第94話 チサの苦慮
一方チサの方はというと、ジンと同様に相手との力量差がありすぎて、対戦相手にアドバイスを送ったり、色々と気を遣いながら戦う始末だった。
まずは一回戦。
「ほれ! どうしたのじゃ。足元が疎かじゃぞ。」
チサがその言葉を言った後、チサの手から生み出される水に足を払われ、チサの相手の男は無様に地面を転がる。
「く......くそっ! どうしてこんな少女に手も足も出ないんだ。」
「それは、お主が相手の力量も計れぬほどに弱いからじゃ。妾まだ、10%も力を出しておらぬぞ?」
「なっ......! 馬鹿な! そんな筈はないだろう。くそがああああ!」
チサによって転ばされた男は、目の前にいる幼女に負けるという現実を受け入れられなかったのだろう。
そもそもこの闘技大会本戦に出場するためには、約500〜1000倍の競争率のバトルロワイヤルを勝ち上がることができる猛者でなければならなかった。
目の前の少女だって勝ち上がってきているのは知っていただろうが、まさかここまで差があるとは露ほども思っていなかっただろう。
それ故に男は激昂し、手に持っていた武器をチサに向け、渾身の突きをみせる。
「高速回転槍」
男はどういう原理なのか、槍を高速で回転させ、チサへ強烈な突きを繰り出した筈だった。
男が気付いた時にはもう遅い。男の持つ槍は宙を舞い手の届かぬほど遠くへと転がっていた。
男にはチサがどうやって自分の技を弾いたのかさえ見えなかったのだ。
「どうじゃ? まだやるかの? お主が諦めぬのなら付き合ってやっても良いぞ。」
「降参する......。」
この時、会場中がブーイングに包まれる。
「どうやら、妾の戦いは不評じゃった様じゃのう。次はもう少し見られる戦いにするしかないかの。」
チサはこう思っていたが、実際のところはチサに賭けている者が限りなく少なかったのだ。
チサは少女の見た目であるがゆえに、デウス、マキラ領出身者は賭ける者が極端に少なく、アル領の者達は予選で派手な一撃を見せたジンと四連覇のかかっているベガに流れていた。
よって、チサは勝つたびにブーイングに晒されることになるのだが、当の本人は戦い方に問題があると思っていた。
続いて2回戦。
チサの目の前には、チサの背丈の2倍はあろうかという偉丈夫が立っていた。
「ふん! これだけ小さいと攻撃が当て辛くてかなわんな。俺は何としてもベガに去年の雪辱を晴らさねばならん。悪く思うなよ。」
「ほう? 妾のことは眼中にないとな。」
「ふん! 口だけじゃなきゃいいがな。」
男は拳を振り上げチサへと向かって強引に殴りかかる。チサは軽く跳んで躱す。
その時、チサが居た地面が会場全体に響き渡るほどの音を立てて、巨大なクモの巣状にひび割れる。
その一撃に会場が沸き立つ。
「たしかに威力は凄い様じゃのう。でも当たらなければどうということはないのじゃ。」
「ふん! 全部躱せるもんならやってみな! 嬢ちゃんは身軽な様だが、俺の力の前には無力だ。技能:無限拳舞がある限りな! はっはっはぁああああああああああ!」
「無限演舞ぅぅぅ!」
男は笑いながらもチサへとどんなに躱されてもお構いなしに殴りかかる。
だがチサには当たらない。
「ふむ。たしかに無限というだけはあるのう。それだけの力を乱発して全く疲れておらぬとは。」
チサは男の攻撃を軽々と躱しながらも、男には効かない程度の威力の水で作った刃をぶつけてゆく。
「ふん! このまま逃げ続けていればいずれ体力が尽きるのは嬢ちゃんの方だな。嬢ちゃんのその技も俺の前では無力の様だしな。はっはっは!」
笑いながら、勝手にチサの実力を見切り、大量の地割れを量産してゆく男ではあったが、チサにとっては全く敵ではなかった。
「はああ〜。確かにお主がその技を永遠に繰り出せるのなら妾には勝てるじゃろう。でも、それは妾が回避で精一杯である前提でじゃ。」
チサは笑いながら殴りかかってくる男に呆れていた。その気になれば、こんな冗長で単調な力任せな攻撃、一撃で沈めることもできた。
だが、チサは、一回戦でのブーイングが気にかかったのもあって、一応見応えのある様な戦いを演じていたのだ。
「そうは言っても、さっきから嬢ちゃんは俺に水を掛けてるだけじゃねぇか。はっはっは。」
「はああ〜。ここまで頭が悪いとは思わなかったのじゃ。本当に妾が水をかけただけじゃと思うておるのかの?」
「はっはっは。確かに俺は頭は悪いかもしれんが、それを補って余りある力の前に屈するんだな!」
「呆れてものも言えぬの。」
「水陣・縛水」
その瞬間チサへ向かって、無造作な拳を繰り出し続けていた男の動きがピタリと止まり動けなくなる。
「な......。」
男はもはや口さえも動かなくなっていた。
観衆からは、男の有利に進んでいる様に見えた戦いが急に男が動かなくなったことでどよめきが走る。
「何をしたのかという顔じゃの。ふふっ。お主は気付かなかっただろうが、妾がお主に掛け続けた水、実はトクベツ製での。全てこぼれずにお主にくっついておったのじゃ。それが全身に行き渡った今、お主の力では妾が技能を解除するまで、動くことさえできんぞ。」
そして、チサはその後、拳を繰り出した姿勢のまま石像の様に固まった男を、水で窒息させ気絶させて勝ちを決める。
「これで多少は見られる戦いになったかの?」
だが、チサの予想に対して、再度ブーイングの嵐が巻き起こる。
「むむむ......。さては誰も妾の勝ちを期待しておらぬな? まあ良い。次のベガに勝てば、嫌でも妾を応援したくなろうて。」
チサはまるで悪役の様な笑みを浮かべていた。
夜の闘技場を煌々と照らす色とりどりの光に照らされた小さな少女は準決勝で当たるであろうベガをどう倒すか考えるのだった。
昨日の1万字チャレンジで疲れちゃったので、今日はちょっと遅くなりました。
展開は予想できるかもですが、もうちょっとだけ闘技大会が続きます。
ではでは、第95話お楽しみに〜




