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出発前、仲直り (☆☆)

 向かった先は誓約の儀式をした洞窟だった。

 ベルファレスは大穴の前であぐらを組み、ひとり瞑想に耽っていた。

 

 ひんやりとしているせいで、ピリピリと張りつめた空気感だった。

 

「何をやっているんだ?」

 

 同行してくれたハティに耳打ちした。

 

「精神統一です。麓のヨークシュアはわずかに冥界のエネルギーが行き届く場所ですが、力が尽きないようにエネルギーを供給しているのです」

 

 わたしたちの声など聞こえないようで、ベルファレスはピクリとも動かず瞑想を続けている。

 

 声をかけるのをためらっていると、「あの背中は声をかけて欲しいようですよ」と言い残し、ハティは洞窟から立ち去ってしまう。

 

 

 ひとり残されたわたしは、しばらく瞑想に耽けるベルファレスの背中を眺め、口を開いては閉じるを繰り返していた。


 次こそ声をかけよう、そう思った時、

 

「おい、何の用だ?」

 

 ベルファレスが小さな声を発した。

 

「料理を持ってきた」

 

 そう声をかけてもベルファレスは背中を向けたまま動く気配を見せなかった。

 

「……ベルのために」

 

 こう付け足すと、ベルファレスはくるりと振り返った。

 その顔は強ばっている。素直に喜びたくても喜べない。必死に表情を殺そうと堪えていた顔だった。

 

 いったん洞窟の外に出て、ハティが持たせてくれた絨毯を広げる。その上で食事を取ることにした。

 

 リグに作った料理の他に、果実や木の実なども用意した。

 

 ひととおり料理を並べても、いざ会食とはならなかった。

 何もしない無言の間が過ぎ、互いに顔を見ることなく、向かい合って料理をしばらく眺めていた。

 

 その間に耐えられず、わたしの方から口を開いた。

 

「怒って……いるんだろう? ……昨日はすまなかった。ベルを傷つけるつもりじゃなかったんだ」

 

 下を向いていたベルファレスがふっとこちらに顔を向けた。

 

「もう少し待ってくれないか。大事にしてもらっていることは理解している。その感謝をどうやって返せばいいのか、わからないんだ。……でも、これだけは言いたい。ベルがわたしのことを大切を思っているように、わたしもベルのことを親しく、大切に思っている」

「……怒ってなどいない」


 そう呟くように答えたベルファレスは今日初めて微笑んだ。

 

「こちらこそ悪かった。すこし焦りが出てしまったようだ。お前を待つと、あれだけ心に誓ったのに」

 

 唇を噛み、申し訳なさそうに話す様子がいじらしかった。

 

 珍しくベルファレスが遠慮がちなのでわたしの方から切り出した。

 

「さあ、食事にしよう」

 

 

  * * *

 

 

「良い噛みごたえだ……味わい深い」

 

 ベルファレスは鹿肉に口をつけた後、こう言った。

 

 鹿の香草焼きの感想がそれかとずっこけそうになったが、リグの感想『複雑な味』を感じてくれたようで嬉しくなる。

 

 肉を眺めては「随分凝った料理だな」と言い、またかぶりついた。

 

「この爽やかな飲み物も気に入った」

 

 次にハーブティーを啜った。香りは感じてくれただろうか?

 

 わたしもカップに口をつけ、爽やかな余韻に浸った。

 

 今、ベルファレスと同じ食卓、同じ食事で、共に時間を過ごしている。なんと、心が落ち着き、満たされる時間だろうか。

 

 ハーブティーのお供につまんだ果実が、いつもより格別の美味しさに感じられた。

 

「こうやって、共に食事をするのはいいものだな。レラの料理は最高だ」

 

 わたしは小さく「うん……」と呟き頷いた。


 照れていまい、それ以上何も言うことができなかったが、わたしの気持ちが届いているといいなと思いながら、昼下がりの特別な時間を過ごした。

 

 

「……さて、明日からの行動について確認をしておこう」

 

 わだかまりが溶けたところで、ヨークシュア偵察と商人救出の作戦会議が始まった。


 隠密行動のため、ベルファレスとわたしのふたりで任務にあたる。少しずつ回復に向かっているリグにはドラク領土周辺の警備の指揮にあたってもらう。

 

「麓のヨークシュアはドラゴンであれば数時間で往復できる距離だ。しかし、ドラゴンは目立ちすぎる上に、夜間飛行中にリグが姿を見られている。そのため徒歩で現地に向かう」

 

 王国の人間にとってはドラゴンは架空の生き物だ。ドラクたちはむやみに姿を見られないよう、この地で隠れて生きてきた。ドラゴン姿での移動は奥の手中の奥の手だった。

 

 夜間行動は狙撃の可能性があるため、移動は日中に限ることにした。

 

「移動には数日かかる。覚悟しろ」

「任せろ。わたしを柔な女と一緒にしてもらっては困る」

 

 任務のために各地を旅した身だ。至って問題ない。

 

「問題はヨークシュアに着いてからだ。……レラ、どう思う?」

 

 ベルファレスは顎に触れながら問いかけた。


 騎士団時代を思い出しながら、王国の手口を探り、わたしはある考えに至った。

 

「王宮騎士団が駐屯している可能性が高い。ヨークシュアを基点にして夜間はコーラル山の麓を偵察していると思う」

「そうだろうな……」

 

 下手にヨークシュアに近づけば目を付けられ、捕まってしまう。ベルファレスは警戒していた。

 

「ベル、良い策がある」

 

 わたしはベルファレスにある提案をした。


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