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物語ノ余白  作者: 丹夢
誰かの物語
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11/40

11.川辺の景色

 彼女はスケッチブックを抱え、夕日に赤く染まった川辺を歩いていた。

 ここしばらく、どうにもインスピレーションが湧かなかった。というより、どうにも絵を描く気になれない。ちょうど天気のいい時間帯だったので、少し辺りを歩いてみれば気分も変わるかもしれないと思った。

 晩秋の少し冷たい風には、ほのかな草の香りが混じっていた。彼女は何度か深く息を吸い込み、今日はいつもより空気が澄んでいる気がする――と感じた。もしかすると、ただの気のせいかもしれない。

 彼女が一番南側にあるベンチの並ぶ一角まで歩いてきたところで、空いているベンチを探して座ろうとした。そのとき、川岸に最も近い木製のベンチに座る、すらりとした人影に気づいた。

 茶色の短髪の青年は、夢中になって本を読んでいた。時折、手にしたコーヒーを一口飲み、顔を上げて川辺を眺めていた。

 もしかすると、彼女の視線があまりにも目立っていたのだろう。

 青年がふいに振り向き、彼女のほうを見た。

 彼は礼儀正しく微笑むと、再び視線を本へと戻した。

 ――これだ!!

 彼女は勢いよく家へと駆け戻った。

 傍らに散らばっていた画材を手に取り、先ほど目にした美しい景色を一心に描き始める。

 楓の木、川辺、夕日、そしてベンチで本を読む青年。

 鐘楼の鐘が鳴り響き、最後に残っていた赤い夕日が消えていく。

 彼女は傍らのフロアランプを灯し、完成したばかりの絵を満足そうに眺めた。

 うん……絵は無事に完成したけれど。

 この景色を描くことになった経緯を、教授に説明するのだけは、どうにも気が進まなかった。


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