2 01
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「…ちゃん…ナちゃん!⋯目を覚まして、レナちゃん」
誰かに呼ばれる声を聞いて、レナはゆっくりと目を覚ました。
長い長い夢を見ていたようで、頭がぼんやりする。
「あぁ、良かった。気がついたのね」
「…夢を見ていたみたい。わたしね、野生機械に乗って空を飛ぶの……あっ」
そこまで言って、ふとここがベッドではないことに気付く。手に触れるサラサラとした砂の感触。強烈な太陽と影のコントラスト。乾燥した空気で喉がヒリヒリと痛む。
そこは、砂漠だった。一面の砂と雲ひとつ無い真っ青な空。そして、さっきからレナの名前を呼び続けていた声の主は
「…ドロボウさん…じゃなくて、怪盗さんのルリエお姉ちゃん?」「ティーエよ。南国色の怪盗団のティーエ。この格好の時はそう呼んでちょうだい。そんな事より大丈夫?どこか痛いところはない?」
心配そうにレナの顔を覗き込む。
「うん、大丈夫みたい」
答えて起き上がる。まだ少し頭がぼーっとしているが、怪我は無いようだ。
ルリエは安堵の息をつく。
「偉いわ、サウス。よくこの子を守ってくれたわね」
トンボ型野生機械であるサウスの胴を撫でた。
しかし、サウスは羽を怪我したようで、目を回している。その様子に気づいたレナは、サウスをそっと撫でながら
「ごめんね。わたしが変なお願いしたから…本当にごめんね」と涙
を流した。
「大丈夫よ。サウスなら、これくらいの怪我は数日で完治するわ。野生機械は強いんだから」
そういってティーエはレナを元気付ける。『…悔しいけど、サウスがこの子の言葉を聞こうとしたのも仕方ないか。こんなに良い子なんだものね』ティーエはレナの様子を見つめながらそう思い、そして口を開く
「なんたって、姫のお気に入りだもんね。って!えぇ!?姫が居ない!!」
いつもは真っ先に飛んできてティーエの肩を占拠するオウムの姿は無い。「そういえば、あなたの小さなお友達も姿が見えないようだけど…」「えっ、ピルルちゃん?どこいったのー!」
どうやら、二人とははぐれてしまったようだ。
「探しに行かないと」
「でも、この子は…」
レナが心配そうにぐったりしているサウスを見る。
「あたしが担いでいく」
ティーエは言うが早いか、サウスを背負って歩き出す。確信は無いが、サウスの着地跡と、太陽の位置から察するに、それほど蛇行して飛んではいない様に思える。
「あ、わたしもお手伝いします」
レナは微力ながら、引きずられているトンボの尻尾を抱え上げてティーエと一緒に歩き出した。
ラクダに乗って、スカーレット・ジェムを持ち去った少女を乗せた野生機械:サウスが飛び去った方角へ進む姉弟。
姉の後ろでラクダに揺られるルイセの肩に1羽の小鳥が止まった。「こんにちは、小鳥さん」小鳥に笑顔を向ける少年。
「女の子を乗せた野性機械が飛んでいくのを見なかった?」
当たり前の出来事のように、小鳥に問いかける。
チチチッと小鳥が囀って少年の周りをくるくると舞う。
「そう、ありがとう」
笑顔で礼を述べると、小鳥は嬉しそうに飛び立っていった。そんな様子を姉は複雑な表情で見つめる。「姉さん、あっちだって」「そう」メイナは満面の笑顔を向ける少年から視線をそらして、少年の指差す方角へラクダの首を向けた。
「全く、なんで…こんなことに…なってる…のよ!」
歩きながら、ブツブツと熱く熱せられた砂に向って文句をつけるティーエ。
「スコールも…なにやってるのよ!あたしを…置いて…行くことないじゃない!!あー、もぉ暑い!砂がジャリジャリする!お肌が乾燥する!!」
ティーエの勢いは止まらない。レナは黙って後をついて行く。話しかけようにも、そんな雰囲気じゃない。
「遭難するならもっと小川沿いの草原とかさ、あるじゃない!…それはそれで藪蚊が多くてイヤだけど…。でも砂漠はないじゃない。こんなに広くちゃ本当にこっちで合ってるかも解らないし!それに…」不意にティエーが黙る。
「あの…」
色々と聞きたいこともあったので、レナはティーエに声をかけるが
「しっ、静かに」
と真面目なトーンで制される。
「え!?」
「しゃべると喉が渇くわよ。あたしみたいに」
「あ、はい…」
セーツィ号から奪ったコンテナの運搬を終えたスコールは、人里離れた南風伯の隠れ家から小粋なピックアップバンの蒸気自動車を走らせる。
向かうは街道沿いの小さな集落。何かあったときは、そこの酒場が今回の集合場所になっている。
夕刻の食事時にはまだ早い時間。酒場の隅のテーブルで酔っ払ったおっちゃん3人と賭けポーカーに興じるスコール。
「かーっ、また負けたーー」
「へっへー悪いねぇ」
「あんちゃん弱いのぉ」
「まだ続けるんかいの?」
「もちろんだ。幸運のジャックさえ来りゃ今までの負け分なんて…」
「ほいほいっ。カードを配るぞい」
「あんちゃん、チェンジはするかの?」
「あぁ…4枚…」
「ふはは、こりゃキビシイのぉ」
と、ここで、店内で流れていたラジオが臨時ニュースを告げる。内容はもちろんセーツィ号。
『待ってましたっと。俺の活躍をカッコよく伝えてくれよ。にひひひ』
しかし、スコールの期待は外れて、女の子が一人南国色の怪盗団に誘拐された。と報じられる。何人もの乗客がティーエと思われる女性に女の子が連れ去られるのを目撃しているという。『なんだってーー!』思わずカードを落とすスコール。カードは裏を向けてテーブルにパサリと落ちる。
「なんだ、あんちゃん降りるんかい?」
「んぁ…」
心ここに在らず。生返事を返して考え込むスコール。
『南国色の怪盗団が誘拐?冗談だろ?』
「へっへー、俺の勝ちだな」
「悪い、急用を思い出しちまったんだ。またな、おっちゃん」
「おおよ、また儲けさせてくれや。わっはっは」
「どれ、あんちゃんの手札はどんなだったんかいの」
「うげ、この手で降りるなんざ何考えてるんだ!?スペードのストレートフラッシュじゃないか…」「んあぁっ!?…幸運のジャック来てたのかよ」
スコールはテーブルを離れ、カウンターへ。バーテンに断って電話を借りると、交換を通してラーゼリート市のウェッツラー劇場に繋ぎ、大道具のジーンを呼び出す。「おやっさん、ルリエから連絡はあったかい?」
「いんや、まだ無いね。ラジオ聞いたが、いったいどうなっとるんだ?」
「俺にもわかんねっ。ともかく、俺ぁセーツィ号に戻って情報を集めてくらぁ」
「わかった。私はここで待機しとるよ」
「あー。そだ、おやっさん。このまま連絡が無かったら探しに行かにゃならんかもしれん。念のため、アレの準備をお願いしていいっスかね」
「おう、まかせとけ」
「劇団のマーキングは…」
「解っとるよ。しっかり消しとくわい」
電話を切るとバーテンに礼を告げ、チップを置いて店を出る。
そのまま愛車に飛び乗って急発進。
「まったく、どうなってやがるんだ?面倒なことになってなきゃいいが。いや、十分面倒事になってんな」
はやる気持ちを悪態をで誤魔化しながら、まずは情報を集めるため、セーツィ号を目指した。




