11.川辺の景色
彼女はスケッチブックを抱え、夕日に赤く染まった川辺を歩いていた。
ここしばらく、どうにもインスピレーションが湧かなかった。というより、どうにも絵を描く気になれない。ちょうど天気のいい時間帯だったので、少し辺りを歩いてみれば気分も変わるかもしれないと思った。
晩秋の少し冷たい風には、ほのかな草の香りが混じっていた。彼女は何度か深く息を吸い込み、今日はいつもより空気が澄んでいる気がする――と感じた。もしかすると、ただの気のせいかもしれない。
彼女が一番南側にあるベンチの並ぶ一角まで歩いてきたところで、空いているベンチを探して座ろうとした。そのとき、川岸に最も近い木製のベンチに座る、すらりとした人影に気づいた。
茶色の短髪の青年は、夢中になって本を読んでいた。時折、手にしたコーヒーを一口飲み、顔を上げて川辺を眺めていた。
もしかすると、彼女の視線があまりにも目立っていたのだろう。
青年がふいに振り向き、彼女のほうを見た。
彼は礼儀正しく微笑むと、再び視線を本へと戻した。
――これだ!!
彼女は勢いよく家へと駆け戻った。
傍らに散らばっていた画材を手に取り、先ほど目にした美しい景色を一心に描き始める。
楓の木、川辺、夕日、そしてベンチで本を読む青年。
鐘楼の鐘が鳴り響き、最後に残っていた赤い夕日が消えていく。
彼女は傍らのフロアランプを灯し、完成したばかりの絵を満足そうに眺めた。
うん……絵は無事に完成したけれど。
この景色を描くことになった経緯を、教授に説明するのだけは、どうにも気が進まなかった。




