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13. レモンとクッキー
いつからだっただろう。彼女の朝のコーヒーは、冷たいレモン水に変わっていた。
マグカップを手に、床まで届く大きな窓のそばに立ちながら、彼女はふと隣の家の庭へと目を向ける。
以前住んでいた家の隣人は、庭師だった。
その人の庭には何本かのレモンの木と、彼女には名前の分からない花や草が、たくさん植えられていた。
あの頃は、時折、庭師から採れたてのレモンが届いた。
何度かもらううちに、さすがに申し訳なくなって、暇つぶしに焼いていた小さなクッキーをお返しに渡すようになった。
庭師のおかげで、彼女のクッキーを焼く腕も、すっかり上達した。
新しい家へ引っ越してからも、彼女は変わらずクッキーを焼き、買い物のときにはレモンを何個か多めに買うようになった。
それは、もう習慣になっているのかもしれない。
あるいは、彼女が認めたくないだけの、ささやかな恋しさなのかもしれなかった。
彼女はレモン水をそっと口に含み、静かに息を吐いた。
けれど、ふと気づく。
彼女は、あの庭師が少し恋しくなっていた。
――ただ、ほんの少しだけ。




