第65話 アル・フォー・ラーゲル
「ホ......。ホ......。ホゲー! げっホッ! げっフォ
ッ!」
「ふふっ......。」
(あっやばい。チサが笑い堪えてるのかわ......。じゃなくて! ベガの奴、気絶する時もそうだが、目覚める時も面白すぎるだろう!)
俺はいちいちオーバーなリアクションを取るベガが俺たちのステータスを見て気絶した時、周囲に水がなかったので、代わりに雪を口に詰め込んだわけなのだが、狙ったかのように全てのリアクションが面白いのだ。
そんなわけで気絶から目覚めたベガが抗議してくる。
「クッ......。こんな起こし方あんまりですヨッ! 起こし方にも問題はありましたガッ。それよりも、何なのですカッ! 貴方達のステータスはでたらめすぎですヨッ! 一体どんな経験を積めばその若さでその強さヲッ。」
ベガの口調は俺たちのステータスを見た瞬間に微妙に丁寧なものに変わっていた。きっと、圧倒的な力量差を痛感したのだろう。
「その辺は秘密な。今のところベガが俺たちに貢献したことは何一つ無いんだ。それなのに情報だけ下さいって言うのは虫がいいとは思わないか?」
「あアッ。確かにその通りでスッ。では、歩きながら話をしましょうカッ。こんな血臭がする場所に長居していては、別のモンスターが現れるかもしれないですからネッ。」
俺は笑いの火種を何とか消したチサを既に定席となった俺の肩に乗せ、ベガを伴って、森へ続く道へと入ってゆく。
「まずはずっと聞けそうで聞けなかったアル・フォー・ラーゲルから頼めるか?」
実はベガは俺に一度この話をしたのだが、その時俺は雪の上に寝かせていたチサが気になって結局聞いていなかったのだ。
「一度話したんですガッ......。」
「ベガよ。妾は聞いておらぬ故、最初から頼めるかの?」
チサが話を聞いていなかった俺へと助け舟を出してくれる。
「仕方ないですネッ。まず、この大陸には、3つの都市が存在しまスッ。大きい方から順に、『マキラ・フォー・ラーゲル』、『アル・フォー・ラーゲル』、『デウス・フォー・ラーゲル』でスッ。これから私が向かうのがアル・フォー・ラーゲルでスッ。」
「どうして、他の2つじゃないんだ?」
俺が尋ねた時ベガは「さっきも言ったのニッ。」と言いたそうな顔を浮かべるも諦めて語る。
「私の籍があるのが、アル・フォー・ラーゲルであり、ここがアル領であるからですネッ。基本的に3つの都市は大陸を三分割して統治しておりまスッ。自領には見回りの兵を常に配置し、自領で起きた問題は全て自領で解決することがこの大陸の決まりであるのでスッ。」
「それで、今回は、アル領に俺たちが入り込んだから、俺たちはベガと共にアル領に向かっているというわけか。」
俺は納得する。
「それに、誰かからの仲介がなければ、どの領であっても入ることはできませんからネッ。」
「なるほどのう。ところで、その領に入るときに妾たちに何かしたりするのかの?」
チサはベガに向かって尋ねる。
「それは無理というものですネッ。そもそもジンもチサも、何か仕掛けるにしてはレベルが違いすぎまスッ。」
俺はその一言に納得する。とりあえずこの大陸にはベガを超える強者はいないまたは少ないということを。
(ん? なら何故ゲチスの中にはあんなにも有能な人物が揃っていたんだ?まだ俺が足を踏み入れた大陸は三つ目だが、ゲチス軍の大佐を超える程度の人物しかいないのはどういうことだ?)
俺はそんな疑問を抱えつつも、あたり一面が草も木も全てが今にも刺さるのではないかと思うほど刺々しい雪の積もった森の中をベガに従ってついてゆく。
細く長く尖った葉を持ってみる。すると見た目以上に柔らかく折れてしまう。俺はそんなとがった植物達に疑問を抱きながらも、ベガについてゆく。
そのまま歩き続けると、日が落ちる前に少しずつではあったが、森の中に人の足跡が増え始める。
「そろそろ着クッ。普通なら都市に入るには手続きがあるからナッ。今回はとりあえずお前達の滞在の許可を得るために、俺の紹介ということで無しにしてもらウッ。領主のアル様はお優しい方であるが故にお主達も滞在を認めていただけるだろう......!」
そして森を抜けると、巨大な岩石の門が見え始める。その大きさは優に10mを超えるであろう大きさだった。更にその門から横に目を向ければ、緩やかに曲がるように岩石でできた壁が続いていた。
門の前には門番がおり、門番は2人の男だったが、片方は完全に眠っており片方はあくびをしながら、船を漕いでいた。恐らく今が冬で往来する人も少ないが故に暇を持て余していたのだろう。
「おイッ。何を眠っているんダッ。お前達の役割はここで、マキラ領とデウス領から来る客と、アル領を出入りする人達の精査をすることでしょウッ!あまりにもサボるようですとアル様に報告しますヨッ。」
男たちは聞こえた声にピクリと反応して目を覚ました瞬間に目を見開いてベガの姿をとらえる。
「ヒッ! ベガ様! 申し訳ありませんでした! 見回りご苦労様です!」
ベガが叱責すると門番達大きな声で謝罪して急いで背筋を伸ばして立ち上がり仕事をし始める。
「それでベガ様、何故上半身裸であられるのですか?」
「これカッ?」
ベガはそういうと俺たちをチラッと見た後、門番達に向かって答える。
「なんでもなイッ。ただ、百数十匹ほどのユキグマに襲われたお陰でこの有り様というわけダッ。」
ベガがこちらを向いてから答えたことで俺は、俺たちの合技でベガの着ていた服が消しとんだのだということを悟る。どうやら元々から裸ではなかったようだ。
「数百匹のユキグマ!!?? にわかには信じがたいですが、ベガ様が言うのなら本当なのでしょう。それで、後ろの2人の子どもはどうされたのです?」
子ども?? 今あの門番、チサはまだしも俺まで子ども扱いしたな。覚えたぞ。その顔。後で後悔しても知らないからな。
「......フッ。後ろの2人はアル様の客人ダッ。失礼のないようニッ。それから後ろの少年は子どもではなイッ。れっきとした大人ダッ。」
あ、ベガの野郎今、笑いやがったな?くそっ。どいつもこいつも俺を子ども扱いしやがって......。まあ今に始まったことじゃないけどな。
俺は隣に目を向けると、そんな俺の様子を見てチサがクスクスと笑っている。
「それは失礼しました! 了解しました! では後ろのお二人はアル様の客人ということで処理させて頂きます。」
そういうと門番達はさっきまで寝ていたとは思えないほどキビキビと動き出す。
「ジン、チサ。ゆくぞ。まずはアル様に会い、仮の身分証を発行してもらわねばならなイッ。この大陸では、身分証が無ければ、都市の出入りや買い物さえもままならんからナッ。」
俺は非常に納得のいかない思いのままこの大陸で初めての都市アル・フォー・ラーゲルへと足を踏み入れるのだった。
皆様!遂に総合評価が3桁になりました!
作者大変嬉しくて涙が出て......来ません。来ませんけど、感謝でいっぱいです。
引き続き頑張って書いていきますので、第66話もよろしくお願いしますね〜
20/12/4




