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首長の女 (☆☆☆☆)

 竜王の居室で目が覚めた翌日、わたしは朝から頭を抱えた。


(降伏してしまった……!? ……いや、それより『俺と共に生きる』って? ……『俺の女』って?)


 都合がいいのか悪いのか、あの時のやり取りはちゃんと頭にある。

 ちゃんと自分の口で「はい」と言ったことも。

 その時は、すべての要件を受け入れる他ないと、理解した上で承諾したのだ。


 ……だからたちが悪い!!


 体が震えてくる。

 寒いせいだろうか? 石造りの天井を見上げる。祖国でも石造りの家は朝が冷える。竜人族の居住地は高地。なおさら寒いだろう。


 さらに震えてしまう事実としては、この部屋で竜王と共に過ごしたと言うことだ。


 起きた時、ベッドに竜王の姿は見当たらず、わたしはその隣にあるソファで毛布にくるまって横たわっていたのだが……。


(何かされた?)


 不安になって、衣服を脱ぎ捨て裸になる。


 どこも悪さはされていないようだ。

 裸になった後で、牢獄にいた時に着せられた粗末な麻の布袋のままであったと気づく。今度は勝手に着替えさせられてはいないようだ。


 安堵のため息が漏れる。


(よかった。何もされていないみたいだ……)



 バタンと扉が開く音がしてそちらを向くと、薄手のガウンを纏った竜王と目が合った。

 濡れ髪から入浴後のようだ。装飾品も一切身につけていない、素肌にガウン1枚の無防備な姿なのに、威圧感は変わらない。


「う、うわーっ! み、見るなあ!」


 慌てながら体を小さく丸めて素肌を隠すわたしを見て、竜王は鼻で笑った。


「大胆なやつだな。……これを使え」


 そっぽを向きながら、ソファに放り出してあった毛布を手渡した。

 すっぽり体を覆うには充分で、わたしはそれを体に巻き付け、素肌を隠す。


 竜王はいつも居室で過ごしている時と変わらない様子でソファに腰掛けくつろぎだした。

 わたしは居心地が悪く突っ立ったままだ。


 一緒の空間に居るのに、沈黙しているこの時間が耐え難い。


 色々疑問はあるし、聞きたいこともある。

 でも、何から尋ねればいいのやら。どうやって喋り出せばいいのだろうか。


 沈黙を破ったのは竜王だった。


「おい、こっちに座れ」

「……は、はい」


 促されるままソファに腰掛ける。

 2人で座ると距離を詰めなければならず、狭い。顔も、近い。くつろげるはずもなく、肩を緊張させ座っていた。


「お前の名は?」


 そう問われ、まだ互いに名乗り合っていなかったと気づく。


「……レラ」

「レラ、良い名だ。そうか……」


 竜王は険しい顔になり、ピリッとした空気に変わった。わたしに向けて、金属のプレートを掲げて見せてきた。


「この首飾りの板に彫られているレオというのはお前の男の名か?」


 それは騎士の戦死を家族に知らせるためのネームタグだ。騎士であれば誰もが身に付けている。

 竜王は静かに怒りを露にしている。勘違いをしているようだ。面倒なことにならないよう冷静に対処した方がいい。


「違う。それはわたしの偽りの名だ」

「そうか。どうしてお前は名を偽った?」


 否定したことで竜王の表情は和らいだが、不信感がまだ拭えてない様子だ。


「わたしの国では女は騎士になることができないんだ。でもわたしは騎士になる以外生きる道がなかった。……だから、男と偽って過ごしてきた」

「そうか。……わかった」


 安心したのか少し明るい声に変わる。竜王はわたしの肩を掴み、自身の方へとわたしの体を向き直らせた。あえて避けていた視線が重なる。


「もう自身を偽る必要はない。ここではありまままの姿で生きよ。レラ、お前は強い。そして、美しい。心を揺さぶられたのは初めてだ」

「えっ……」


 顔が瞬時にのぼせる。


 美しい? このわたしが? そんなこと、初めて言われた。

 男の人にこう言われたら、何と答えればいいのだろう? 「ありがとう」だろうか? それとも「嬉しいわ」だろうか?


 返す言葉を探しながら口をもごもごさせていると、竜王は私の目をうっとりと見つめた。


「……その瞳、吸い込まれるような美しさだな。とても気に入った。いつまでも見つめていたくなる……」


(あれだけ気持ち悪いと蔑まれた虹彩異色のこの瞳が!? これさえも美しいのか!?)


 劣っていると感じていたことを褒められるのとてもありがたいことなのだが、わたしの中で許容範囲を超えた。体が熱くなるだけでなく、ついに目までも周りだした。


 竜王が心配そうに額をくっつけて気遣った。


「どうした? 具合が悪いのか? 顔が赤いぞ。……少々熱い。ハティを……」

「だ、だ、だいじょうぶだ! なんともない」


 パッと竜王から離れて距離を取る。こういうのに慣れていないだけだ。


「そうか」


 距離を取られた竜王は不満げに呟いた。

 ……かと思ったら、鋭い瞳を輝かせて詰め寄ってきた。


「望みのものはないか? 急いで準備させる。レラ、何がいい? 教えてくれ」


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