第八話 リリアン、王立寄宿学校への入学を勧められる
お読みいただいている方、ブクマや評価くださった奇特な皆さま、感謝です!!
今回は制作一時間半です。
そして、ようやく明らかになる、この作品の壮大なメインテーマ(笑)
スクールカースト VS ドラゴン!! (大爆笑)
「・・・・・・おにいさま、リリアン、参りました。お部屋に入って宜しいですか?」
小鳥のさえずりのような「妹」の声が、扉の向こうから入室の許可を求める。
アニトニオは、感無量で、じーんと身を震わせた。
・・・・・今まではノックどころか、扉を斧で破壊して、妹は入室してきた。
いや、兄の自分を家臣のように呼びつけ、控えさせたまま、堂々と食事をしたりしていたのだ。
それに比べれば、新生妹のリリアン姫と旧型妹は、金と錆鉄の斧ほどの差があった。
たとえそれがドラゴンが化けた妹であり、隠しきれない二本の尾っぽが、時々ドレスのスカートの裾からぴょこんとのぞくとしてもだ。
しかも性格にふさわしい地獄のガマガエルのようだった前の妹と違い、新しい妹のほうは花のように可憐な容姿だ。部屋に足を踏み入れるだけで、あたりに甘い爽やかな香りが漂うのだ。
エルモア領で子供達がむりやり歌わされている、リリアン姫を称えるでたらめな歌は、今や嘘から出た真となった。いうまでもなく、その嘘八百の歌を真実と勘違いしたドラゴンのリリアンが、リリアン姫に化ける際、歌と似顔絵どおり「忠実」にリリアン姫の姿を再現したためである。
その寄せっぷりは見事の一言に尽き、おかげでリリアンはしわ寄せにより、ドラゴンとしての能力のほとんどを喪失してしまっているほどだった。
「はいりたまえ。おおっ、そのドレスよく似合っているぞ。やはり美少女はなにを着ても似合うな」
無事だったドレスを侍女に着せてもらい、ドレスアップしたリリアンは、見た目だけは生まれつきの貴族の令嬢に見えた。
「・・・・・尊敬するおにいさまに褒めていただき、とても嬉しく思います。こんな綺麗な服、私着るのははじめてです!!」
すっかり兄に心服し、またお洒落出来る喜びを隠そうともせず、目をきらきらさせて頬を染め、リリアンはドレスの裾をさばいて、くるくると回る。
アニトニオは満足げにうなずいた。美少女とスカートが華のように開く取り合わせは、たいへん彼の美的感覚にかなっていた。
まして、いま、長年心を悩ませていた苦しみから解放された彼は、すべてを許せる寛大な気分に浸っていた。
むろん血を分けた妹が死んだのに悲しまないことに、罪悪感を覚えるだけの人間性はある。
だが、妹リリアンにこれまで受けた仕打ちを思い出すと、やはり喜びのほうが勝ってしまうのだ。
さすがに悪魔の妹といえど、癇癪を起しても、兄の自分そのものに斬りかからないだけの慎みはあったが、当てつけでアニトニオと親しい家来を殺そうとするなどざらだったのだ。
今、アニトニオは久しく忘れていた、自室でくつろぐという安らぎを得ていた。
領主邸にあったアニトニオの部屋は、リリアンの激突の余波で、屋根がふっとんで空が丸見えだ。
壁が残っただけでも奇跡だった。
それだけではなく、お湯の飛沫が、いまだ間欠泉のように噴き上がる湯柱から大量に降ってくるが、傘をさして応対する。そんな悲惨な部屋でも、今のアニトニオには天国に等しいのだ。
奇跡的に家来たちは皆無事だ。ならば城が半壊しても構わないではないか。
あの悪魔妹が生きていたなら、言い掛かりをつけて家臣の何人かは犠牲になったろうから。
アニトニオはそう考えていた。
考えようによっては、ドラゴンのリリアンが偶然にも元凶を殺してくれたおかげで、無数の無辜の民の命が救われたともいえるのだ。
「・・・・・あの、申し訳ありません。ご迷惑ばかりおかけして。私、及ばないかもしれませんが、リリアン姫さまの代わりが務まるよう、一生懸命頑張ります!! だから、どうかここから追い出さないでください」
お湯びたしの惨状をあらためて確認し、ドレスをもらった浮かれ気分もたちまち霧散し、身を小さくし、リリアンが泣きそうな顔で頼み込む。
彼女はいまだリリアン姫が人格者だったと勘違いしたままである。
いろいろ都合がいいので、アニトニオはそこを訂正せず、ずぶ濡れになっているリリアンに、そっと自分の傘をさしかけた。どうやら、このドラゴンは自分の妹と違い、まともな感性をもっていることに、あらためて感心したのだ。
