第56話 旅立ちと別れと結婚と......
今話、少しだけ増量してお送り致します!
俺はふと気がつくと見覚えのある天井が目に入る。
俺の懐にはチサが顔をうずめて眠っている。その幸せそうな寝顔を見ると俺まで癒される。
(はあ〜いつ見ても可愛いすぎる...!)
おっと失敬。危うく我を忘れるところだった。危ない危ない。
俺は首を傾げる。ここはブラウンエルフの長であるキラークィから借りている家なのだが、俺にはここに帰ってきた記憶がない。
俺は今日のことを振り返ってみる。
まず家を出たあと、武器屋の老婆の元へ行った。俺はそこで黒影切の話を聞いた。
その後、キラークィの元を訪ねて......。
(あれ?俺にはその後の記憶がない......?)
俺はチサを起こさぬよう静かに体を起こす。
チサは俺が起きると、幸せそうな寝顔がちょっと不機嫌そうに変わる。
俺はそんな表情の変化もまた可愛いなと思いながら、チサの頭、そして、チサの顔の傷を優しく撫でてやる。
すると不機嫌そうにしていたチサの顔はたちまち嬉しそうに変わる。
俺は寝ているのに俺の動きが分かっているように表情を変化させるチサをずっと撫でたり意地悪したい衝動に駆られるが一旦我慢する。
そうして俺はベットから立つと、近くにあるテーブルの上に置かれている指輪が目に入る。
目に...目に...目に入る。
その瞬間、俺はキラークィに会いに行った後の記憶が全て蘇る!
俺は地面に倒れる!悶える!悶える!悶える!
(チサとの結婚の話は断じて認めないからな!第一、チサは大事だ。間違いない。だけど、それは肉親に対する―。)
ズキッ、ズキッ......。
俺はしばらくの間、床を転がり続けた。
「んにゃ、んにゃ。なんじゃ〜?ジン起きたのか。しかしジンは何故地面で転がっておるのじゃ?」
バッ!俺はその声に瞬時に反応してチサへと言葉を返す。
「なんでもございません!チサお嬢様ァ!おやすみの所、お邪魔してしまい申し訳ありまっせん!どうぞお気になさらずお眠りください!」
怪しさ100%配合の超変人不審者であった。
夜中に、誰もが寝静まった部屋で、一人で勝手に地面を転がっているところをまさかチサに見られるとは。指輪を渡された記憶と相まってダブルパンチで恥ずかしさが俺をリンチする。
「ふふっ。ジンよ。そなた妾と結婚するのがそんなにも嫌なのかの?」
チサが悲しげな表情で俺に迫る。
「い......嫌じゃない。」
「なら、良いのではないか?」
チサは恥ずかしさによるリンチで苦しむ俺に更に罪悪感という刃物を武器に畳み掛けてくる。
くそ。反則じゃないか。こんなの断るなんてできない。俺は頭を激しくそれはもう激しくかき上げながらも言う。
「俺はチサのことが大好きだ。正直、家族も友達も、誰一人いない俺に取ってはかけがえの無い存在だ。」
それを聞いたチサはその顔を赤らめる。
「でも......。でも!俺にとってはチサは妹のような存在でもあるんだ。だから、急にけけ......結婚とか言われても俺にはちょっと......そうちょっと違う気がするんだ。」
そんな俺の精一杯の言葉をチサは静かに聞いていた。俺はそんなチサに顔を合わせられずにいた。そうして何分がすぎただろうか。俺は顔を上げると、顔を真っ赤に染めたチサがいた。少女とは思えぬ色香に俺は数瞬の間、目が離せなくなる。今までこんな様子のチサを見たことがあっただろうか。俺はこの数瞬の間、チサが何歳も自分より年上の存在なのかと思えてしまった。
心臓の鼓動が跳ね上がり宙を舞う。そうして何も話せなくなった俺にチサは微笑む。
「ふふっ。相変わらず、ニブチンじゃな。仕方ない奴じゃのう。今はそういうことにしておいてやろう。ほれ!指輪を持って参れ。結婚はせずともつけていれば戦力アップするのじゃ!つけぬ手はなかろう。」
「あ、ああ。」
俺はチサの色香に当てられてチサの言う通りに動く人形と化していた。
その後のことは覚えていない。だが、次の朝目覚めると、俺の右手の小指に例の指輪が嵌っていたどうやらご丁寧に、指に合わせて指輪の大きさが変化するという機能付きだったようだ。
右手の小指の理由?チサが何か言ってたけど、俺は自分のことで精一杯で......。ただ、左手の薬指は結婚した時に取っておくと......。うああああああ。やっぱ無し。今のは無し。平常心だ。
俺はかき乱される頭をリセットする。小指の感覚が気になるが一旦無視だ。その後、チサを起こす時、チサの右小指にも俺と同様に指輪が嵌っているのを見て悶えたり、チサの目覚めにドキッとしたりと色々あったのは秘密だ。
