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第92話 マキラの想い

 俺たちはマキラに今回の件の礼ということで特別に領主の館の屋上へと案内して貰うことになった。この領主の館、アルの住んでいた物とは違い、3階建てであった。

 勿論岩石で出来ていることに変わりは無いのだが、大きな岩石を3段重ねにして作られていた。


 マキラの執務室は一階であった為に俺たちはマキラに案内されて屋上に行くことになる。


「屋上には何があるのじゃ?」


「それは着いてからのお楽しみだよ。」


「うぅ〜気になるのじゃ。ジンは何があると思う?」


「ごめん。チサ。俺にもなんで屋上が特別なのかがわからないんだ。」


 そんな話をしながら屋上へと向かう俺たちであったが、途中領主の館の中を歩いていると、使用人達が驚く姿が目に入る。

 それも当然ではある。

 なんせ、俺たちが領主の館に入ったのを誰一人見ていないのだから。

 リリエットやお茶を入れてくれた男は別だったが、わざわざ彼らが、伝えて回る様なことはしていないのだろう。


「え、あの子達誰なの?」


「この時間に面会予定は入ってなかったわよね?」


「え、あの男の子可愛い〜!」


 そんな会話が俺の耳には入ってくる。中には何かおかしな声が混じっていた気がするが、華麗にスルーだ。


 こうして領主の館の屋上に出た俺は改めて息を呑むことになる。


「これは......!」


「わあああ、凄いのじゃ。妾、こんな綺麗な景色は初めて見たのじゃ。」


「どうだい? 大したもんだろう。この夜景は、マキラ・フォー・ラーゲルの象徴であり、誇りでもあるのさ。そしてここはマキラを囲うどの門や壁よりも高いから1番夜景が綺麗に見える場所でもあるんだよ。」


 マキラのその口調には、自分の都市に対する熱い思いが込められていた。

 俺もチサもその言葉に相槌を打つのも忘れてマキラを彩る光のコントラストに魅入っていた。


 何分経っただろうか。俺はふとマキラに聞きたいことがあったのを思い出す。


「そういえば、この都市を覆う光はどういう仕組みになっているんだ? 俺はマキラが莫大な魔力で都市全体に光を供給していると聞いたが。」


「半分正解で半分不正解だね。確かに数年前まではあたしが、都市全体に光を供給していたさ。だけどね。もうあたしは老い先長くないからね。魔力充填式の蛍光管を開発したのさ。」


「魔力充填式とはどんなものなのじゃ?」


 マキラは懐から一本の縦長の管を取り出す。


「これは都市に設置してあるものよりは小さいんだけどねぇ。このボタンを押すと、魔力を少しだけ吸い取るのさ。」


 そう言ってマキラがボタンを押すと、赤色の光を出し始める。


「わあああ。凄いのじゃ! こんな物を作り出せるなんてマキラは天才なのかもしれぬの。」


「何、あたしだけじゃ無いよ。あたしの我が儘に付き合ってくれた研究者達が作り出した努力の結晶さ。」


 マキラはそのシワだらけの顔を少し逸らす。チサの素直な褒め言葉が嬉しかったのだろう。


 その後も色々話を聞いた。流石に蛍光管では、マキラが直接供給するより魔力の変換効率は悪いらしい。


 だが、都市に設置してある大型の蛍光管で、住人達から少しずつ魔力を分けてもらうことで、一晩照らし続けるには問題無い、

 否、マキラが一人で供給するよりもより多くの色の光が出るようになったという。


 俺はダメ元でマキラに頼んでみる。


「なあ、俺たちにその蛍光管って貰えたりはしないのか?」


「ああ、構わないよ。ほれ。一本ずつやろう。」


 そう言われてマキラから蛍光管を受け取る。


「わあああ! ありがとうなのじゃ! 早速使ってみるのじゃ!」


 チサがボタンを押すと水色の光が出始める。そしてチサはその光を嬉しそうに見つめ、振ってみたり回してみたり投げてみたりして楽しんでいた。


「本当に貰って良かったのか?」


「いいさ。あの笑顔が見られるのなら渡した甲斐があるねぇ。」


 チサは弾ける様な笑みを浮かべて、辺りを走り回っていた。

 チサを見つめるマキラの顔はさながら、孫を見つめるおばあちゃんの顔つきで、この場に於いて、領主の威厳など皆無に等しかった。


 俺は後に知ることになるのだが、この大陸の領主になると子供を作ってはいけないという慣例があるそうだ。

 だが、領主は立候補制ではなく、その都市で最も能力がある者が選ばれ、選ばれれば終身領主でなければならない。

 その為にマキラはその生涯で子どもを作ることが出来なかったのだそうだ。


 こうして、夜更け近くまで領主の館で過ごした俺たちは、領主の館を後にする。

 チサを寂しそうにみるマキラの様子に後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、俺たちは自分達に割り振られた宿に戻るのだった。


 宿の前には、目の下に(くま)の出来始めたリリエットがいた。

 明け方であるとはいえ頭の上は相変わらず光り輝いており、お尻でその光を反射していた。


「くっ......。まさかお前たちがマキラ様の客人だったとは。事前に教えてくれれば良かったではないか。これでは眠ることもできないじゃないか。」


 リリエットは半分涙目だった。


「教えたら信じたのか? リリエットが俺たちにした扱いがそのまま返ってきただけだろう。」


 俺は気の毒には思っていたが殆どがリリエットの自爆で起こったことでもある以上、自業自得でもあった。


「ぐ......。すまなかった。ジン、頼む。一生のお願いだ。マキラ様に一緒に掛け合ってはくれないか? 昼はいいが、夜もこのままなのは流石に辛すぎる。」


「ジン、マキラに頼んでやってくれぬか? 流石に妾も気の毒に思えてきたのじゃ。とはいえ、妾はもう眠くてそろそろ意識が無くなりそうなのじゃ。」


「ありがとう。チサ。」


 チサからの助け舟に、リリエットは半分喜びの表情を浮かべる。


 俺もチサがいうのなら、マキラに頼みに行っても良かったが、流石の俺も眠いのだ。ここ最近、徹夜と分身の出し過ぎで慢性的な寝不足が続いていたわけで。

 しかもまだリリエットが罰を受けて数時間しか経っていないのもあって、俺はわざわざ領主の館に引き返そうとは思えなかった。


「リリエット、マキラには、頼んでやる。」


 リリエットの顔がパアッと明るくなるのが目に見えて分かった。だが俺はそれを突き落とす。


「だが、俺は連日の寝不足で限界なんだ。明日の午後8時にマキラに一緒に頼みに行ってやる。」


「そ......そんなあ......。」


 希望が潰えたリリエットはその場に崩れ落ちる。俺とチサはそれを振り返ることもなく宿にチェックインして、チサと仲良く眠りにつくのだった。





これで本日3話目です。

今日はあと1話分頑張って書きますが、自分にお疲れ様と言ってやりたいです。


書いてると書きたいことが溢れてきたり、文字数が足りなくて苦慮したりと色々大変なのですが、楽しく書かせていただいてます。


ただ、脳が疲労してくるのはどうしようもないのかなあ...。これさえ無ければもっとハイペースで出せるのに!


そんなしょた丼でした。

1万字チャレンジもあと1話分となりました。

では第93話もよろしくお願いしますm(__)m


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