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自由への道

「此処から出る」


早苗さんはそう言うと窓枠に足を掛けた。

予測不能なリスクを冒そうとする彼女を慌てて止めに入る。


「いいからおいで」

「ダメだよ、」


個室から出て来たトイレ利用者は不思議そうな顔で私達の事を見ている。

外にいる高橋の事を考えると騒ぐわけにもいかず、私は渋りながらも早苗さんに続いてバケツの上に乗り窓から外に出た。


建物の外壁と柵に挟まれながら砂利が敷き詰められた通路にそっと足を乗せ、なるべく音を立てないように私達は歩いた。

建物の角に突き当たると、早苗さんはチラリと顔を出して様子を伺った。


「やった、駐車場よ」

そう言うと早苗さんは体勢を低くして歩き出し、私も慌てて彼女について行くと、そこは私達の乗ってきた車を停めた砂利の広場だった。

私は高橋がいる建物の表の方をチラチラと見ながら歩いた。建物の物陰からあいつが出て来るのではないか、と考える気が気でない。

ここまで来てまだ私は乗り気では無く、すっきりしないような嫌な騒つきが胸をモヤモヤさせる。

そんな私の心情を煽るかのように不定期に聞こえる花火の轟音が不快な鼓動を助長させていた。


車まで辿り着くとドアを開けて車内に乗り込み、早苗さんはエンジンを掛けた。

車は砂利をすり潰すようにタイヤを転がしながらゆっくりと動き出しす。

呆気なくここまで達成できた事が信じられず、私は胸に手を当てる。



…本当に、ここから出れるの…?


疑いながらも、見えて来た希望に現実味が帯びて来る感覚がじわじわと胸に広がる。



高橋から距離を取る為に、建物から駐車スペースを3区画ほどの離れた通路を通ると、前屈みで隠れていた私は顔を上げて建物の方を見た。

そこには駐車している車の合間からコチラを見る高橋の姿が見え、ベンチから立ち上がって呆然としながら私達の車を目で追っている。


早苗さんの運転する車は大通りに出るとスピードを上げて道の駅から離れた。





「……はあぁぁ」


私の吐いた息は震えていた。


「やったぁ、嘘みたい、良かった…」

私がそう呟くと、早苗さんはやったわねっと一緒に喜んだ。


この数日間生きた心地がせず、ずっと崖の側に立たされているような気分だった。

いつ足元が崩れてもおかしく無いような不安定な場所でずっと、1人で耐えてきた。

それから解放される。


もう、大丈夫なんだ。


車は進み、道の駅から離れる程に私の上に積まれた重りが軽減していくのを感じた。

遠くまで逃げて、そしたら早苗さんにあの施設の秘密を話して、その後一緒に警察署に行く、あいつの行いを白日の元に晒すのだ。


カエルや虫のけたたましい鳴き声と背後で鳴り響く花火の音を聞きながら、私は重力を失ったかのような開放感に包まれていた。


早苗さんの運転する車は街灯がなく暗くて道幅の狭い農道を走って行く。

車のライトの届かない箇所は真っ暗でほとんど何も見えなかったが、周辺は田んぼに囲まれている事が暗闇に浮かび上がる稲穂の黒い影で分かった。


後方に車が1台、ベッドライトが徐々に私達の車に近付き私は一瞬ドキッとする。

その車は黒色をしていて高橋ではなさそうだった。

今日は夏祭りだから他に車が通るのはおかしな事ではない。


「後でお叱りの電話が来ちゃうかもね、そしたらボケたふりでもしようかしら」

早苗さんも気にする様子は無く、いつもの明るい性格から成す笑声で言った。

すると、後方を走っていた車が突然速度を上げて私達の乗っているクルマを追い越そうと横に並んだ。

その車の窓ガラスは真っ黒で中の様子を伺う事が出来ない。


「きゃーっ何!?」


早苗さんはいきなり大きな声を出すとハンドルを左側に切った。

追い越そうとした黒い車が幅寄せをして来て、その後私達の車の前に行く手を阻むように横向きに割り込んできたのだ。


早苗さんは悲鳴を上げてブレーキを踏み、お互いの車が止まると相手の車から黒いスーツを着た男が4人降りてきた。

男達は私と早苗さんの乗る車に近付き、取り囲うように配置すると足を止める。


一瞬の出来事で訳が分からず、何?何?と言いながら私と早苗さんは体を寄せ合って怯えていると、男の1人が指に金具を装着し、運転席のサイドガラスを無言で殴り始める。


「きゃー!」

「いやー、やめてー!」

激しく揺れる車内で私達は悲鳴を上げながら頭を伏せた。


すると後方からもう一台車が現れ、停車する。


異様な状況に理解が追いつかず、漠然とした恐怖が身を包む。

私は早苗さんの背中をぎゅっと掴み、彼女もまた私の背後に回した手に力を込めた。


ガンガンと強化ガラスを殴る音が響く中、早苗さんを抱えた腕の隙間から外の様子が目に入る。


そこには暗闇の中、咥えたタバコに火を付ける高橋の顔が赤く浮かんでいた。


サイドガラスが破られ、ドアロックを解除すると男達は車内に体を乗り込ませ私と早苗さんを引き離した。


「きゃー!何するの!やめて!」


私達は必死に声を上げながら手と足をジタバタさせて抵抗するが、力のない小さな子供のように簡単に抱えられてしまう。


異様な修羅場にも関わらずその間も高橋はズボンのポケットに片手を突っ込み、タバコを蒸しながら無表情で私達を見ている。


「娘は()()だから連れて帰る、ババアと車は処分しろ」


高橋がそう指示をすると、私は大きく開いた目を彼に向ける。

高橋はニコリと笑って首を傾げ、トボけたような仕草を見せた。


「…いや、やめて、お願い」

叫ぼうとしたがハンカチで口を塞がれ声を出せなくなる。

強い力で押さえ付けられた顔は動かす事が出来ず、目だけを捻ると早苗さんは頭に黒い袋を被せられ車に押し込められてしまう。



早苗さん!早苗さん!ダメ!ダメ!やだ!やだ!


必死に声を出そうと暴れ踠くが屈強な男の腕の中では微動程度しかできない。


早苗さん!早苗さん!

心の中で叫び、暴れる


しかし、ハンカチに染み込んだ薬剤が私の意識を遠のかせてき、激昂した気持ちとは裏腹に視界がぼやけ、私は涙を流しながら目を閉じた。

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