そんなこんなで身支度を整えると、外ではそれを待っていたかのようにキラークィを中心としたブラウンエルフ達と、トリス、バッツを含む人間達が待っていた。
「みんな揃ってどうしたんだ...?」
チサを肩に乗せた俺は呆気に取られる。
「どうやら、指輪は無事に渡せたようだな。というか、フォレストアントのボスを倒した後、発掘された時よりも疲れた顔をしているのはどうしてだ?少年。目の下に酷い隈が出来ているぞ。」
キラークィのその言葉に俺は耳まで真っ赤になる。隣を見上げると、チサも少し赤くなっていた。
それを見て周囲から楽しそうな笑い声が上がる。
俺が一生懸命に抗議すると流石に悪いと思ったのか、キラークィは謝罪する。
「ああ、悪かった。悪かった。ただ、少年が昨日倒れた後、お嬢ちゃんから話を聞いたが、この大陸を発つんだってな。それを皆に知らせたら、こうしてこれだけの人数が見送りに集まったってわけだ。」
「みずくせぇじゃねぇか!俺にも別れと改めて礼くらい言わせてくれよ!何も黙っていくことは無いだろう。」
トリスが言う。
「チサのお嬢ちゃんを攫ってすいやせんでしたねぇ...。でも僕だって寂しかったんですよぉ。ジンの旦那が去るって聞いて。」
「お前が喋ったら俺の言葉が軽くなるだろうが!」
トリスが、のらりくらりとした様子で接し方を変えるバッツに向かって言う。バッツは、すぐに掌を返すからね......。
「トリスの旦那ぁ〜それはいくらなんでも辛辣って奴ですよぉ〜」
辺りに再度笑いが起こる。
その後ブラウンエルフの精鋭、話したことは無いが、共にフォレストアント殲滅で戦った者、武器屋の老婆、更には戦闘には参加しなかったけど、礼をという者達と別れを済ませてゆく。
最後にブラウンエルフの子供たちがやってくる。
「チサちゃん!また遊びにきてね!」
「今度こそジンの肩の上に乗せてもらうの!」
「ずるいぞ!俺だって乗りたいんだ。」
「待て待て喧嘩はよすのじゃ。まあジンの肩の上は誰であろうと譲ることは無いがの。」
チサはわざと右手の小指を見せつける様に言う。
子供たちの黄色い悲鳴が上がる......。
その収集に苦労した後、俺に別れを告げにきた数百人にも及ぶ人々に見送られながら、キラークィと共に一つの転移台の前に立つ。そしてそこにキラークィが手をかざすと、一瞬にして海が見える浜辺へと転移する。
俺は一瞬にして切り替わった景色を前にしてキラークィに尋ねる。
「そういえばこの家の腕輪は返さなくて良かったのか?」
「ああ、必要ない。この大陸を救った英雄様なんだからな。またここにくることがあるならばいつでも使って欲しい。そしてな。その腕輪は世界のどこにいようと、この大陸への道を示してくれるだろう。その時に活用してくれ。」
そう言うのならと俺はその腕輪をインベントリに仕舞い込む。
「チサ。頼む。」
「わかったのじゃ。」
そう言うとチサの小さな体から海へ向かって特大の光線が発生したかの様な光が俺の視界を覆う。
俺の肩の上にはチサが、そして、目の前には改めて見ると驚くほどの首の長さと、巨大な4本のヒレ。更には海の向こうまで伸びる尾を持つ巨大な生物が居た。その巨大さはこの大陸にある木々にも負けないほどであった。
その生物は、そう。チサである。チサの本来の姿である首長竜だ。
首長竜は顔を下に下ろす。初めて近くで見るその顔には、チサの顔と同様の切創がついていたものの、その愛らしい瞳はチサなんだなと感じさせるものがあった。
俺はその大きな頭を小さな小さな俺の手で撫でて、抱きしめてやる。
「チサ、次の大陸まで頼むな。」
「うむ!任せておくのじゃ!」
こうして首長竜の頭に乗った俺たちは、次の大陸へと旅立つことになるのだった。背後にはあまりの衝撃に腰が抜けて立てなくなったキラークィを置いて...。
後にこの大陸の結婚式で、この2人の英雄を模して夫が妻を肩に乗せることが流行るようになったそうだが、それはまた別のお話......。
書いてて思ったのですが、そういえばチサの髪の色と目の色描写して無いですねぇ...。
まあ、今更付け加えるのもなんだかなあ...って感じはするので、読者の皆様の卓越した想像力にお任せしたいと思います!(←コラッしょた丼!サボるんじゃねぇ!)
そんなわけで、チサは「美少女」で「のじゃ」で「妾」でこれからもよろしくお願いします!
何言ってんだ( ゜д゜)ポカーン
では第57話もよろしくお願いします!
20/11/30




