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第66話 領主の館

門をくぐった俺たちの前には、岩石をくり抜いてそこに扉をつけたと言った様子の家々が立ち並ぶ非常にゴツゴツとした見ただけで視界が固まるかのような光景が広がっていた。


「これはまた......。」


「わああ〜。大陸が違うとここまで違うのじゃな。」


俺とチサは目の前に広がった光景に驚き、門をくぐった先で立ち止まっていた。


「ジン、チサ、何を驚いていルッ。」


ベガが俺たちを不思議そうな目で見てくる。道ゆく人々もこの都市では見ない服装と何かに驚いて立ち止まっている様子にいぶかしげな視線を向けていた。


その視線に最初に耐えられなくなったベガは言う。


「おイッ! このまま立ち止まっていては目立ちすぎルッ。ただでさえお前達はここに住む者達とは格好から違いすぎるのダッ。」


そういうとベガは俺たちを引っ張って行く。

そういえば、当たり前といえば当たり前だが、道ゆく者達は普通の人だった。馬面は見渡す限りゼロだった。


「おイッ! ジンッ! お前なんか失礼なこと考えていないカッ!」


「そんなことはないぞ! ただ、見渡す限り馬面はいないんだなあと思ってな。」


「考えているじゃないカッ! 大体私のこの馬面は、呪いだと言ったじゃないカッ。」


「ふふっ......! まあ二人とも喧嘩はよすのじゃ。二人を見ておるとどこか微笑ましいものを感じるがのう。ここは大通りじゃぞ? さっき目立つのを嫌がっていた者があえて目立つような真似をするのは滑稽での。」


そう言われて俺は周囲を見渡すと、道ゆく人々がみな俺たちを見ていた。ベガはチサの言葉にばつが悪い顔をしながら、向けられる視線から耐えていた。


(ベガはあんな危険な都市を囲む壁の外の見回りを任されたり、大陸で最も強い闘士だと言った癖に、どうしてこうも視線に弱いんだ?)


そんな風に俺は思いながら、岩石で出来た家々を横目に見ながらも進んでゆく。大通りを見る限りでは、特に治安が悪いようでは無いようだ。


上半身半裸で傷だらけの馬面の男、この辺りでは見かけない真紅のワンピースを着た少女、更にその少女を肩に乗せる意識を離せば存在を忘れてしまいそうな少年というこの都市では完全に浮いている見た目の者達が人々の視線を釘付けにしながら、この都市の領主の館へとたどり着く。


「ここダッ。」


向けられる過度な視線によって若干憔悴した様子のベガが言う。


「へぇ。これはまたすごいな......!」


「流石、領主の館じゃ。」


領主の館は、他の家々よりも一際大きな岩石を加工して作られており、高さも5mほどはあった。更に2階があるようで、はめ殺しの窓まで付けられていた。


「入るゾッ。」


領主の館の門兵と話をつけたベガに促され俺たちもベガの後に続いて館へと入ってゆく。


館へと入ると一人の老執事が俺たちを迎え入れる。


「皆様、本日はアル・フォー・ラーゲルの領主の館へようこそ。私はこの館で執事をしております、エルスと申します。この館にいる間、何か用事がありましたら私にお申し付けください。」


執事が丁寧に自己紹介をしてくれたので俺たちも自己紹介をする。


「ジンです。よろしくお願いします。」


「妾はチサじゃ。よろしくお願いするのじゃ。」


それを聞いた執事は頷くと、口を開く。


「では、ジン様に、チサ様、こちらへどうぞ。アル様は現在急を要する書類を片付けておられますので、応接間の方へ先に案内させて頂きます。」


この館の執事に案内され、一階の応接間と思われる部屋へと入る。そこには岩を切りそろえ、磨き上げて作り上げたと思われる光沢を放つテーブルが部屋の中央にある。


疲れないようにだろうか。テーブルを挟んで対面となるように配置された一組の縦長のソファは、岩を丸みを帯びるように加工され、さらに、背もたれはもたれかかることができるように、若干傾斜がついていた。


「ジン様とチサ様はこちらへ腰掛けてお待ち下さい。私はベガ様の身なりをアル様に会うに値するものへ大急ぎで整えて参りますので。」


そんなソファの片側に促され、俺とチサはソファに座る。


「待テッ! エルスッ! アル様はこの格好でも怒らんだろウッ。頼ムッ! 許してくレッ! 正装のような堅苦しい格好は嫌いなんだァッ!」


「確かにアル様はこの程度で怒るような方ではありませんが、そう思うのでしたら、ここに来るまでに服を調達しておくのでしたね。」


そう無情にも言い放つと執事はベガを引きずって領主の館の応接間から消えていった。ベガはこちらに助けを求めるかのような目を向けていたが、こればかりは執事が正しい分どうしようもない。


俺はそんなベガを見捨てると、俺の隣でチサがクスクスと笑っている。


「どうした?チサ。」


「ふふっ。この大陸に来てから面白いことが沢山あるのじゃ。見た目は岩石や雪で覆われた針葉樹しか無い殺風景な物なのに不思議なものじゃ。」


そう言われればとそうかと俺は納得する。主にベガのせいではあるが、この大陸に来てからチサはずっと笑顔だった。その可愛らしい笑顔に俺も思わず頭を撫でてしまう程には。


まあ、その殆どがベガのお陰ではあるんだが。そういう面でベガには感謝しなければいけないかもしれない。ベガがいなければここまでチサの笑顔が見られなかっただろうから。


「そういえば、ジンも上半身裸なのに、ベガだけ着替えさせられるとは理不尽なものだの。」


「俺はいいんだ!気配遮断で、服を着ていなくても分からないから問題無い!」


そんな俺を見て、チサは笑いを堪えきれぬ様子で腹を抱えて下を向いていた。


「チサ? 何を笑っているんだ?」


「これはこれはジン様も裸なのですか?」


「え......。」


俺はそんな声がした応接間の入り口へとゆっくりと首を動かすと、この大陸の正装であろうか?かなり仰々しい格好をしたベガと、老執事エルスが立っていた。「ベガの顔にはジンもだナッ。」という笑みに満ち溢れていた。


俺は先程のベガ同様応接間の外へと引きずられてゆく。気配遮断も一度ばれてしまえば無力だった。


「チサああああああああ......。(はか)ったなあ......。」


俺は涙声でチサに抗議したものの、その声は虚しく領主の館へと響くだけであった。


ジンの声が領主の館から虚空へと消えた後、耐えられなくなったチサの笑い声が領主の館でこだまするのだった。




最近ボカロ熱が再燃し始めたしょた丼です。

このお話は『ウミユリ海底譚』を聞きながら執筆しております。


なんかこう、音楽って心に染み渡るよね。執筆は基本殆どが音楽を聴きながら書いております。音楽を聴きながら書くと、そのテンポによって新しい発想が飛び出してきたり、小説の執筆にリズムが出てくるから、個人的には欠かせない要素になりつつあります。


さて!長くなって申し訳ないです。では第67話もよろしくお願いしますね!


20/12/4

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