第55話 番の指輪
俺は黒影切の過去を老婆から聞いた後、この大陸を出ることにした。まだ、少しフォレストアントの生き残りがいるらしいけど、大元が倒れた今、そう心配することもないのだろう。
俺はその旨を伝える為、チサを肩に乗せたままキラークィを訪ねようと思ったが、ここはブラウンエルフの集落。
つまり、あたり一面木の枝葉が絡まった地面な訳で道順なんか分かりはしない。
(売店は、のぼりが出ていたり、調理なんかで使う火の煙が外に出るからすぐにわかるんだけどなあ。)
そんな風に思いつつもブラウンエルフの長であるキラークィの家の場所を、近くにいるブラウンエルフ達に尋ねながら進んでゆく。俺には全く違いがわからないのだが、どういうわけかブラウンエルフ達は腕輪の道標無しに俺を案内してゆく。
「あー!お兄ちゃんそっちじゃ無いよ!こっちこっち!」
「チサちゃんだけ肩の上いいなあ〜僕も乗せてよ!」
「ふふふ〜駄目なのじゃ。ここは妾の特等席じゃからのう。この場所は誰にも譲らぬ。」
「えー!ずるいずるい!」
「乗りたい!乗りたい!」
そんな感じで俺の周囲に集まった子供達は俺を案内しながらも俺の肩に乗っているチサを羨む。俺は良かったのだが、チサが譲らぬと言い張り、更には水陣まで使って子供達を完全にブロックしていた。
だが、いつのまにか子供達はチサが操る水で楽しそうに遊んでいた。
「ほれほれ〜どうじゃどうじゃ。お魚じゃぞ〜。」
さっきまで俺の肩に乗りたいと駄々をこねていた子供達をここまで一瞬で心変わりさせるか......。
俺は内心とても感心していた。
そうこうしているうちにキラークィの家の近くへやってくると、キラークィは外に出て待っていた。
「外から子供たちの楽しげな声が聞こえたから出て来たが、ジンとチサか。中へ入りなさい。子供たちよ。彼らを連れてきてくれてありがとう。これから大切なお話があるから、他で遊んで来てはくれんか?」
「はーい!チサちゃんまた遊んでね!」
「あんな上手に技能が使えるなんて羨ましいなあ。次は他の生き物も作って欲しいな!」
そんな子供たちを見送った俺は、キラークィを見る。
「クラヒー。」
そう言うとキラークィの体が緑色の光を放ち始め、目の前に穴が空く。エルダーラフと行ったのを見ていたが、やはり神秘的な光景だった。
「ここはブラウンエルフの長と長が許可した者しか入れぬのだ。だからこそここに入るには少し特別な手順が必要なのだ。」
そう言って教えてくれる。俺のような部外者にそんなことを教えても良いのか?そんな風に思うと、
「少年は私達の恩人。この程度のこと教えたところで問題はない。」
俺の考えを見透かした様にキラークィは答えるのだった。
そして中へと案内された俺たちは椅子に座る。チサもこの場では肩の上から降りていた。
「さて、そろそろ来る頃だとは思っていた。」
キラークィはそんな風に言葉を発する。
「ああ、少年の動きについては色々と報告が来ている。それを鑑みれば、この地にとどまる気が無いのは容易に分かると言うものだ。」
そんなところまで報告が上がっていたのかと、俺はその言葉に少し恥ずかしさを感じた。
「妾達は関係を修復したとはいえ、ブラウンエルフの街にいる唯一の人間じゃからのう。目立つのも仕方あるまいて。」
(最近、皆、俺の思考を見透かしすぎじゃないか?)
「ああ、そう言われればそうだね......。」
俺は若干落ち込むも、キラークィが続ける。
「さて、そんな旅立つ前の少年達に、今回の件での報酬は何が良いのかと思ってな。私なりに考えた結果、これを送ろうと思うのだ。」
キラークィは懐から緑の指輪を2つ取り出す。
「これは......?」
俺が尋ねると、
「これは番の指輪。私達ブラウンエルフにとって、結婚指輪として最高級の価値を持つものだ。」
「妾この指輪が欲しいのじゃ!ジンとお揃いの指輪じゃ!指輪じゃ!指輪じゃー!」
チサが物凄く嬉しそうに叫ぶ。
「けけけけ......結婚!!???」
俺は衝撃で目が眩む。チサのことは大切だ。絶対に失いたくないし、必ず護ろうとも思っているだけど......。
(チサは俺の妹みたいなものだし、結婚なんて真まだ早いよね。それに世界を解放するための旅もしなきゃいけないしそれにそれにー。)
ズキッ。
俺は一生懸命目の前の状況を理解しようと頭の中で言い訳をしていると胸に痛みが奔る。
(ん?なんだこの痛みは。チサは妹みたいなもので間違い無いだろう?)
ズキッ。
そんな俺に声がかかる。
「少年!少年!戻ってこい。おい!」
キラークィの声で俺は我に返った。
「ハッ、申し訳ない。あまりの衝撃で我を失っていました。」
そんなジンに若いとはいいもんだ。と羨ましげな顔で見てくるキラークィを置いて俺は話を進める。
「......で、この指輪をお渡しになると言うことは、この指輪には別の効果があるのですよね?」
「そうだな。この指輪には共鳴という効果が入っておる。」
キラークィは言う。
「共鳴はどんなものなのじゃ?」
指輪を見てから浮かれっぱなしのチサは、とても興奮した様子で俺が聞くよりも前に尋ねる。
「共鳴とは!これを身につける者同士が親密であればあるほど、お互いの技と技能の力を増大させる力を持つのだ。どうだ?今の少年達にはぴったりの報酬であろう?それに結婚指輪だからといって、結婚していなければ着けられないという決まりもないだろう?」
言葉の最後に、渋る俺へとキラークィはとどめを指す事をキラークィは忘れなかった。
結局俺は、チサとキラークィの2対1の状況を覆すことは叶わず、その指輪を受け取ることになってしまった。
「あ、そうだ。忘れておった。この指輪は男性から女性へ誓いの言葉を言わねば装備できぬからな。甘酸っぱい光景は儂には耐えられん。別の場所でやってくれ。」
最後のキラークィの爆弾発言で俺は真っ赤になって倒れた。最後視界の端に映るチサが物凄い目をキラキラと輝かせていたのが、印象的だった......。
というわけで、第三章開幕です!
ウブなジンも作者的には書いててとても楽しいです。作者の初恋は...まあ...散りました。ハイ。ジンがとても羨ましいです。
さてこの辺で。では第56話でお会いしましょう!
20/11/30