そして、それこそがアニトニオが今、もっとも欲しているものだった。
「馬鹿な心配をするな。かわいい妹を追い出すわけがないだろう。一度いていいと口にした以上、俺は約束を守る。ほら、わざわざ濡れる必要はないから、ちゃんと傘の中に入っておいで」
最初はお人好しのドラゴンをうまく利用するつもりだったが、基本根が優しいアニトニオは、少なからず兄の役割に感情移入して、リリアンをさとした。むろん、それだけではなく、彼にはある企みがあり、それにリリアンを利用するため引き込んだのだが、彼は自分がリリアンとうまがあうことを自覚せざるをえなかった。
「・・・・・・おにいさま!! リリアンは幸せものです!! 」
童話等を聞きかじり、人間のふれあいに憧れていたリリアンも、すっかり妹になりきり、歓びに身を震わせるのだった。
「・・・・・ときにリリアン。おまえは、学校の生徒同士に序列をつけるということをどう思う? 上位のグループが、剣術や魔術のできない下位のグループを侮り、奴隷のように扱うという風潮だ。スクールカーストという奴だな。正直に答えてほしい」
歌や踊りや詩など、人間の文化が大好きな、この気のいいリリアンと、アニトニオは腹をわって話す気になった。情けない雰囲気がなりをひそめ、別人のように理知的な光が目にきらめく。
突然別人のように格好よくなったアニトニオに若干どぎまぎしながら、リリアンは正直に答えた。
「・・・・・私は、誰が上で誰が下と決めつけるのは、正直好きではありません」
それでは力自慢でマチズムのドラゴン達とちっとも変らない。
「剣術や魔術よりも、私は人間の文化が大好きです。歌も、詩も、踊りも、彫刻や絵も!! 強さだけを求めるドラゴンと違い、勝敗をつけるためでなく、心を豊かにする技をたくさん持っている人間はすばらしいと思います。私は強いだけの人より、誰かを幸福にする力をもった人と、お友達になりたいです」
「うむ。やはりおまえは俺の妹にふさわしい」
アニトニオは我が意をえたかのように頷いた。
それこそが、まさにアニトニオが聞きたい答えだった。
すっかり生まれながらの兄妹のように打ち解けた二人と違い、あとから入ってきた城代と執事は険しい顔をしていた。二人はアニトニオがこれからリリアンに語ろうとする提案を、あらかじめ先に聞かされていたのだ。
「・・・・おそれながらアニトニオさま、リリアン・・・・さまを王立寄宿学校に、中途編入させたいと言うことですが、申しあげにくいことながら、かなり難しいかと思われます」
王立寄宿学校は、四代前の王の肝入りで設立された、貴族の子弟の教育機関である。
ただ、もうすでに王立寄宿学校の入学時期は過ぎている。
中途で編入もできるが、その場合、入学試験より高い学力が求められる。
人間に成り立てのリリアンではとても合格する代物ではない。
なお人間のリリアン姫は、入学試験の日には、化粧ののりが悪いというふざけた理由で、登校せず、みごとに不合格になっている。
「リリアンなら心配いらない。忘れたのか。生徒会長と生徒会顧問教諭の推薦状さえあれば、編入試験は免除だ。これでも俺はくさっても生徒会の一員だからな。二人に頼んでみる。それに第一王子・・・会長もリリアンのことを気に入るだろうさ。あのくそったれのスクールカーストをぶち壊し、在りし日の誇り高い寄宿学校を取り戻すのが、会長はじめ俺達生徒会の悲願だからな」
話についていけず、きょとんとしているリリアンに、アニトニオは笑いかけた。
「・・・・・我が妹殿には、学校に行って、いろんな奴と友達になってほしいということさ。歌のうまい奴、絵の上手な奴、料理にすぐれた奴。スクールカーストなんぞにこだわらなきゃ、うちの学校にはなかなか面白い奴がそろってる。・・・・・どうだ? 人間の文化ってやつに直にふれてみないか」
「・・・・いきます!! 学校に是非行かせてください!!」
ぱあっと顔を明るくし、リリアンは頼み込んだ。
不安げに顔を見合わせる城代と執事。
こうして、群れて上下関係をつくる人間の習性にとらわれない、一匹のドラゴンが、スクールカーストうずまく学園にとびこむことになった。
そして彼女の編入は、王立寄宿学校に大きな風穴をあけ、すべての生徒を変革の嵐に巻き込んでいくことになるのだった。
むちゃくちゃな作品をお読みいただき、ありがとうございます!
明日以降は、停電でしばらく音信不通になるかもしれません(泣)




