくっている。どうにも相手の頭に入って来なかったようだ。
「はぁ?何だよお前は。チビのくせして一丁前に鎧なんて着込みやがって、ナイト気取りか?」
「言いがかりはよしてもらいたい。僕たちは貴族相手に無礼な口を聞いたその女を罰しているだけだ。切り捨てられないだけでも感謝して欲しいものだなぁ。」
お前らのやり取りなんざ知らんが、少なくとも手を上げた奴の言い分はロクでもないことは確かだ。まったく、どういう育ち方すればこうなるのか。これが身分制社会というものなんだろうがひどいな。
「貴族の子弟なのかもしれんが、今の君らにまだ爵位なんて無いだろう?まして嫡男でなければ、それこそ平民みたいなもんじゃないか。わざわざ魔導学院に入るなんて、どうせ君ら次男以下なんだろう?もうやめようや、こんなつまらないこと。」
「おいクソチビ!土下座して今の言葉を取り消すなら見逃してやる。」
まぁ気位のお高いことで。そもそも土下座なんて発想がチンピラレベルなんだよ。恥ずかしくないのかねぇ。
「おいおい、周りの目だってあるんだからさぁ。ほら見てみなさいよ、周囲の人だかりを。君らの評判だって下がっちゃうよ。な?悪いことは言わない。ここは俺に免じてさぁ。」
「誰の顔に免じろだって?お前みたいなチビなんて知らないぞ。もう頭に来た、僕らに恥をかかせた事を後悔させてやる。」
するとすぐに貴族くずれのチンピラ君たちがせっせと詠唱を始めだした。詠唱完了までこちらが待つとでも思ってるのかねぇ。
「天より降り注ぐ大いなる・・・」
「そは深淵の闇より出たる・・・」
「高き頂きの凍てつく・・・」
「その灼熱は全てをなぎ払う波となりて・・・」
勇騎は生温かい目で彼らを見ていると、背後に殺気を感じて振り向いた。
マズい、魔力に気づいたハヤテがピリついている。まとめて食いちぎられてはいくら何でも言い逃れできないぞ。スタンバイのハンドサインを出しておこう。
勇騎は大げさな挙動を取り混ぜて、わざと衆目を集めて見せた。トラブルに巻き込まれた場合、目撃者は多ければ多いほど良い。
「ありゃりゃ、詠唱かい?こんなにも周りに人が集まっているのに?仕方ないなぁ、ほれっ。」
「うわぁぁあっ!」
「ひいぃぃっ!」
「どわっ!」
「んなあっ!」
軽い風魔術だったが思いのほかよく転がっていくのが見える。お前らちゃんとメシ食ってるのか?
「大丈夫かぁ?一応威力は弱めてあるからさぁ!ケガしてねぇかぁ?おーい。」
「くそっ!何をしやがったんだ、あのチビ。」
「痛てて。何だよ今の?」
「卑怯者めぇっ!不意打ちかっ。」
「おい、ヤバくないかあいつ?いま詠唱してなかったんじゃ・・・。」
お、そこ大事だよ。気が動転してても無詠唱ということに気づかないとね。つまりは実力差だ。
「こんなに人が集まってるのに魔術使っちゃ危ないよ。もう少し考えてもらわないと一般市民がケガするって。」
人だかりも往来で威力の大きい攻撃用の魔術を使おうとした学生たちに冷たい視線を投げかけている。下手をすれば多数のけが人が出てもおかしくはなかった。
「この野郎。こんな下々の面前で、俺たちに恥をかかせたなぁ!お前ら許さないぞ。」
「お前、何て名だ?隠したって無駄だぞ。ソフィアを拷問して聞き出してやるからなぁ。」
「物騒なこと言うなぁ。俺は相馬勇騎だ、逃げも隠れもしないから。」
「ソーマ?何か聞いたことあるな。うーん・・・、ユーキか?どこで聞いたんだっけ?」
さっきから頭に血がのぼってる奴らばかりだと思っていたが、どうやら状況を判断しようとしてる奴もいるようだな。冷静さは不十分だが、つるんでいる仲間が悪いんじゃないか?もうそんな奴らと付き合うのはやめとけ。
「どうしたバーンズ?何かひっかかるのか?」
「いやグテレス、思い出せないんだったらたいしたこと無いんだろう。気にしないでくれ。」
「あいつの名を聞いたし、貴族への侮辱と暴行で通報しに行こうぜ。」
「ソフィア、お前も終わりだよ。学院の外ではお前もただの平民なのだからな。生意気なお前にはお似合いの末路だ。」
「いい加減にしなさいよ。あんたたちがいくら私に嫌がらせしようとも、それで成長するわけじゃないのよ。いつまでも劣等感丸だしで恥ずかしく無いの?それが名誉を大切にする貴族ですって?笑わせないで!」
「くっ、言わせておけば・・・。」
先ほどソフィアに暴力を振るったサイナスがソフィアの言葉に色をなして反応した。どうやらコイツは自分の怒りをうまくコントロールできないらしい。こんなのが所領を受け継いだら領民はさぞ大変だろうなぁ。
また手を出したら今度はタダじゃおかないとばかりに勇騎が前に出ると、狼藉者のサイナスは小さい騎士を前にして一瞬怯んだ。自分より強い者には手を出せない小心者の典型のような男だった。
「おい、サイナス。もう行こうぜ。どの道あいつらは終わりなんだからな。」
「そうだな、シュタイン。おいソフィア、必ずお前の家族も連座させてやるから楽しみに待ってろ!」
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