ランティスとの決別、過去の清算2 (★★★★★)
「なんだと!?」
「俺が望むのは和平だ。どちらが下どちらが上でもない。我が故郷と民が侵されることなくこの世界で共存する道だ」
ランティスは激昂した。怒りに任せて剣を振り、捲し立てる。
「ふざけるな! 下等生物が何をぬかす!? ……酷い目に遭わせないとわからないみたいだな? 従わなければ竜人族は皆殺しだ!! ……軍備はもう少しで整う。全軍で攻め入り土地を奪ってやる! ……そうすればこの功績を認められた俺には騎士団長および国家執務の席が与えられる。ヘスティア王国を世界最強の軍事国家に発展させ、全て民族を俺の元に跪かせてやるのだ!」
なんて恐ろしいい野望だ。こいつは国家権力にも手を出そうとしていたのか。言葉の端々に落胆し、戦慄する。
「なんだよ。そんな目をして俺を見るな。……お前の目は気味が悪いいんだよ。今はどうしょうもなくお前に腹が立つ。……おい!」
ランティスの合図を聞いた騎士達が複数がかりでわたし達を羽交い締めしてきた。
ねっとりとまとわりつく視線をわたしに向ける。
「……まずはお前からだ。……今からこの女に恥ずかしい罰を与え、最後はズタズタにしてやる。飼い主の俺がきっちりケジメをつけるからな!」
ここで遊んでいる暇はない。
騎士がわたしの腕をねじ伏せようとする前に相手の急所に蹴りを入れる。怯んだ隙に腕を取って投げ飛ばした。何人かの兵士が巻き添えをくらいバタバタと倒れていく。
ベルファレスの方はそもそも人間の力で制圧するのが不可能で、腕を掴まれてもびくともしない。押し潰そうと押し寄せた騎士を一気に吹き飛ばし、壁にぶつけて再起不能にさせた。
「はっ……」
ランティスは周囲を見渡すが、立ち向かえる騎士も兵士も誰も居なかった。床に伏してうずくまっているか、意識を失ってのびているかのいずれかだった。
剣を構えるランティスの前に、わたしを守ろうとベルファレスが立ち塞がった。
「ベル、わたしに決着をつけさせてくれ。ひとつ頼みが……」
ベルファレスに耳打ちして、今度はわたしが前に進み出る。
「わたしが相手をしよう。わたしが勝ったら、ここをどいてもらう」
「……いいだろう。だが、お前の実力では勝敗は明白だ」
口元を吊り上げ自信たっぷりに嘲笑するランティスと距離を取り、向けて剣を構えた。
わたしにとってランティスは剣技の師匠だ。確かにわたしは数えるくらいしか、彼に勝っていない。実力を見破られないようにわたしには本気を出してこなかった可能性もある。ランティスの実力は未知数。長期戦になればわたしの体力が先に消耗して負ける。ここは早期にかたをつけるしかない。
お互いに対峙して早々、先制をしかけてきたのはランティスだった。剣を構え突進してくる。
わたしは視線でベルファレスに合図を送ると、足元でババンと爆発音がし、煙幕が上がった。
ランティスがこちらに向かってくるタイミングで冥界の石を砕いた粒を投げてもらったのだ。
小粒でも大した威力だ。床に落ちた衝撃で弾け、風が巻き起こる。
まさかの小道具の発動にランティスは怯んで動きを止めた。
「くそっ、こざかしい真似を!」
瓦礫が散乱する床に撒いたため、砂と土埃が舞い上がり、ランティスの視界を遮る。
「やぁーーーーっ!!」
わたしはランティスの影を目掛け、煙幕の中に切り込んだ。
キィンッと金属がぶつかる音と共に、ランティスに渾身の一撃を止められた。
「子供騙しもいいことだ。これで俺の隙を狙えると思ったのか? 馬鹿め!」
ギリギリと剣を合わせた後、距離を取り互いに睨み合う。
すっかり土煙は消え去り、足元には砂利だけが残った。
「はっ!」
今度はわたしの方から先手を打つ。軽やかな剣裁きを繰り出す。ランティスはそれをすべて受け、時にはかわして反撃に変えた。
「軽いな。その剣では俺に通用しないぞ」
ランティスの剣の動きが早くなる。
わたしの攻撃をかわしながら繰り出される剣の軌道が顔や肩口を狙う。空気をも切り裂く鋭さで、ギリギリでかわしても、頬が切れ血が滲んだ。
「どうした? 弱いな? ……怖じ気付いたか?」
ランティスは自信を高める一方。
だが、これでいい。わたしはランティスから距離を取り、おずおずと頬の血を拭う……仕草をする。
「……可哀想になぁ。俺だってお前を酷いことをするのは気がひける。そろそろ終わりにしよう。それが優しさってやつだ」
ランティスが剣を振りかぶり、前進してきたその時。
好機が訪れた。
一撃を繰り出す時、一瞬の隙が生まれる。ランティスが自惚れれば自惚れるほど、隙は顕著になった。
見切った!
走り出し、砂利で足元を滑らせながら身体を反らす。真上から振り下ろされる剣を交わし、ランティスの足元を狙って、剣を真横に薙いだ。確かな手応えを感じた。
「ぐっ……」
ランティスとすれ違い振り返ると、奴は脚から崩れ落ちた。今度はランティスの肩口めがけて剣を突き刺した。
どれも致命傷には至らない程度だが、剣は握れない。これで戦闘不能だ。
「ぐがっ……」
ランティスは自らの剣を放り出し、顔面から床に突っ伏した。
わたしは剣についた血を振り払い、鞘におさめた。
「……くっ、殺せ……」
ランティスが視線を合わせず無気力な声で言った。
この国の感覚では、騎士は闘い抜いて生き残るか、戦死こそが名誉とされていた。怪我して敵に情けをかけられ生き残ることは屈辱的なことだった。
今思えば馬鹿馬鹿しいが、かつての自分を思い出し、幾ばくかランティスの心情には共感でき流ものがあった。
大見得きって集めた国王軍の出番なく、侵略戦争の出鼻は挫かれ、治癒しても以前のように剣は振るえない再起不能の怪我を負った。
この状況で生き残ることは、騎士として辱め以外のなにものでもない。
「断る。わたしの剣をこれ以上穢れた血で汚したくない」
頼みをあっさり断ると、脱け殻のようだったランティスが唸り声を上げて顔を泣き濡らしていた。
見るに耐えない情けない姿だ。
彼に憧れていた過去の自分が恥ずかしい。下等生物はランティスの方だった。
下等生物以下の高慢な男を切り捨て、わたしは自分の過去と決別した。
回廊にはわたし達の行く手を阻む者は居なくなり、瓦礫と倒れている兵士が居るのみだった。
元々は大勢いたはずが、倒れている者以外は逃げ失せていた。
「行こう」
「ああ」
ベルファレスに促され、王宮に入る。
目指すはヘスティア国王の玉座。




